オンサイトでの講演・プレゼン対策【ハイブリットワークに役立つ『伝わる』声の作り方】

「オンラインに慣れすぎて、対面や会場(オンサイト)でのプレゼンに自信が持てない」というお悩みはありませんか。スピーチコンサルタントの轟美穂さんが、オンサイトで「伝わる声」の作り方や気を付けたいポイントをご紹介します。

はじめに:オンサイトで話すことに緊張や不安を感じたら

5類移行後、出社の機会やオンサイトのイベントが増えてきました。久しぶりに対面でプレゼンや講演をする、という方も多いのではないでしょうか?

さて。ここで皆様に質問です。
オンライン会議では、画面に映る上半身だけきちんと整えて、下はジャージを履いていた、なんてことはありませんでしたか?

お恥ずかしいのですが、かくいう私も、オンライン会議やセミナーで身支度を整えるのは、いつも開始5~10分前でした。髪はまとめて前髪だけを整える。ジャケットを羽織るか、襟元がきちんと見えるブラウスを着る。仕上げに長めのアクセサリーを首からばっとかける。これで完了です。

身支度の時短ができた分、話す内容の整理や資料の見直しをする余裕ができ、オンライン会議は本当に効率がよくて助かる、と思っていました。

しかし先日、久しぶりにオンサイトのフォーマルな会場で話すことになった私は、以前の感覚をすっかり忘れていることに気づきました。
「本番に向け、どんな準備をしていたんだっけ? どういう服装で、どう振る舞っていたんだっけ……」  
そして本番中も、私はちゃんと話せるのだろうか? とこれまでになくひどく緊張してしまったのです。

久しぶりにオンサイトで話すことになり、私と同様、戸惑いや不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。でも、ご安心ください。ブランクがあっただけですから、リハビリするつもりで準備をすれば大丈夫です。

オンライン生活による話し方の変化

そもそも、オンライン生活で話し方にどのような変化があったのでしょうか。

  • 隣の部屋に家族がいるので、声を抑えるようになる
  • 座って話すため、身体の動きも吐く息も小さくなる
  • 長時間PCに向かっていて、前屈みで胸が縮んだ姿勢になる

 

これらの結果、「ボソボソした覇気のない」話し方(がクセ)になってしまった、という人が多く見られます。

しかし、対面でのプレゼンテーションは、話者と聴衆が同じ空間で経験をともにするエネルギー交換の場です。好きなアーティストのコンサートを、高いお金を払ってでもライブで会場に見に行くのは、生の歌を聴き、会場の一体感や感動を味わいたいからではないでしょうか。

講演やプレゼンもライブのステージです。あなたの話に集中・共感してもらえるよう、全身を使ってエネルギーを放出し、会場をひとつにまとめあげましょう。

オンサイトで自信をもって話すための実践3ステップ

ここからは、オンサイトで自信をもって話せるようになるための実践方法を3ステップでご紹介します。簡単なので、すぐ試してみてくださいね。

ステップ1: 体も使って声を大きくする

両肩を思いきり上げた後、勢いよく下げながらため息をついてみてください。いつもより大きなため息がつけませんでしたか?  このように身体の動きと呼吸を連動させることで、大きな声が出せるようになります。

下記のエクササイズをやってみましょう。ひとつの動作がうまくできるようになったら、次の動作へ、と段階的にチャレンジしてみてください。

1. 肩を大きくあげて、下げながら「ハーっ」と息を吐く

肩を下げる動きと吐く息が連動しているのを確認できたら、「ハァーッ」と声に出してため息をつきましょう。

2. 肩を下げる動きと共に膝を曲げて、「ハァーッ」と声に出してため息をつく

膝に力を入れず、軽く動かすのがポイントです。膝に痛みや故障がある場合は、無理をせず、腰だけを落とすようにしてみましょう。

3. 肩の動きを止めて膝だけを曲げてみる

おへそに手を当て、「ハァーッ」と声に出してため息をつく時に、手を当てたおへそ周りを中心に背中側にお腹をくっつけるようにへこませましょう。
※鏡で観察すると、肩の位置と上半身はそのままで、膝が曲がり腰を落としたように見えます。

