オンライン会議で発言を聞き返されることはありませんか。聞き取りやすい「音質」は、オンラインでの重要なポイントの1つです。それは通訳が必要な会議でも同様。通訳者が正しく聞き取れてこそ、正確な内容に通訳できます。そこで今回は、通訳者向けトレーニング記事も好評なスピーチコンサルタントの轟美穂さんが、オンライン会議で音質を上げるコツをわかりやすくレクチャーします。
はじめに
はじめてサイマルで通訳者向けのボイストレーニングをさせていただいたのは、1998年。その後、様々な職業の方に発声や話し方を指導してきました。以前は想像すらできませんでしたが、今やテレワークと出社を組み合わせたハイブリットワークが当たり前になっています。大きなメリットがある一方で、オンラインでのコミュニケーションに苦戦しているという方も多数いらっしゃるようです。そこで本連載では、ハイブリットワークでの「伝わる話し方」をテーマに、計4回にわたってお届けしていきたいと思います。皆様のヒントになることがありましたら幸いです。
オンラインは音質が一番大事
ZoomやTeamsなど、オンライン会議において音質は最も重要な要素の1つです。
顔やスライドが多少見にくくても説明で補えますし、場合によっては画面をオフにして話すことも可能です。しかし音声が聞きづらいと、聞き手に負担がかかるだけでなく、場合によっては不快にさせてしまうことすらあります。
発言内容がどんなに素晴らしくても、音質が悪いだけで「わかりにくい」と評価されてしまうのはとても残念ですよね。
では、どうしたらいいのでしょうか?
今すぐできる、音質向上3つのポイント
高性能のマイクを使えば音質は格段に向上しますが、お手持ちのマイクでも、少しの工夫と心がけで音質を改善できるコツがあります。それは、マイクが拾う音源、つまり「音声をコントロール」することにあります。
1. マイクを正しく使う
音源を効果的に拾うためには、マイクの距離と位置が大変重要です。
マイクに口を近づけて話すと、マイクが低周波までしっかり拾ってくれて、低音が強調され声に深みが出ます。ただしマイクに近づきすぎるとリップノイズが入りやすくなるため、近すぎず遠すぎずという距離が重要になってきます。マイクの性質によってどの距離がいいか変わってくるので、下記のポイントを意識して適正な距離を見つけてみてください。
- マイクから離れすぎない:音声以外のノイズが入るのを防ぐ
- マイクの正面から外れない:椅子の位置や顔の向きを調整し、マイクが音声を拾いやすいようにする
- マイクに近づきすぎない:リップノイズが入るのを防ぐ
2. ブレスコントロールを意識する
口から息を吸って息継ぎする場合、ブレス音がマイクに入ってしまうことがあります。話す時は「鼻から吸って口から吐く」のが基本です。苦手な方は鼻呼吸を練習してみましょう。詳しい練習法は下記記事をご参照ください。
3. 聞き取りやすい音声を心掛ける
マイクが拾う音源である「音声」をクリアにしましょう。
✓ 語尾まで一定の音声を保つ
息継ぎが少なく一文が長いと、語尾まで息がもたずに音が消えてしまうことがあります。また一気に息を吸って吐くと、第一声で一気に息を出してしまい、最初の音だけが強く、語尾が小さくなることもあるので気を付けましょう。
以下に、語尾まで同じ音量を保てるようにするためのエクササイズをご紹介します。
【短文エクササイズ】
1. 以下の文章を、出しやすい高さの声で一息で読みます。
「地震速報です」
「株主総会です」
「黄色い線の内側でお待ちください」
2. 慣れてきたら、長い文章にもチャレンジしてみましょう。
「国道一号線、環状線ともに事故などに伴う渋滞はありません」
「外に出たらすっかり暗くなっていて、足元が見えず転倒したということです」
✓ クリアな音声を出す
早口になると母音が脱落して、聞き取りにくくなります。このような音声をいくらマイクで拡声しても、聞き取りやすくはなりません。
そこで、母音の長さを均一に発声してクリアなだけでなく声量アップも期待できる簡単なエクササイズをご紹介します。
【母音化エクササイズ】
1. 文章の中の母音だけを取り出して書き出します。
2. 文章と同じイントネーションで母音を読みます。
3. 子音をつけて元の言葉に戻し、徐々にスピードをあげ早口にしていきます。
例文:「時間になりました」
「Ji ka n ni na ri ma shi ta」→「いあんいあいあいあ」→「じかんになりました」
*拙著『声にコンプレックスがある人のための「伝わる声」の作り方』p97 より引用
おわりに
いかがでしたか。ぜひ次のオンライン会議に向けて、実践してみてくださいね。
次回は、共感を高め、説得力をもたせる話し方についてご紹介していきたいと思います。
スピーチコンサルタント/保健福祉学修士。ラジオ局アナウンサーを経て、20年間放送の仕事に従事。2006年より、話すためのボイストレーニング教室・ボイスコネクションを主宰。通訳者、僧侶、教師など仕事で声を多用する人のコンサルティングをするほか、声優養成や耳鼻咽喉科でのボイストレーニングにも携わる。また、チャンネル「ボイスコーチ轟の声とビジネスのお部屋」にて、話し方のヒントなどを音声配信中。著書に「声にコンプレックスがある人のための『伝わる声』の作り方〜声質を活かした話し方で成果を出す!」(メイツ出版)がある。
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