ハイブリットワークにおけるコミュニケーション改善のヒントをお伝えするシリーズ「ハイブリットワークに役立つ『伝わる』声の作り方」。最終回は、対面(オンサイト)商談時のお悩み解決方法について、スピーチコンサルタントの轟美穂さんがお伝えします。
はじめに
お客様との対面(オンサイト)商談時、「準備万端で臨んだはずなのに、どうもお客様に響いていないような気がする」と感じることはありませんか?
限られた時間の中では「あれも伝えなくちゃ、これも伝えなくちゃ……!」と前のめりになってしまいがち。しかし自分が話すことばかりに熱が入ると、気づいたら一方的に話していて肝心のお客様を置き去りにしていた、という事態にもなりかねません。
伝えることより、まずは聞くこと
自分が伝えたいことをお客様に聞いていただくためには、まず「相手の話を聞き、心を開いてもらうこと」が重要です。
第2回記事で「ラポール形成」の紹介をした際、コミュニケーションを円滑にし、信頼関係を構築するための第一歩は「この人と話していると心地よい」と感じることだと書きました。
一般的に、人が「この人と話していて心地よい」と感じるのは、相手が自分の話に誠実に耳を傾けてくれるなど「聞く姿勢」が十分にできている時だと言われています。そのため、「自分が伝えたいことを伝えるためには、まず相手の話を聞くことが重要」ということを認識しましょう。
では実際、お客様に「この人は私の話を聞いてくれる」と思ってもらうには、どのようなことに気をつけたらいいでしょうか?
「聞く姿勢」の主なポイントは以下の通りです。
自分が話す分量は全体の3割程度に抑え、7割は相手に話してもらう
2. お客様の話を言葉通りに理解する
こちらの思い込みを排除し、まずはお客様が語る言葉をそのまま受け取る
3. 質問をする際には、主語を相手にする
お客様が自分ごととしてイメージしやすくするよう、「○○様は」とお客様の名前を主語にする
4. 最後にセールスをする
まずはしっかり話を聞いて、その後にプロの立場として意見を言うという流れを作る
お客様の課題・問題解決に役立つ提案として、商品やサービスのセールスをする
商談ではありませんが、私が行っているスピーチコンサルティングにおいても、聞く姿勢を非常に重要視しています。
まず、初回レッスンではすぐに声のトレーニングはせず、時間をかけてヒアリングをしています。何について困っているのか、どう改善したいのかなど詳しく理解することで、その人その人に合ったカリキュラムを組めるからです。もちろんトレーニングする人もコミットしてもらえるので成果が出やすくなり、その結果、顧客満足度も上がると実感しています。
声のコントロールも重要な要素
聞く姿勢ができたら、次は声の出し方や話し方も意識しましょう。
第3回の記事でも触れましたが、対面で人と人が話す時は、空間を共にしてエネルギー交換をしています。商談などでは「自分の声が相手よりも大きい」「自分の話す速度が相手より早い」場合、波長が合わず、相手が心地よさを感じられなくなることがあります。
そこで、ボリュームとスピードをコントロールできるよう、以下のトレーニングを実践してみましょう。
1. ボリュームコントロール
自分の声が大きいことに気づかない人は意外と多いものです。また、力んで話す癖がついている人も、自分で音量のコントロールができない傾向にあります。
柔らかい声を出すための実践トレーニング
(1) ハミング
唇を軽く閉じて、出しやすい高さで「mmmm」とハミングをします。この時、顎や首に力が入らないようにしましょう。3秒から5秒ハミングをして、唇や鼻腔に振動が伝わり響いているかどうかを確認します。
✓ 振動が持続しているか
✓ 息が途切れずに続いているか
の3点に注意をしてハミングしましょう。楽器のチューニングのように、何かをするついでで構いませんので繰り返し行ってみてください。
(2) 文章にハミングを入れる
以下の文の「/(スラッシュ)」部分に「mmmm」とハミングを挿入して読んでみましょう。
/ むかしむかし / あるところに / おじいさんと / おばあさんが / いました。
/ 毎日 / おじいさんは / 山へ芝刈りに / おばあさんは / 川へ洗濯に行きました。
/ ある日 / おばあさんが / 川で洗濯していると / 川上から / 大きな桃が / 流れてきました。
(3) 聞こえ方を変えて柔らかい声を出す
まず、両手を広げ両耳の前に手を当てて話します。さきほどの文章をハミングなしで読んでみましょう。次に、手を両耳の後ろに移動させて、同様に話します。
両耳の後ろに手を当てると、同じ音声でも大きく聞こえませんでしたか? このポジションで大声を出すと、自分で聞いてうるさいと思うはずです。両耳の後ろに手を当てて、やわらかく声を出せるように練習しましょう。
2. スピードコントロール
相手の呼吸に合わせてスピードを調整するトレーニング
会話中に、相手の息継ぎと同じタイミングで自分も息を吸います。次に、相手が話している同じタイミングで1で練習した「mmmm」のハミングを使ったあいづちを打ってみましょう。
1. 相手の話をうながして「mmmm」
2. えっと驚いて「mmmm」
3. 嬉しいことを聞いて「mmmm」
4. 良くないことが起きて「何だって!」という意味で「mmmm」
5. 聞き取れないからもう一回言ってという気持ちで「mmmm」
*拙著『声にコンプレックスがある人のための「伝わる声」の作り方』p89より引用
相手にうるさがられないように、あくまで軽くハミングしてみましょう。話を遮らず、合いの手を入れるようにハミング音を出すことで、相手の話すスピード、間合いなどがわかってきます。
また、自分が話す際は「mmmm」とうなづきながら発話するようにします。例えば「mmmm、そういうことだったんですね」などです。楽器のアンサンブルのように、相手と響き合う会話をめざしてください。
おわりに
ハイブリットワークでの「伝わる話し方」をテーマにお届けしてきた本連載は、以上で終了となります。今後、仕事でますますAI音声を耳にする機会が増えるほど、まだAIでは実現できない人の声の揺らぎや温かみの重要性が高まってくるのではないかと感じています。
皆さまには本連載が、自分の声を使いこなし、ビジネスツールとして活用していただくためのヒントとなれば幸いです。
スピーチコンサルタント/保健福祉学修士。ラジオ局アナウンサーを経て、20年間放送の仕事に従事。2006年より、話すためのボイストレーニング教室・ボイスコネクションを主宰。通訳者、僧侶、教師など仕事で声を多用する人のコンサルティングをするほか、声優養成や耳鼻咽喉科でのボイストレーニングにも携わる。また、チャンネル「ボイスコーチ轟の声とビジネスのお部屋」にて、話し方のヒントなどを音声配信中。著書に「声にコンプレックスがある人のための『伝わる声』の作り方〜声質を活かした話し方で成果を出す!」(メイツ出版)がある。
【ハイブリッドワークに役立つ『伝わる』声の作り方】第1~3回記事はこちらから!