オンラインでのコミュニケーションで、「相手の本音がわかりにくい」「微妙なニュアンスが伝わりづらい」と感じたことはありませんか。今回は、そんなオンラインのお悩みを解消するためのヒントをスピーチコンサルタントの轟美穂さんが紹介します。
はじめに
前回の記事では、オンライン会議で音質を上げるコツをご紹介しました。皆さん、会議前にエクササイズは実践されていますでしょうか。
■前回の記事はこちらから
今回は、「オンラインで共感を高め、説得力をもたせる」ためのヒントを、今すぐ実践できるエクササイズを交えてお話ししていきます。
対面で話す時、私たちは会話の内容に加え、相手の表情やしぐさ、声の調子など、様々な情報から、相手が言わんとしていることを理解します。そのため、たとえ言葉を発しなくても、その場の「空気を読んで」こちらも臨機応変に対応することができます。しかし、オンラインでは空気が読みにくいため、微妙なニュアンスが伝わりづらく、共感や説得力を高めるには工夫する必要があるのです。
相手を説得するには、まずラポール形成が必要
対面、オンラインを問わず、相手にしっかり話を聞いてもらうには「ラポール形成」が欠かせません。
ラポールとはフランス語で「架け橋」の意味で、クライアントとカウンセラーの相互信頼関係を指す心理学用語です。ビジネスでも、ラポール形成により、顧客はもちろん、チームメンバーや上司・部下とのコミュニケーションが円滑となり、信頼関係を構築することができます。
このラポール形成の第一歩は、「この人と話していると心地よい」という生理的な感覚を持つことではないかと感じています。
一段ずつ階段を上がり、最終的に信頼感につながっていくのではないでしょうか。信頼できる人の話に共感したり、説得力があると感じるのもこのためかと思います。
「空気が読めない」オンラインでは、生理的な心地よさを共有するため、声のトーンや表情など、聴覚的・視覚的なポイントを意識するようにしましょう。
オンラインでは、音声だけの方が共感を得られやすい!?
ところで、オンラインコミュニケーションに関する文献を調べていたところ、興味深い研究を見つけました。
あるアメリカの心理研究*で「年齢や性別、文化的背景が異なる面識のない人同志が、オンラインで3分間会話をする」という実験を行ったところ、音声と映像で会話した時よりも、音声だけで会話した時の方が共感力や相手への感情移入が高まる、という結果になりました。
相手の顔が見えた方が話しやすいのでは? と意外に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この研究では、音声のみの会話の方が共感が高まった理由を下記のように分析しています。
- 表情は個人差が大きいため、初対面の相手の表情を見ただけでは感情を計ることが難しい
- 視覚と聴覚の両方で相手の感情を想像することがマルチタスクになるため、判断スピードや正確性が下がった
一方、音声だけのコミュニケーションでは「何をどんなふうに話したか」を通じて、相手に感情が伝わっているということでした。「どんなふうに話したか」というのは、声のトーン、間、語気、言い回しなどで、それらの些細な変化が相手の感情を知る手掛かりになったというのです。 顔が見えない分、相手が発する音に集中することで、短時間でもお互いの感情が伝わりやすくなり、理解や共感へとつながったと言えるでしょう。
オンライン会議の前におすすめ。効果的なエクササイズ2選
では、映像のあるオンライン会議では、どのような点に気を付ければいいのでしょうか? それは、視覚から感情が伝わるよう、話す際の表情を意識することです。
効果的な表情筋エクササイズを2つご紹介しますので、ぜひ習慣化してみてください。
エクササイズ1: 頬の筋肉を動かす
会議の前に、鏡で自分の笑顔をチェックしましょう。口角を上げるというよりも、頬の筋肉を持ち上げて、頬の位置を高くするイメージです。この筋肉が動いていないと、感情が相手に伝わりづらくなります。会議では、意識して2割増するくらい頬を動かしてみてください。
あわせて下記のエクササイズもおすすめです。これ以上できないぐらいマックスでやってみましょう。
「わおわおエクササイズ」
- 「wow!」を英語で発音するつもりで「わおわお」と言いながら1分間エクササイズします。
- この時に、首に筋が入らないように注意。頬が硬い! と感じる場合は、両手で頬全体をほぐしてから、指で動かしたい方向に誘導すると動かしやすくなります。
エクササイズ2: 目の筋肉を動かす
頬を上げることができるようになったら、目の動きを加えてみましょう。これでだいぶ表情が変わります。
やり方はとてもシンプル。まず、鏡を見て可能な限り目を細めます。そして、頬の筋肉(頬骨筋)を思い切り上に持ち上げてみましょう。
エクササイズ1にプラスすると、いわゆる「相好を崩した笑顔」、顔をほころばせて心から喜んでいる表情になります。
おわりに
いかがでしたか? 表情筋をしっかり動かして話すことで、滑舌もよくなり、声も明瞭になります。相手には見えませんが、音声だけの会議でも声のトーンが明るくなるので、おすすめですよ。ぜひ次のオンライン会議の前に、少しだけ時間を取って試してみてください。
次回は、オンサイトでの講演・プレゼン対策についてご紹介していきたいと思います。
参考文献: Kraus.W.Michael, Voice-Only Communication Enhances Empathic Accuracy: American Psychologist 72(7):644-654, 2017
スピーチコンサルタント/保健福祉学修士。ラジオ局アナウンサーを経て、20年間放送の仕事に従事。2006年より、話すためのボイストレーニング教室・ボイスコネクションを主宰。通訳者、僧侶、教師など仕事で声を多用する人のコンサルティングをするほか、声優養成や耳鼻咽喉科でのボイストレーニングにも携わる。また、チャンネル「ボイスコーチ轟の声とビジネスのお部屋」にて、話し方のヒントなどを音声配信中。著書に「声にコンプレックスがある人のための『伝わる声』の作り方〜声質を活かした話し方で成果を出す!」(メイツ出版)がある。