レベルやキャリアを問わず、関心の高い「英語の発音」。英語音声学や発音指導のプロである青山学院大学准教授の米山明日香さんが、その上達のコツを、テーマごとに詳しく解説します。今回のテーマは「発音上達のために必要なこと」です。
自己流の発音から脱却する
「通訳者と発音」の第1回では「正確に発音する重要性」について、第2回では「明確な発話の重要性」についてそれぞれ述べました。
今回は、発音が上達するためにはどのようにすればよいかということについてお話しします。
まず、発音を向上させたいと考える場合に大切なのは、正確に発音することです。そして正確に発音する際に心がけることは、思い込みによる発音を避けることです。どういうことかと言いますと、知っている単語ほど、思い込みによる発音、言い換えれば、自己流の発音をしていることが多いものです。
例えば、“bonus”という単語は、日本でも一般的に使われる語です。しかし、正確な発音は[ボーヌス]ではなく[ボゥヌス]です。何が違うのかというと、母音の“o”は[オー]という長母音ではなく、[オゥ]という二重母音なのです。こうしたことに少しだけでも気を配ってみると、発音は格段に良くなります。
辞書をこまめに引く習慣をつける
最近は、音声機能付き電子辞書という便利なものがありますので、多くの通訳者や英語学習者がご愛用のことと思います。発音を向上するためには、電子辞書で発音を聞いて確認することも非常に良い習慣ですが、電子辞書や紙の辞書で発音記号をまめに引くこともとても重要です。
なぜなら、例えネイティブスピーカーや音声機能付き電子辞書が正確に発音していたとしても、それが正確な発音だと認識できていなければ(「正確な input」として認識されなければ)、正確な発音として発音する(「正確な output」)ことはほぼ不可能だからです。先ほどの例でいうと、音声の出る電子辞書が[ボゥヌス]と発音しても、英語学習者本人が[ボーヌス]と理解していれば、output は[ボーヌス]になってしまうというわけです。
第2回でも触れましたが、通訳者が通訳を行った場合、発音が正確でなくても、意味の理解には影響を与えないと考える方もいると思いますが、細かい発音の相違が、やがては「発話全体のリズム」という大きなまとまりに影響を与えてしまいますし、違った意味にとられかねないので、日ごろから細かい発音にも意識を配りたいものです。
また、同時に注意したいのは、つづり字と発音の関係です。簡単な例をあげると「襟」を意味する“collar”は[コラー]ではなく[カラー]です。もう少し難しい単語で言えば「起訴」を表す“indictment”は[インディクトゥメントゥ]ではなく[インダイトゥメントゥ]となります。
なお、同じつづりの単語でも、意味が異なると発音も異なることがありますが、そうした場合にも注意が必要です。例えば“row”は「通路」の意味では[ロゥ]と発音しますが、「騒々しい喧噪、騒動」という意味の場合は[ラゥ]と発音します。
こうした相違もあるため、辞書をこまめに引く習慣を身に着けることが発音向上の近道の一つと言えるのです。
※この記事は2013~2014年にCAISウェブサイト内『通訳情報ステーション』に掲載されたものです。
青山学院大学社会情報学部准教授博士(文学)。専門は英語音声学、英語教育、発音指導、英語プレゼンテーションなど。大学卒業後、英国University College Londonに留学し、音声学修士号(MA in Phonetics)を取得後、日系航空会社勤務、通訳者、大学講師などを経て現職。公式ブログ:http://blog.livedoor.jp/bihatsuon/
【続きはこちらから】英語母音の攻略法
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