事前資料が通訳案件の成功を左右する!?【そこが知りたい! 通訳サービス】

通訳の依頼時、通訳会社から「事前資料の提供をお願いします」と言われたことはありませんか。実はこの事前資料、通訳者のパフォーマンス、ひいては通訳案件の成功を左右するほど重要な要素の1つなのです。この記事では、スムーズかつベストな通訳のために、どんな資料がなぜ必要なのか、通訳者のインタビューとともに紹介していきます。

通訳パフォーマンスは事前準備で決まる

どんなにスキルやキャリアを積んだ通訳者でも、通訳に臨む際は、必ず事前準備をします。準備の質が当日のパフォーマンスを決めるといっても過言ではありません。その際、重要になってくるのが事前資料の存在です。
ここでは、通訳者が実際にどんな資料をどのように読み込み、通訳に臨んでいるのかを、1つの事例をもとにご紹介します。

通訳事例:社内会議に通訳を入れる場合

ポイント

社内会議では、社内用語やその業種のみで使用される専門用語、これまでの経緯などを踏まえた話題が頻繁に話されます。通訳者は語学とコミュニケーションのプロですが、会議においては部外者で、用語や背景・経緯などの情報を持っていません。お客様からお預かりする事前資料を読み込み、理解することで、会議の準備をしていきます。

お客様に事前共有いただく資料例

お客様からご提供いただいただいた事前資料と、通訳者の確認ポイントは下記の通りです。

 

1. 会議概要・アジェンダ

重要度:★★

  • 会議の主旨を把握。誰が誰に向けた発表か、TV会議等多拠点会議かを確認。
  • 発表者の人数と発表言語(特に日本人が英語で、外国人が日本語で発表するケース等)、時間配分を確認し、通訳者の分担を決定。

 

2. 組織図・参加者リスト・席次表

重要度:★★

  • 英語と日本語の組織図で組織構成を把握しながら、参加者のお名前、所属や役職、どなたに通訳が必要かを確認。
  • 席次表で、自由な議論になった時のために位置関係や発表順を確認。

 

3. 発表者のスライド・手元原稿

重要度:★★★

  • スライド原稿:英語と日本語の両方で読み込み。
  • 手元原稿やメモ:重要なキーワードが含まれることも多いため、事前に把握。

 

4. その他参考資料

重要度:★★
(1) 用語集等

  • 業界の専門用語や略語、社内の独特な用語、商品や部署の名称・略称等を確認。


(2)過去の経緯資料等

  • 継続会議や定例会議の場合、前回の終着点やこれまでの経緯を理解。


(3)URL/カタログ等

  • トピックが進行中のプロジェクトや商品開発等の場合は、関連するURLや商品カタログ等、周辺資料も確認の上、準備。

 

通訳者に聞く「会議通訳にあたっての事前準備と心構え」

実際、通訳者は会議通訳にあたってどんな準備や心構えで臨んでいるのでしょうか。サイマルで活躍するベテラン会議通訳者の冨田文子さんに伺いました。

冨田さん

冨田史子

国際基督教大学卒業。中学3年間ジュネーブインターナショナルスクール、大学在学中 1年間パリソルボンヌ大学へ留学。金融系シンクタンク勤務を経て英語通訳者へ。法廷通訳、放送通訳等を経て、現在は業界、会議形式を問わず対応。会議通訳歴は20年以上

通訳は「発表者の言葉になり代わる」仕事

通訳者の準備とは、事前に関連資料を集め、わからないことを調べ、英語・日本語の両方で読み込む作業です。良くも悪くも、発表者の言葉は、通訳の言葉を介して聞き手に伝わります。その怖さを知るからこそ、私は通訳ブースに入る直前まで、発表者の立場や主張、専門分野について理解し、読み込む努力を続けています。通訳の仕事は「当日のパフォーマンスが3割、事前準備が7割」というのが私の実感で、この7割の質が、会議本番のスムーズな流れの決め手になると思っています。

「このテーマでこの発表者だったらどう伝えるか」を予測

同時通訳では、通常2、3人の通訳者がブースに入ります。通訳者が集中できるのはせいぜい15~20分間なので、分担してチームでサポートしあうのです。チームメンバーで交代しながら、数字や固有名詞のフォローもしています。スムーズな進行が途切れることがないよう、あらかじめ通訳者チームでそれぞれの分担を決めたうえで、事前準備を進めます。私の場合、事前準備は「このテーマでこの発表者だったらどう伝えるか」と予測しながら始めます。発表者が以前に行った講演の動画も参考になります。過去の仕事を業界分野ごとにまとめている独自のノートやファイルも読み直し、また、わからない用語や最新動向についてさらに調べて、随時アップデートもしています。

会議直前ギリギリまで、できる限り準備

私は発表者が使うスライド原稿に、英語・日本語両方で3回、目を通します。もしも発表者がスピーチ原稿を準備される場合は、事前にご共有いただけるとありがたいです。なぜなら、書いた原稿は言葉も選び抜かれていてムダがなく、それを読むスピードは、原稿なしで考えながら話すよりも圧倒的に速くなってしまうため、より入念な準備が必要になるからです。その際、決まった訳が存在するもの(法律の条文等)を引用される場合は、通訳者が勝手に訳を作るわけにいかないので、定訳を確認させていただければと思います。

また当日、現場では、プログラムの変更や最新版スライド等、些細な変更でもぜひ教えていただきたいです。加えて、発表者はご自身の伝えたい意図を十分に通訳してもらいたいとの思いから、手書きのメモでも見せていただける場合が多いです。そんな時は現場の進行を邪魔しない程度に、直接コミュニケーションをとらせていただいています。たとえ会議直前であってもギリギリまで資料等読み込んで、できる限りの準備をさせていただけたらと思います。

現場の空気に溶け込み、発表者と心を合わせて

私が通訳するうえで大切にしていることは、現場の空気やペースを乱すことなく、自然な流れの中で内容理解を助けること。例えばIT系企業の新商品発表会、弁護士によるセミナー、アーティストのトークショー等、すべて雰囲気や話すテンポが違います。お客様のペースに「メトロノーム」を合わせるように、現場の空気に溶け込み、発表者と心を合わせて会議を成功させたい。そのために、精一杯準備をして本番に臨みたいと思っています。

まとめ

以上のように、事前資料の存在は、通訳者の事前準備や会議の成功に大きく関わります。会議をスムーズに進行したり、発表者の意図を正確に伝えるためには、通訳を依頼する際に「資料の事前提供」について考えておくことも大切です。


※この記事は2018年、サイマル・インターナショナル公式サイトに掲載されたものを一部編集し、掲載しています。

 

通訳事業部

目的やご予算など、お客様のご要望をもとに、最適な通訳サービスや通訳者の提案を行っています。また、お客様と通訳者を円滑かつ適切につなげるよう、丁寧で迅速な対応とコミュニケーションを心がけています。

 

 

通訳サービスなら
サイマルへ

サイマルでは、経験豊富な2,000名以上の通訳者と専任コーディネーターが、年間10,000件超の多様なニーズにお応えしています。オンライン会議やハイブリッド開催イベントなど、通訳のことならサイマルにお任せください。