開幕まで1年を切った「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」。万博の華と称される海外パビリオンも、着々と準備を進めています。今回は、参加国の中でいち早く万博参加を表明したオーストリアのパビリオンについて、万博プロジェクト責任者であるアルフ・ネテックさんにお話を伺いました。
自然・歴史・芸術――多彩な魅力にあふれる国、オーストリア
――大阪・関西万博の話に先立ち、まずはオーストリアという国について簡単にご紹介いただければと思います。オーストリアと言うと、モーツアルトやシューベルト、映画「サウンド・オブ・ミュージック」など、音楽をイメージする人も多いかと思いますが、実際はどのような国なのでしょうか。
ネテックさん(以降、ネ):はい。オーストリアは、ヨーロッパ大陸のほぼ中央に位置する連邦共和制国家です。首都はウィーンで、面積は約8.4万平方キロメートル。北海道とほぼ同じ大きさの土地に、約908万人が暮らしています。歴史的にもヨーロッパの中心的な立ち位置となることが多く、現在に至るまで、東西ヨーロッパの相互理解のための橋渡しという役割を担ってきました。
また、オーストリアは多彩な魅力にあふれる国です。「山の国」と呼ばれるほど美しく壮大なアルプスの山々、氷河や湖などの大自然、歴史的な観光名所や芸術作品、そして多彩な料理にホスピタリティーあふれる人々など、皆さんの休暇先としても最適かと思います。
もちろん音楽も、世界的に有名ですね。クラシック音楽、とは言いますが、私たちオーストリア人にとっては、今も日常生活に欠かせない大変身近な存在です。
――オーストリアでは9割以上の方がドイツ語を母語とされているそうですが、ほかにどんな言語が使われているのでしょうか。また、オーストリアは何カ国とも国境を接していて、他の国との往来も多いかと思うのですが、何ヵ国語も話せる方は多いのでしょうか。
ネ:そうですね。母語以外の複数言語を話す人はとても多いと思います。歴史や地理的なつながりから、ロシア語やイタリア語、フランス語やスペイン語を話す人もいますが、一番多いのは英語でしょうか。若い人は特にその傾向が強いようです。
大阪・関西万博出展について
パビリオンテーマ「未来を作曲」に込めた思い
――ここからは万博についてお伺いしていきます。オーストリアと日本は、万博を通して古くから特別な縁があるそうですね。
ネ:ええ。実は、日本が政府として初めて正式出展した万博が、1873年開催のウィーン万博なんです。当時ウィーンでは、文化や建築などで大変な日本ブーム、いわゆるジャポニズムが起こりました。日本開催となる今回の万博では、この特別な縁を、過去も現在も、願わくば未来も持ち続けていけるよう、ステレオタイプを超えたオーストリアの多様性をお見せしたいと考えています。
――パビリオンのテーマは「オーストリア:未来を作曲」とのことですが、コンセプトについてご紹介いただけますでしょうか。
ネ:先ほども話題にも出ましたが、オーストリアは多くの方にとって「音楽」という強いイメージがあります。そこでオーストリア・パビリオンでは、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を、音楽という統一テーマのもと、建物と展示全体で体現していきます。
まず建物正面に、楽譜をイメージした高さ約12メートルのらせん状木造オブジェを設置します。これはオーストリアの木材を用い、両国の企業で作り上げるコラボレーション作品となる予定です。この五線譜から、皆さんをパビリオン内部へと誘う旋律が始まります。
展示スペースでは、日本とオーストリア、過去と未来、自然とデジタル、伝統技術とイノベーションのハーモニーを体感していただける企画をしています。
例えば、ウィーン万博で明治天皇に献上された幻のピアノ「エンペラー」のレプリカを、両国の歴史と絆の証として展示します。日本の楽器メーカー・ヤマハの協力により、遠隔操作でオーストリアでのピアノ演奏をパビリオン内のピアノと連動し、ライブも楽しんでいただける予定です。
また、来場者の方それぞれが、未来をテーマにフレーズを選び、それをもとにAIが音楽を作曲していく、というプロジェクトも実施します。来場者全員で一緒に「未来を作曲」していくことで、世界中の誰もが未来の一員であり、ともに未来を築いていく同じ地球の仲間なのだ、ということをぜひ強く認識していただきたいと考えています。
そしてこの「人々と地球の繁栄、皆でともに未来を作っていく」ことこそが、「未来の社会とはどういうものなのか」という万博のテーマに対するオーストリアパビリオンの答えであり、メッセージなのです。
ちなみに五線譜のオブジェですが、接着剤ではなくネジを使うため、何度も分解し組み直すことができます。これも、今回の万博のテーマである持続可能性を反映しています。このような取り組みから、人はもちろん、自然環境の未来にも思いをはせていただけると嬉しいですね。
――「未来を作曲」には、そのような思いが込められているのですね。ちなみに今回の万博のコンセプトやデザイン、出展内容などはいつ頃から構想されたのでしょうか。
ネ:パビリオン建設計画は2年前から立て始めました。私やチームのメンバーは、音楽を使ってオーストリアの自然や伝統、最新テクノロジーなどの多様性を多くの方に伝えたい、という思いをずっと持っていました。そこから実際にキーアイデアをまとめて建築家に持ち込み、建築会社などとともに方向性を固めていきました。チームとしてこの万博プロジェクトを成功させるべく、実に多くの人たちが関わっています。
過去と現在をつなぐ、大阪開催ならではの特別展示
――たくさんの方々の思いの結晶なのですね。そんなオーストリアパビリオンは全てが見所かと思いますが、ネテック様が「ぜひ来場者の方々に見てほしい」というおすすめをあえて1つだけあげるとすると、どんなところでしょう。特別に教えていただけますでしょうか。
