聞き取りやすい日本語の発音、発声は優れた通訳パフォーマンスには欠かせません。このコラムでは、ボイストレーナー、ナレーターとして活躍中の轟美穂さんが、声のスキルアップに役立つ情報を、通訳者特有の課題に触れながら、お伝えします。第2回のテーマは「通訳者の話し方:聞き返される理由」です。
前回は声の準備についてというテーマで、日頃から声の状態を良くしておくこと、本番前に声のチューニングをしておくことについてお伝えしました。
今回は、聞き取りやすさについて考えてみましょう。
聞き返される理由
「声を大きくしたいんです」と言ってレッスンにいらっしゃる方に理由を尋ねると「仕事で聞き返されるから」と答える方が少なくありません。「聞き取りやすい」=「声が通る、声が大きい」と連想しがちなのですが、聞き返される原因は、声の大きさの問題だけではありません。
同じ発声に関しても、音量が均一でない、語尾が消える、発音では母音の脱落、苦手な子音がある、他にも語彙や語順の問題など様々です。さらに、職業上での聞き取りやすさを改善する際には、どんな環境や制約的条件の中で、どのようなタスクをこなしているのかを考慮する必要があります。
聞き取りやすさに悩む通訳者の話し方とは?
さて、通訳業務には、いわずもがな「自分ではなく人の話を、正確に、もれなく、しかも迅速に訳出しなければならない」という、他の職業にはないタスクがありますよね。
そのために、聞き取りやすさに悩む通訳者の皆さんには、以下のような課題が生じると感じています。
- 早口である。
- 発音がおろそかになりがち。特に母音の脱落が多い。
- 文章が長い傾向にある。
- 息継ぎの回数が少ない、あるいは息が浅い。
- 文末が聞き取りにくい。
いつ終わるか予測できないスピーカーの話を、日本語の語順で組み立てて訳したり、クライアントが目の前で待っているという心理的圧迫があるのですから、息が浅くなったり早口になったりもするでしょう。通常の原稿を読む場合や、自分で考えて話すスピーチよりも改善が難しい部分があるかと思います。日本語デリバリーの練習に時間を割く余裕がない、改善するまで待っていられない、という方もいらっしゃるでしょう。
確かに、これらの改善のための練習には継続した練習をすることが必要で、それなりの時間がかかります。が、通訳者特有の話し方を拝見してきて、まず実行していただきたい、すぐにできることがあります。
まずはリラックスして呼吸する習慣を!
それは、「ちゃんと吸って吐く」というシンプルなことです。前述のように通訳者の話し方は、一つの文章が長くなりがちです。しかしこれまで拝見して気づいたのは、通訳者の方向けの講座では、息を詰めてしまうか、息が浅い参加者が、他の講座と比べて多いことです。これでは、声が小さくなったり文末の音声が消えたりしても不思議はありません。実際これまでの講座では、「ゆっくり吸って吐く」という練習をした後は、声が大きくなり、より長く声を出せる方がいらっしゃいました。
ゆっくり呼吸しようとするとしんどく感じることもあります。
ある年の会議通訳者向けの講座で、多数の参加者の背中と首がガチガチに固まっている印象を受けました。そこで15分ほど、立ったままの状態で腰から体を折り、ダラっと上半身の力を抜くように前屈してもらったところ、その後の全員での発声練習ではボリュームが上がり、急に声の通りが良くなった方が2名ほどいて、私もご本人もびっくりしたことがありました。背中が緩むと息が吸いやすくなることは私自身も実感しています。
集中したり緊張したりしている時に、気づかぬうちに息を止めていることはありませんか? お仕事の前には、細く長く息を吐いてみる、緊張した現場の後は深呼吸をするなど、1日に何度かリラックスして呼吸をする習慣をつけてみてください。
次に、楽な高さと強さで、「あ~」と声を出して時間を測ってみてください。何秒続きましたか? 20秒持続して続けば大丈夫。はじめは20秒以下でもがっかりしないでください。何回か試しているうちに、コツをつかんで長く出せるようになる方が多いようです。
レッスンでは、呼吸が安定して長く出せるようになったら、吐いた息を効率よく声にするための練習、話すスピードを調節する練習、一息で、単音発声⇒単語⇒文章へと進めていきます。
今回は、通訳者の聞き取りやすさについて生じがちな課題をあげ、その解決の第一歩として、リラックスした呼吸の習慣をつけることをお勧めしました。早速、今日から試してみてくださいね。
ラジオ局アナウンサー、TVレポーターを経て、ナレーター、司会者として活躍。プロの通訳者のための日本語パフォーマンス向上講座、放送通訳講座などの講師や、仕事で声を使う人のコンサルティングも務める。2004年より京都在住。ヴォイスコネクション主宰。
【続きはこちらから】通訳者と声 第3回
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