会社員からフリーランスの通訳者・翻訳者になると、仕事上だけでなく、生活面でも色々な変化があります。なかでも保険や税金など、金融制度の違いや手続きには戸惑いを感じる人も多いのではないでしょうか。そこで、このシリーズではファイナンシャル・プランナーである戸田博之さんに、フリーランスのための金融知識のキホンを3回にわたって教えていただきます。1回目のテーマは「違いを知る」です。
フリーランスになる意味
人気アナウンサーがフリーランスになる話はよく聞くところです。そうした場合、フリーランスになったほうが、収入増につながるという理由によるものが大半かと思われます。しかし、その決断にともなって、雇われて働いていたときに得ていたメリットの多くを諦める必要があることには、あまり光が当てられないようです。
「安定した職を捨てて……」という場合の「安定」の意味は、仕事がコンスタントにあり、収入も安定しているということだけではなく、多くの制度の庇護を受けられる状態のことも含んでいます。こうしたメリットや庇護がなくなった分をどう補うか。フリーランスとして安心して働くためには知っておくべきことであると思われます。それを補うための手段として金融商品、金融制度があります。本稿では、そうした面に着目して情報提供をしたいと考えています。
フリーランスになると何が変わるか
具体的に、勤めている場合と、フリーランスとして働く場合の違いにはどんなものがあるでしょうか。
主要なものとしては、社会保険制度と企業独自の福利厚生制度があります。社会保険制度には、健康保険、年金、雇用保険などがあり、さまざまな生活上のリスクに備えるしくみに自動的に加入していることになります。また、企業独自の福利厚生制度には、主なものとして退職金制度や企業年金制度がありますが、この他にも、家賃補給や教育面での支援、福利厚生施設の提供なども無視できないものです。これらのほとんどは、フリーランスになると享受できなくなります。
では、主なものを見てみましょう。
健康保険
企業などで働く場合は、その企業が加盟している健康保険制度(○○健康保険組合など)に加盟することになり、毎月の給与から天引きで保険料を負担することになります。料率は制度によって異なりますが、給与の10%前後というところが平均的な水準です。(40〜65歳になると、1%前後の介護保険料が加わります。)この保険料の半額は、企業の負担となります。
一方、フリーランスになると、原則的には居住する市町村(東京23区の場合は区)が運営する国民健康保険、通称「こくほ」に入ることになりますが、ここでの保険料は、すべて自己負担となります。
保障内容は両者とも変わらず、原則医療機関窓口への支払いは30%、残りの70%は加入している健康保険制度から支払われますが、保険料の自己負担割合には大きな違いがあります。
年金
企業などの年金制度は、2階建てと言われています。毎月給与から天引きされて支払う厚生年金保険料により、働く人は国民年金と厚生年金という2つの年金制度に入ることになっています。そして、一定年齢になれば、老齢基礎年金と老齢厚生年金という2種類の年金が終身(その人が亡くなるまで)払われるしくみです。
老齢基礎年金はその制度に加入している期間によって、老齢厚生年金は加入期間と現役時代の報酬の多少によって受給額が決まります。(このため老齢厚生年金は、報酬比例年金と呼ばれます。)フリーランスになれば、法律上の義務となっている国民年金には加入することになりますが、厚生年金には加入しません。65歳以降にもらえる国からの年金は老齢基礎年金のみです。つまり、2階建て部分の1階のみに加入することとなります。老齢厚生年金をもらえる企業勤務者に比べて、この点が手薄いと言われています。しかも年間受給額は、40年加入で約80万円です。これだけで老後を十分に賄うことは難しいでしょう。さらに健康保険制度と同様、雇われて働いていれば、保険料の半分は勤務先が支払ってくれますが、フリーランスの場合は、全額自己負担です。
また、企業で働いていれば、その企業が独自に提供する企業年金に加入できる可能性もあります。どの企業でも提供している訳ではないので、企業で働くすべての人が企業年金をもらえる訳ではないのですが、これがあれば、公的年金に上乗せのお金が老後のために用意されることになります。フリーランスには、もちろんありません。
退職金
この点については、言わずもがなでしょう。多くの企業において、その会社の規定に基づく退職金(多くの場合は一時金)が支払われますが、フリーランスにはありません。
雇用保険(収入の補填)
企業で働いていれば、自らの事由で会社を辞めた場合でも、会社都合で辞めることになった場合でも、雇用保険から次の職を得るまでの一定期間、基本手当、俗称「失業手当」を受給できます。失職している間の収入補填を国が準備しているわけですが、これについてもフリーランスには国の保護はありません。
フリーランスと金融商品、金融制度
このように、フリーランスとして働くと、企業に勤める場合に比べ、さまざまな面で公的制度の恩恵が小さくなります。この、いわばハンディを克服するのは、原則として自助によることになります。この自助の手段として有効なのが、さまざまな金融商品です。銀行預金、さまざまな保険、あるいは株式や債券といった有価証券、不動産などを組み合わせて、このハンディを埋めることがある程度可能になります。また、法律に基づいて作られたさまざまな金融制度を利用することでも、同じ目的を達する助けになります。
このように、自分をいかに守るか、そのためにどんな課題があるかをまず知ることが、金融商品や制度を賢く利用するための前提となるのです。次回は、フリーランスが特に知っておきたい年金制度について紹介したいと思います。
住友銀行(現三井住友銀行)国内外勤務、米国での独立業務展開を経て、米系運用会社、外資保険株式会社で金融トレーニングのプロとして活躍。同時に金融商品の選び方や社会保険と金融商品の関係など独自コンテンツを持つ講師としても講演活動を展開。現在はオフィス エイ・エイチ代表。DC(確定拠出年金)プランナー、ファイナンシャル・プランナー。
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