聞き取りやすい日本語の発音、発声は優れた通訳パフォーマンスには欠かせませんが、マスクをしたまま通訳をすることも多い現在、その重要性はますます高まっています。このコラムでは、通訳者向けのボイストレーニング講座の講師としても活躍する轟美穂さんが、通訳者特有の課題にフォーカスし、声のスキルアップに役立つ情報を紹介します。
前回までは、マスク着用時での話し方について取り上げてきました。今回は、リモート通訳で気になる雑音対策についてご紹介したいと思います。
良い音のための環境設定の工夫
テレワークでは、自分のブレスノイズ、くしゃみや咳から 衣擦れ、ペーパーノイズ、同居人の生活音、サイレン、犬の鳴き声まで、さまざまな「いらない音」が私たちを悩ませます。
これまでは外で働くのが当たり前だったのですから、仕事のための静かな場所を自宅で確保するのが難しいという方もいらっしゃるでしょう。同じ部屋の一角で、同じ時間帯に家族がテレワークしている、というケースもあります。
1.遮音の工夫
今、リモート通訳で使っている場所を見回してみましょう。外からの雑音を、今より防ぐことはできないでしょうか?
具体的には、
・道路に面していない場所に移動する
・窓に服をかける
などです。服がたくさんかかっているクローゼットにこもって、録音をしている人もいる位です。条件を変えて自分の声を録音し、比べてみましょう。
2.マイクを変える
一般的には、PCやスマートフォンに内蔵しているマイクは、無指向性マイクとなっているため、全方位的に音を拾う=雑音を拾いやすいと言えます。
一方、単一指向性マイクは、拾う音の方向が主にマイクの正面となり、それ以外の音は拾われにくくなりますので、雑音を抑えることができます。
最近では、オンライン通話に特化した、手軽に使える単一指向性のマイクが出回っています。USBでPCと簡単に接続できるものや、Bluetoothで飛ばすもの、ヘッドホンとマイクが一体になったヘッドセット型など、種類もいろいろあります。用途に応じて選んでみてください。
さらによりよい音を追求したい方には、音質が良いと言われているボーカルやナレーション向けのコンデンサーマイクを選ぶという選択肢もあります。コンデンサーマイクは会議用のものよりも高価で、さらにオーディオインターフェイスを経由しなければPCに接続できませんので、手間や費用がかかります。しかし、話すプロである通訳者の皆さんにとって、投資する価値はあるかと思います。
3.単一指向性マイクの注意点
次に、単一指向性マイクを使う際の注意点を上げてみましょう。
◆マイクと口の距離に注意
単一指向性マイクは、文字通り指向性が一方向で、マイクから外れた音は拾いにくくなっています。そのため、マイクと口の距離を短くして、さらに一定に保つ必要があります。少しマイクから外れてしまうだけで、音量が変わってしまいますので、聞く側にとってはストレスとなります。
◆「吹き」を防止する
マイクに口を近づけると、当然吹きやすくなりますよね。そこで、マイクに直接息が当たらないよう、位置を高めにしたり角度を変えたりして、直接息が当たらないようマイクを調節してください。さらにポップガードをつけると吹き防止になります。
参考までに私自身が工夫していることをご紹介しますと、fやs、bなどの「吹きやすい音」を発音するときは、息を当てる方向をマイクの正面からわずかに横にずらしています。また、原稿を眺めているとだんだん姿勢が前傾してくる癖があるため、ポップガードに唇を近づけるようにして口の位置を決め、マイクとの距離が変わらないように心がけています。これは正しい解決法というわけではなくて、あくまでも私流の工夫の仕方です。皆さんもお仕事をしていく中で、自分にあったやり方を見つけて下さい。
4.その他の注意事項
ここまで気を付けたら、さらに、もうひと工夫してみましょう。
◆マイクの正面にノイズが出るものがあれば取り除く
PCやスピーカーはマイクの後ろに設置します。換気扇やエアコンがマイクのすぐ前にある場合は、マイク位置を変えます。
◆紙の資料をめくるときの手は、マイクが音を拾いにくい位置で
資料のペーパーレス化は、ノイズ防止という観点からも非常に良いと思います。
◆音質を良くするため、ラグや絨毯、テーブルクロスを敷く
おしゃれな大理石やリノリウムの床、ガラス、コンクリートは音を反射させ、反響や残響が出てしまいますので、要注意です!
今回は、音を良くするための環境設定としての雑音対策を取り上げました。
リモート通訳では、音質も含めてパフォーマンス力として評価される、という傾向があるかと思います。できる範囲で、良い音を出す工夫を心がけてみてください。
ラジオ局アナウンサー、TVレポーターを経て、ナレーター、司会者として活躍。プロの通訳者のための日本語パフォーマンス向上講座、放送通訳講座などの講師や、仕事で声を使う人のコンサルティングも務める。2004年より京都在住。ヴォイスコネクション主宰。
【続きはこちらから】通訳者と声 最終回
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