私のリモート環境――リモート通訳を安心・快適に行うために

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Web会議やウェビナーなどの増加で、リモートによる同時通訳が必要な機会が増えました。通訳者はリモート通訳のため、どのような環境整備や工夫をしているのでしょう。今回は、会議通訳者として活躍する谷山有花さんの例を、自宅のリモート環境とともに詳しく紹介してもらいます。

はじめに

2020年2月頃、日本でも新型コロナウィルス感染症が拡大し始め、一時期は通訳の仕事のほとんどが無くなり予定表が真っ白になりました。その後、同年夏の終わり頃からリモート通訳の案件が徐々に増えてきました。数か月は(当時は長くても半年くらいだろうと思っていました)自宅でリモート通訳をすることになるだろうと考え、リモート通訳のための環境を整えてきました。今では子供に「ママはYouTuber」と言われるような環境になっています(笑)。今回は、これまでの自宅の通訳環境の変遷についてご紹介します。

2020年夏:本格的な整備スタート

◆クリエイターパソコンの購入

2020年夏頃までは、マイクロソフト社の「Surface Go」というノートパソコン1台とスマートフォンで何とかリモート通訳に対応していましたが、自宅からの同時通訳の仕事も増えてきていたため、本格的に環境を整備し始めました。あるRSI(Remote Simultaneous Interpretation: 遠隔同時通訳)の説明会で、パソコンは「クリエイターパソコン」と呼ばれる高性能なものが良いと知り、「raytrek AS」というデスクトップPCを購入しました。重視した点はCPU/GPUの性能とメモリ容量です。ZoomやTeamsでも、Web会議中に動画再生などが行われるとかなりメモリを消費しますし、Webブラウザを使ったRSIプラットフォームでも、メモリ容量16GBを推奨しているところがほとんどでした。

◆当時使用していた機材とデバイス一覧

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上の画像が1年前の自宅での通訳環境です。
(1)のデスクトップPCで本会議に参加し、そこで日本語で話されている内容を(2)の「Surface Go」で接続している通訳専用回線に英語で訳出します。同時通訳では自分が訳していない時はパートナー通訳の声を聞く必要があるので、本会議のオリジナル音声と通訳専用回線からのパートナー通訳の声を一つのイヤホンで重ねて聞けるよう、(3)「Maker Hart Just Mixer S」というミキサーを使っています。複数PCからの音声を一つのイヤホンで同時に聞けて、各音源の音量を独立して調節できるのが便利です。

(4)のマイクはオーディオテクニカの「AT2020」。USB接続ができ、大変音質のよい単一指向性マイクです。6つのボタンがある(5)の黒いデバイスはElgatoの「Stream Deck」。各ボタンにショートカットキーを登録しておくことで、PC操作がボタン一つで簡単にできます。ミュート/ミュート解除、ビデオオン/オフ、音量調節などのボタンがあります。複数のプロファイルを設定できるので、Zoom用、WebEx用などを登録しています。特にZoomの同時通訳機能を使って通訳をする時は、マイクのミュート/ミュート解除だけではなく通訳言語の切り替えも必要ですが、マウスで操作すると時間がかかるうえに腕も疲れるため、この「Stream Deck」が大活躍しています。

(6)は富士通のデジタルペーパー「クアデルノ」です。とても軽量で、付属ペンでの書き込みは、紙に鉛筆で書いているような使用感のデジタルペーパーです。バックライトがないので目に優しく、大量の資料を読んでも目が疲れません。ただしPDFファイルのみの対応で白黒表示のため、色付きで見たいプレゼン資料などにはあまり向いていません。私は文字の多い大量のドキュメントを読むときに、このデジタルペーパーを使っています。

このようなデバイスや機材を購入する際、非常に役立ったのが通訳者同士の情報交換です。この1年強の間、常に情報交換することで、自分では考えつかなかったような機材の使い方などを学べました。先日、リモート通訳に関してセミナーでお話しする機会があり、通訳仲間の自宅でのリモート通訳環境も写真を交えてご紹介しました。私自身、通訳仲間の机のスペースの使い方などに感銘を受けて自宅の環境をアップデートしました。セミナーに参加された方々にも参考にしていただけたのではと思います。