4. 徐々に動きを小さくしつつ、声を出して大きなため息が吐けるように練習する

下半身の動きと呼吸が連動させられると、腰を少しひねるだけで吐く息の調節ができ、音量を変えることができるようになります。

 

ステップ2: 聴衆を意識して話す・動く

体の動きに合わせて大きく息を吐けるようになったら、次は聴衆を意識して話すトレーニングです。

「もうこれ以上大袈裟に出来ない」と思うぐらいの身振りと声量で、当日と同じ内容でリハーサルをします。その際、一度、子供番組の歌のお兄さん、お姉さんになったつもりで、はっきりゆっくり子供たちに話しかけるようにやってみましょう。

もちろん実際の聴衆は子供ではありません。しかし「小さな子供に説明する」と設定することで、早口になるのを抑えられます。緊張のあまり、つい自分のペースで切れ目なく早口で喋ってしまい、気づいたら聴衆を置き去りにしていた……ということがないよう、話すスピードやトーンを意識しましょう。また聴衆は、あらかじめ話の内容を理解している話し手と違います。その日が初めての、しかも耳から得る情報で理解しなければなりません。このトレーニングで、つねに「初めて聞く相手がわかりやすいよう」意識することを習慣化しましょう。

1. 動作のポイント

動きと言葉を別々にすると存在感や落ち着きがでます。
例えば演台まで歩いたら、一回止まってから正面を向く。お辞儀をし、拍手が鳴り止んでから話しはじめる、と言った具合です。
逆に歩きながら話すと、ライブ感や躍動感が出ます。TPOに合わせて使い分けてください。

2. 目線のポイント

つい前列ばかりを見がちですが、会場を四分割し、アルファベットの「Z」か「X」を描くよう、順番に視線を動かしましょう。あまり早く視線を動かすと落ち着きなく焦った印象になりますので、ゆっくり行います。

つねに行う必要はありません。スライドの説明をしている時は聴衆もスライドを見ているので、それ以外の時に、会場全体に目線を配るようにしましょう。この時に目線の向きに合わせて体も動かすようにすると、場をつかんだプレゼンテーションになります。

ステップ3: 想像力も使って心の準備をする

仕上げとして、もし可能であれば、事前に会場の下見をすることをおすすめします。実際の空間で、当日の動作を確認することで、心の準備ができます。本番の会場と同じような場所でも効果があります。

会場の下見ができない場合は、想像力を使いましょう。目を閉じて、会場の様子をイメージします。客席、照明、マイクの位置などを具体的に思い浮かべてください。そして、その空間で自信を持って話をしている自分、「良かったよ!」と褒められている自分をイメージしましょう。これは、スポーツなどでも使われているビジュアライゼーションです。寝る前に行うと、朝起きた時にもイメージが持続していているので効果的です。

また当日は、会場に少し早めに到着し、空間に慣れる時間を作って、原稿だけでなく、心の準備もしっかり行いましょう

 

おわりに

いかがでしたか。オンサイトで講演やプレゼンする際は参考にしてみてください。次回もオンサイトでのヒントをご紹介していきたいと思いますので、ぜひお楽しみに。

 

 

轟美穂(とどろきみほ)

スピーチコンサルタント/保健福祉学修士。ラジオ局アナウンサーを経て、20年間放送の仕事に従事。2006年より、話すためのボイストレーニング教室・ボイスコネクションを主宰。通訳者、僧侶、教師など仕事で声を多用する人のコンサルティングをするほか、声優養成や耳鼻咽喉科でのボイストレーニングにも携わる。また、チャンネル「ボイスコーチ轟の声とビジネスのお部屋」にて、話し方のヒントなどを音声配信中。著書に「声にコンプレックスがある人のための『伝わる声』の作り方〜声質を活かした話し方で成果を出す!」(メイツ出版)がある。