レベルやキャリアを問わず、関心の高い「英語の発音」。英語音声学や発音指導のプロである青山学院大学准教授の米山明日香さんが、その上達のコツを、テーマごとに詳しく解説します。今回のテーマは「明確な発話の重要性」です。
英語発音における個人のクセ
前回は「正確に発音する」重要性と「発音は個々の音だけではない」ということについて述べました。
今回は「明確な発話」の重要性についてお話しします。
CAISで英語発音を教えるようになって、気づいたことがあります。それは受講生の発音上の問題は、発音だけではなく、発話上の問題もある場合があるということです。どういうことかと言いますと、英語発音をする際に、個人特有のクセがあることがあるのです。
たとえば、
- つづり字上、“r”がないのに、どこかしこに“r”を入れて発音する(たとえば、pendulum という発音をした際に、perndulerm のように発音する)
- (日本語のときはそうではないのに)英語で発話する際に、鼻声で発音する
などです。
こうしたクセは、英語発音をうまく発音しようと思うばかりに、不要な発音をしてしまうことによるものです。これは日本人の英語学習者にしばしば見られる悪いクセなのですが、学習者本人も、指導者も、それが悪いクセであると意識していないことが往々にしてあるのです。
なぜ意識していないかというと、俗な言い方になりますが、こうしたクセを「英語っぽい発音」であるという誤った認識を持っている学習者が多いためです。指導者の多くも指摘をしないようですし、学習者本人も「英語っぽい発音」と思って発音しているため、発音上のそうした特徴を悪いクセだととらえていないのです。
発音のクセを直すべき理由
では、なぜこれらのクセが悪いのかと言いますと、理由は2つあります。
まず、このクセがいったん身に付いてしまうと、矯正するのが大変難しく、矯正する場合には長い時間を要するからです。したがって、悪いクセをできるだけ身に着けないように、普段から心がける必要があります。
次に、これらの特徴は聞き手にとっては、大変聞きにくいからです。“r”の音が過度に強すぎたり、また鼻声で発音してしまったりすることから、本来の音がこうした特徴によってマスキングされて、明確に伝わらないという弊害を招きます。
外国語を話す場合において、話し手が意図した音が聞き手に伝わらないということは、意図した意味も当然伝わらないということです。つまり話し言葉の場合、音があって意味があるのです。具体的に言えば、通訳者にとって、通訳したものが聞き手に正確に伝わらなければ、どんなに正確な通訳をしたとしても、それは結果として良い通訳とは呼べないのではないかと思います。
ところで、通訳者はマイクを通して通訳する場面も多いものですが、マイク自体がそもそもマスキングの役割を果たしています。つまり、先ほど述べたような特徴があるまま、英語でのアウトプットをした(通訳した)場合、マイクを通すと、その特徴と相まって、さらにぼやけた音を発する結果につながってしまいます。ですから、正確に発音することこそが聞き手にとって「聞きやすい発音」となるわけです。
そのため通訳者は、自分にこれらの悪癖がついていないかを確認し、通訳(パフォーマンス)することが必要ではないでしょうか。
※この記事は2013~2014年にCAISウェブサイト内『通訳情報ステーション』に掲載されたものです。
青山学院大学社会情報学部准教授博士(文学)。専門は英語音声学、英語教育、発音指導、英語プレゼンテーションなど。大学卒業後、英国University College Londonに留学し、音声学修士号(MA in Phonetics)を取得後、日系航空会社勤務、通訳者、大学講師などを経て現職。公式ブログ:http://blog.livedoor.jp/bihatsuon/
【続きはこちらから】発音上達の近道とは
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