聞き取りやすい日本語の発音、発声は優れた通訳パフォーマンスには欠かせません。このコラムでは、ボイストレーナー、ナレーターとして活躍中の轟美穂さんが、声のスキルアップに役立つ情報を、通訳者特有の課題に触れながら、お伝えします。第4回のテーマは、「強調」を用いて聞き取りやすく話す方法についてです。
前回は、聞き取りやすくする工夫として、母音の脱落を防ぐことや、聞き取りやすい表現を 心がけることなどについて書きました。 今回はその続編として、音声的な強調のスキルを取り入れて、聞き取りやすくする方法を考えてみます。
プロミネンス
プロミネンス(Prominence)は、アナウンスの基礎スキルの一つであり、「卓立」と訳されています。文中の特定の語を際立たせることにより、聞き間違いや聞き落としがないようにしたり、その言葉に特別な意味合いを持たせることができます。
早速例題をやってみましょう。
「あげるんじゃない、貸すだけだからね」というメッセージを強く伝えるために「貸して」 をプロミネンスしてみましょう。「貸して」の音をどのように変化させて強調しますか?
① 高くする
② 強くする
③ ①と②の混合
で変化させる方が多かったのではないかと思います。 他には、
④ ゆっくりにする(母音を長くする)
⑤ 間を置く
⑥ 音量を大きくする
などでもプロミネンスになります。 上記の方法を組み合わせればプロミネンスには無限の表現が生まれるのですが、生徒さんを拝見していると、多くの方が常に使い慣れた同じ組み合わせでプロミネンスをしているようです。見方を変えると、そこにその人らしい話し方が生まれ、個性的な彩りを表現することができるともいえるでしょう。
対比が大事
真っ赤なペンは、濃いピンクの紙の上に置くよりも、白い紙の上に置く方が目立ちます。 プロミネンスをする上でのポイントは、このように、強調すべき語とそうでない部分の対比をしっかりさせることです。
ここで注意したいのは、強調しようとするあまり、すべての語を強く、高く、長くしてしま う方が多いことです。プロミネンスをしたい語だけを強調できるよう練習しましょう。 具体的には、「これ以上できない」くらい激しく差をつけてみてください。本人は非常に大げさな表現をしているつもりでも、聞き手にはさほど変化が感じられないことが多いものです。 録音して、確かめましょう。
弱い表現でもできる
次に、対比のさせ方を変えて、弱い表現でプロミネンスしてみます。 プロミネンスしたい語を「低く、弱く、早く」 し、文中の他の部分を「高く、強く、ゆっ くり」にしてみましょう。
下線部分を、「 低く、弱い声」で言ってみてください。 不思議と、「低く、弱く」プロミネンスすると、ひそひそ話や、密室での会話のような印象を醸し出し、ストーリー性を感じるようになります。主観的・個人的な印象になりますので、ビジネスシーンではあまり使う機会がないかもしれませんが、日常会話などでぜひ使ってみてください。
意味の程度を強調する方法
プロミネンス以外では、 「その語の意味合いを強める」ことで強調する方法があります。
「本当に行くのがいやだ!」、という気持ちを込めると、ため息まじりになったり、吐き捨 てるような言い方になったりするでしょう。泣きが入るかもしれません。
喜んでガッツポーズをする、あるいは飛び跳ねながら言えば、体の動きに伴って息の吐き方 が変わり、より嬉しい意味合いが強まります。 この意味合いを強める方法も「低く、弱く」プロミネンスする方法と同様、感情的でドラマチックな表現になります。
あるエピソードで、エネルギッシュでパワフルな話しぶりで有名な敏腕経営者の逐次通訳で、「通訳者の話し方が静かだったので、会が盛り上がらなかった」というクレームが来たことがあるそうです。
ドラマ性を感じさせるこのプロミネンスは、このようなケースでの通訳時や、主観で話せるとき、共感を求めたいときなどに効果的に使ってみてください。
ラジオ局アナウンサー、TVレポーターを経て、ナレーター、司会者として活躍。プロの通訳者のための日本語パフォーマンス向上講座、放送通訳講座などの講師や、仕事で声を使う人のコンサルティングも務める。2004年より京都在住。ヴォイスコネクション主宰。
【続きはこちらから】通訳者と声 第5回
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