第3回 聞き取りやすくする工夫:言葉の運用と発音【通訳者と声】

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聞き取りやすい日本語の発音、発声は優れた通訳パフォーマンスには欠かせません。このコラムでは、ボイストレーナー、ナレーターとして活躍中の轟美穂さんが、声のスキルアップに役立つ情報を、通訳者特有の課題に触れながら、お伝えします。第3回のテーマは「聞き取りやすくする工夫――言葉の運用と発音――」です。


前回は、通訳者特有の話し方について触れました。今回はその続編として、聞き取りやすくする工夫について考えてみます。

「やりたいこと」と「できること」のギャップを埋める

「今日は冴えている、上手くいくと感じるときほど、途中から口が回らなくなってしまう」という大学の先生がレッスンにいらしたことがあります。講演された際の録音を聞いてみると、確かに話の途中から坂を転げるように早口になり、後半は驚くほどのスピードで何を言っているかさっぱり聞き取れませんでした。超早口になったあたりで脳にスイッチが入って、至福感に包まれ、話すことさえもどかしくなってしまったそうです。

 

「できること⇒発音が崩れないスピード」に「やりたいこと⇒話したいスピード」が釣り合っているかどうか一度調べてみて下さい。通常、人は言いたいことをできるだけ早く言いたいので、「自分の身体ができること=発音が崩れないスピード」に合わせて話すことはなかなか難しいでしょう。しかし聞き手の立場になってみると、聞こえてこないものは言われなかったのと同じです。

母音の脱落対策

日本語は高低アクセントであり、一拍は同じ長さで発音します。拍の長さがバラバラだと、いわゆる「粒立て」が悪い発音になり、聞きづらくなります。そこで、早口により脱落しがちになる母音を均一に発音できるよう練習をすることが必要になります。

 

上手く発音できない単語を沢山集めて、それぞれ母音だけを抜き出してみてください。たとえば、「憐れみ(あわれみ)」だったら「ああえい」になります。「ああえい」と発音してみて、4拍で発音できているか、それぞれの母音の長さは均一かどうかを調べます。苦手な母音が連続している単語は言いにくいはずです。また、「あ」が連続している単語はすべて発音しづらいなどの法則が見えてくるかもしれません。

 

上手なアナウンサーのニュース読みは、早口でも母音をたっぷり発音できていることで、ゆっくり読んでいるように聞こえるものです。

時短対策

迅速に訳出したい時、息継ぎを素早くできれば時短できます。以下の練習方法を参考にしてみてください。

 

1から10まで数えた後、4カウントで息を吸い、また1から10まで数える。

4カウント⇒3カウント⇒2カウントと縮めていき、最後は1カウントも使わずにやってみる。

 

これが上手くできると、早口で話している途中で息が苦しくなる、文末が聞こえなくなるなどの対策にもなります。

表現の工夫

最後に、使う単語を工夫して聞き取りやすくできないか考えてみます。

1. 漢語を避け、平易なことばで

漢語は格調高く洗練された印象を受けますが、聞き取りやすいのは音読みより訓読みです。上述のように早口により母音が脱落してまっている場合、音読みはなおさら聞き取りにくくなります。

(例)実施する⇒行う  事項⇒ことがら

2. 同音異義語

通訳音声だけに頼るときには、同音異義語は聞き取りにくい言葉です。

(例)会場と開場  審議と真偽 

3. カタカナの多用

言語に引きずられてカタカタを多用しすぎると、意味がわかりにくくなります。

4. 言い換え

「上手(かみて)、つまり向かって右側」などの言い換えや補足をします。
聞き手の立場に立って、「わかりやすく聞き取りやすい」という観点で訳出する言葉を選んでみてください。

轟美穂(とどろきみほ)

ラジオ局アナウンサー、TVレポーターを経て、ナレーター、司会者として活躍。プロの通訳者のための日本語パフォーマンス向上講座、放送通訳講座などの講師や、仕事で声を使う人のコンサルティングも務める。2004年より京都在住。ヴォイスコネクション主宰。

【続きはこちらから】通訳者と声 第4回

 

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