2021年:さらなる安心・快適を追求して

◆使用機材とデバイスの変遷

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こちらが現在の自宅での通訳環境です。
昨年購入した(1)に加え、最近(2)のノートパソコンを購入しました。これまで愛用してきた初代「Surface Go」は、マイクロソフトからリリース予定のWindows11にアップグレードできないため「raytrek R5-TA5」というノートパソコンを購入しました。ノートパソコンで問題になりがちなファンの音もとても静かですし、性能も使い勝手も申し分ないです。最近ではこちらをメインに使っています。
デスクトップPCは誤って電源ケーブルが抜けるとすぐ電源が落ちてしまいますが、ノートパソコンの場合は充電されたバッテリーによって、しばらくは電源が切れずに済みます。また、私のデスクトップPCはWiFiに対応していないのですが、ノートパソコンは有線LANが途切れてしまってもWiFi接続できるので安心です。

(3)は以前から使っている「Surface Go」で、今はパートナー通訳と共有する「Chronograph」というWebタイマーを表示したり、単語帳を表示するのに使用しています。(4)は資料閲覧用の「iPad Pro」です。

(5)は昨年購入したオーディオテクニカのマイクですが、以前の三脚だと机の上のスペースをとるため、マイクを空中に固定するアームを購入しました。机の上がすっきりしただけではなく、マイクが口元に来るため声がより届くようになり、机の上でメモを取る音や振動を拾ってしまうこともなくなりました

(6)はサンワサプライ社のミニUSBマイク。サブマイクとして用意しています。単一指向性のUSBマイクで、手元にミュートボタンもあり、小さいのに優秀なマイクです。(7)は先ほど紹介した「Stream Deck」、(8)は「Maker Hart Just Mixer 2」です。前に使っていたミキサーよりも音質がよいので交換しました。

◆机上スペースの有効活用

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現在意識しているのはスペースを立体的に活用することです。通訳仲間からノートパソコンをスタンドに置くことで机の上のスペースを有効活用する方法を教えてもらい、スタンドも購入しました。私は仕事部屋がなく、寝室の片隅にデスクを置いています。Web会議で通訳者もビデオで顔を出すこともあるので、壁を背に座るようデスクを置くことで、ビデオの背景には壁しか映らないようにしています。この狭いスペースを有効活用できるよう、これからも工夫していきたいです。

おわりに:リモート通訳の今後

働き方などによって人それぞれだと思いますが、私の場合、2021年1月から6月に担当した通訳の仕事のうち、全体の45%が自宅からのリモート通訳でした。今後はどうかというと、新型コロナの収束にはまだ少し時間がかかりそうですし、収束後もリモート通訳の需要はある程度残るのではないかと思います。もちろん対面で行わないと十分な結果が得られない会議も多くありますが、リモートで効率よく会議を行うという選択肢も残るのではないでしょうか。

通訳者にとって、自宅でのリモート通訳は不安も多く、通訳をすること以外に気を付けることが多くて大変です。「突然インターネットが切れたらどうしよう」「パソコンが故障したらどうしよう」などの心配はありますが、通訳者としてできることは、できる限りリスクを低減できる環境を整備することだと思います。例えば有線LANでインターネット接続することやRSI推奨のスペックのパソコンを使うことなどです。継続的に環境をアップデートしていくことで、安心してリモート通訳のお仕事を引き受けられるように努めていくことが、コロナ禍での通訳者としての新たなチャレンジだと思います。これからも通訳仲間と情報共有をしながら楽しく前向きにチャレンジしていきたいです。



 

谷山有花
谷山有花(たにやまゆか)

2005年にサイマル・アカデミー通訳者養成コース修了。IT企業での社内通訳、サイマル・インターナショナルの専属通訳者を経て、現在はフリーランスの会議通訳者として様々な分野で活躍中。サイマル・アカデミーでの講師歴もあり、インターネット講座の講師も担当。

 



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