スキルアップのために必要な知識や情報、日々の仕事での失敗や成功のエピソードなどを、英⇔日翻訳者がリレー形式で執筆します。今回のテーマは、翻訳作業のその先の「見た目」について。それは読み手にどのような影響をもたらすのでしょうか……?
翻訳の「見た目」とは
今回は少し視点を変えて、「見た目」という点から翻訳を考えてみたいと思います。
翻訳作業そのものは、使われる環境や用途、読者などを考えながら、原文の意図やニュアンスが適切に伝わるように、ターゲット言語の文脈でそのまま使えるように、工夫を凝らしながら訳文を作ることです。私たち翻訳者の仕事はここまでなのですが、実はこの先のプロセスも、翻訳が効果的に使われるかどうかの重要なカギとなります。
一例として、英文制作物になるケースについてお話しします。日頃翻訳のリサーチ作業をする中で、日本で作られた英文の制作物を見る機会がよくあります。私はその内容もさることながら、「見た目」がとても気になります。もちろん、きちんとデザインされたものもありますが、中には「決められたスペースに文章を収める」ことに考えが集中しているためか、字が細かすぎたり、文字と文字の間や単語と単語の間が詰まりすぎていたり、または空きすぎていたりと、読む人の目線に立った「読みやすさ」に考えが及んでいないのではと思うケースがあります。字の大きさについては、対象言語によって文章量に違いが出るため、訳文を作る段階でまず情報をどう整理するかという問題もあります。
見た目の違い3例
文字組の例 その1(まずまずのバランス)
文字組の例 その2(字が詰まりすぎ)
文字組の例 その3(字間・行間開けすぎ)
※上記3例は、いずれも同じテキストを使い、字間等の調整だけで違いを作っています。
まとめ
英文を読む人は、単語を構成している文字をひとつひとつバラバラに見ているのではなく、単語全体の形を見ています。その単語も単語同士に適度なまとまりがないと、そこで伝えたい考えが読者の頭に入っていきにくくなります。翻訳者が工夫を重ねた訳文も、その後の加工の仕方によっては、メッセージをちゃんと届けるという点で、効果があまり出ない可能性もあるのです。内容そのものはもちろん、「見た目」も文書の理解度に大きく影響を与える要素なのです。
翻訳者には自分たちの訳文が最終的にどのような形で出てくるのか、見届ける機会はあまりありません。それだけに、その後のプロセスに携わる方々にはぜひ「読者の目線に立った」読みやすい文章組を心がけていただきたいと思います。
(注)この記事は、2013年10月に「サイマル翻訳ブログ」に掲載されたものです。
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