ネ:非常に難しい質問ですね(笑)。あくまで私の個人的なおすすめとしてあげるなら、パビリオン2階に設置する大阪湾を一望できるバーでしょうか。ここで、大阪とオーストリアの絆を象徴する素晴らしい絵を展示する予定なんです。
その絵はエッゲンベルク城※の「日本の間」に展示されている大阪図屏風です。あまりに美しい色彩から、つい最近までレプリカか何かだろうと考えられていたのですが、関西大学やケルン大学などでの共同調査により、豊臣時代のオリジナルであると判明したのです。
保存の都合上、VR展示とはなるのですが、当時の大阪城や城下町の様子を現在の大阪で見ることで、時空や空間を超えたつながりを体感いただけるのではないでしょうか。本当に、宝石のように美しい絵画なので、万博でご覧になった後、いつかぜひオーストリアで実物も見ていただけたら大変嬉しいです。
※オーストリア第二の都市グラーツにあり、ユネスコの世界遺産に登録されている。豊臣期の大坂城と城下町を描いた貴重な屏風絵「豊臣期大坂図屏風」が発見されたことが縁となり、平成21年にエッゲンベルグ城と大阪城との間で友好城郭が提携された。
――ところで、私どもサイマル・インターナショナルは、パビリオン発表会で通訳のご依頼をいただき、対応させていただきました。ご利用いただいてのご感想や、通訳・翻訳サービスに期待することなどを、ぜひお聞かせください。
ネ:大変シンプルなフィードバックにはなりますが、素晴らしい! の一言に尽きますね。とても良い役割を果たしてくれました。今後もぜひこの関係性を継続していきたいと思っています。
130年以上続く、オーストリアと日本の特別な絆
――ここからは、オーストリアと日本のこれまでの、そして、これからの絆についてお伺いていきます。オーストリアと日本の国交は、1869年(明治2年)の 日墺(にちおう)修好通商航海条約締結以来と、大変長い歴史がありますね。
ネ:はい。日本とオーストリアは経済や科学、文化面で大変重要なパ―トナーとして関係性を深めてきました。オーストリアは林業や木材産業で世界的にリードしており、最近の例ですと、500名以上の日本人が研修に参加されるなど、人や物、技術的な交流も盛んに行っています。2025年の大阪万博は、あくまで1つのマイルストーンに過ぎません。今は「Road to Expo」で万博に集中していますが、それ以降の両国の関係も、より強固に築いていけたらと考えています。
――ところで、先ほどオーストリアといえば音楽、というイメージをお話しましたが、逆に、オーストリアの方々が思い描く日本のイメージはどんなものでしょうか。
ネ:この質問ですが、私がマーケティングの講義をしている大学の学生たちに聞いてみたことがあるんです。彼らからは非常に典型的な答えが返ってきましたね。寿司や神戸牛などの食べ物、富士山、新幹線やロボットなどのテクノロジーをあげる学生が多かったです。また一部、国旗という回答もありました。白地に赤い丸、というシンプルなデザインがとても印象に残ったようです。ただ、私自身は日本とのつながりも深く、個人的にも日本が大好きで友人もたくさんいるので、全く違う回答になりますね。イメージではなく、好きなところではありますが。
――ネテックさんご自身がお好きな日本とは、どんなところでしょう。
ネ:とても礼儀正しいところです。本当に、この一言に尽きます。相手を尊重する日本人の性質が、私は大好きです。
国を超えたコラボレーションの場、万博
――ありがとうございます。今後ですが、両国の交流促進に向け、万博期間中に実施予定のイベントなどがあれば教えてください。
ネ:これはまさに今、計画をしているところです。1つご紹介すると、2025年5月23日、オーストリアのナショナルデーにウィーン少年合唱団が万博会場でコンサートを実施します。今後、色々と発表していく予定なので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
――今回の万博を通して伝えたいことや、読者の方へのメッセージがあればお願いします。
ネ:メッセージというより願いなのですが……より多くの方がこの素晴らしい機会を活用して、繋がれたらと考えています。オーストリアだけでなく様々な国のパビリオンに赴いていただき、異なる文化に触れると共に、国や文化が違っても皆が同じ惑星のもとに生きているということを理解していただければ嬉しいです。
また、万博とは「協力やコラボレーションのための対話と交流の場」だと考えています。協力を推進するまたとない機会なので、私達としては――私個人としても、1人でも多くの方が世界中から日本に来て、この機会に、国、業界、分野の境界を超えた協力、さらにはコラボレーションができればと願っています。
というのも、コラボレーションというのが唯一、私たちの異なる課題やハードルを克服する方法だからです。この地球という惑星の未来のために、同じ惑星の住民として、皆でともに集まりコラボレーションしていければと思っています。
――今回の大阪万博を機に、オーストリアと日本との国同士の、また個人的な絆や交流がさらに深まっていくと素晴らしいですね。本日はどうもありがとうございました。
※当インタビューは、オーストリアと日本を繋ぎ、インタープリファイによるオンライン同時通訳で実施しました。
オーストリア連邦産業院万博事務局 代表 兼 政府代表代理
ICT(情報通信技術)分野でキャリアをスタート。Kapschグループをはじめとするグローバルテクノロジー企業やヨーロッパを代表する子供靴メーカー・リヒター社等で経営幹部を歴任。独立後は、様々なプロジェクトでマーケティングやコミュニケーション担当として活躍するかたわら、オーストリア国内外の様々な大学で教鞭も執っている。
■オーストリアパビリオンの情報は公式サイトでチェック!
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