「通訳・翻訳ブック×技術英語ジャーナル」特別コラボ企画Vol.2 技術翻訳の現状と今後

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サイマルのWebマガジン『通訳・翻訳ブック』と公益社団法人日本工業英語協会の情報誌『技術英語ジャーナル』による特別コラボ企画。前回のベテラン翻訳者・天河航さんに続き、今回は、技術翻訳の現状や技術翻訳者に求められるスキルなどについて、サイマル・インターナショナルの翻訳コーディネーターによる記事をお届けします。

技術翻訳の現状

サイマル・インターナショナルは政治経済をはじめとした多くの分野で通訳や翻訳の実績を持つ老舗の通訳・翻訳エージェントです。いうまでもなく日本の産業において技術分野は大変重要なので、技術分野の翻訳依頼は年々増加傾向にあります。主要なクライアントは機械、電気機器、輸送用機器、精密機器、IT、化学、医療、エネルギーなどの業種に分類されます。このような業種のクライアントは海外に生産拠点がある、もしくは国内で製造した製品を海外に輸出しているといった企業が多数を占めています。また、日本国内で事業展開や拡大を図っている外資系企業などからも多くの依頼をいただいています。

翻訳の依頼がある主な文書タイプには、各企業がグローバルに展開をしていく上で必要となる、製品に関連した研修資料、会議資料、プレスリリースなどや、製品の仕様書、試験報告書、マニュアル、カタログ、パンフレットなどがあります。また、情報収集のために翻訳が必要となる規格関連資料や論文などの翻訳ニーズもあります。

それぞれの資料において求められる訳文の品質は異なるので、文書タイプや用途に応じた訳文の提供が求められます。たとえば技術分野の中でも特に翻訳の需要が多い医療分野の試験報告書の翻訳は、正確性を確保しつつ、分野特有の用語をしっかり押さえ、医薬品規制に関するガイドライン等に則した訳文が必要となるので、要求レベルは高くなる傾向があります。

技術分野翻訳者の特徴

技術分野における翻訳者のみなさんのキャリアやバックグラウンドはさまざまです。一例を挙げますと、大学の理学部を卒業しメーカー等で製品開発関連の業務に携わってきた方、工学部を卒業し米国で経営学を学びメーカーで品質保証業務に従事した方、文系の学部を卒業後、機械やIT系の会社に勤務しながら英文書類作成などの業務に携わってきた方、企業の社内翻訳者として技術系の翻訳業務に従事してきた方など。この分野に対応する翻訳者のみなさんには特定のキャリアパスがないのが特徴と言えば特徴です。また、多様なバックグラウンドやキャリアを積んだ方がいますので、それぞれに得意な技術分野や文書タイプがあります。

翻訳者に求められるスキル

技術分野の中でも特定の分野や文書タイプに強みを持っている方は翻訳者として登録いただいた際にどのような案件を依頼できるかイメージがしやすいのですが、その分野や文書タイプだけしか対応しない、もしくはできない、ということではなかなか仕事の幅が広がらないのも事実です。たとえば製品の開発段階で作成する試験報告書だけでなく、その製品の内容に関連した会議用資料や研修資料、さらには製品が完成した後にお客様向けに作成するマニュアル、カタログ、パンフレットなどの翻訳にも対応できるようになると翻訳者としての市場価値は高まるといえるでしょう。

また、基礎研究、非臨床試験、臨床試験、製造、マーケティングなど対応範囲が広い医療分野では、それぞれの領域において一定レベルの知識が求められますが、実際の案件でリサーチをしながら知識を高める、もしくは独学で知識を高めるなどして守備範囲を広げて安定した品質の訳文を提供できるようになるとお仕事の機会も増えていきます

一方で、技術分野の訳文で時折見受けられることとして、用語だけは正確に置き換えているものの、全体的に直訳調で文章として読みづらい訳文があります。原文に忠実に訳出されていても、文書タイプによってはそれだけでは物足りないものも少なくないので注意が必要です。どのような分野の翻訳でも、字面通りに訳すのではなく、原文の中身をよく理解して訳出するスキルは大切です。特に技術分野では、新たなテクノロジーを活用した製品やサービスなどが市場に出てくるスピードが速くなっているので、日々の情報収集で知識をアップデートしておくと内容の理解に役立ちます。翻訳作業をする場合には、知っている内容だと思っても、ウェブ検索などを十分に活用し、しっかりとリサーチして裏付けをとるなど、知識や経験を積み上げていくことは必要不可欠です。

翻訳支援ツール(CATツール)

技術分野の翻訳業務に欠かせないのは、人手による翻訳を支援するツール(CAT:Computer Assisted Translationツール)を活用することです。技術系の文書は分量も多く、文書間で重複があるものも多々あります。それらの文書を効率良く翻訳する上で翻訳支援ツールは欠かせません。特定のクライアントの同一製品、もしくは類似製品で過去に翻訳した資料があれば、過去訳文を流用することで新たに翻訳する手間を省くことができます。さらには用語集などがあれば、それらを作業画面上に表示させながら翻訳することもできるので、品質の安定化にも役立ちます。

また、翻訳支援ツールとは異なりますが、機械翻訳(MT:Machine Translation) を活用した対処も今後は求められてくるでしょう。既に特定の文書タイプでは、機械翻訳を下訳として、その下訳に修正を施すことで一定レベルの訳文を完成させることも可能になってきています。この修正作業はPE(ポストエディット)と呼ばれていますが、機械翻訳の精度向上とともにこのような作業をクライアント、もしくは翻訳エージェントから依頼されるケースも今後増えてくることが十分にあり得ます。

今後の技術翻訳ニーズ

技術分野の翻訳ニーズは、新たなテクノロジーを活用した製品やサービスがグローバルに普及していくことに伴い、深い知識やリサーチ力が求められます。同時にこれら製品を提供する企業活動もグローバルになるので、企業がクロスボーダーで円滑にビジネスを行っていく上で必要な資料の翻訳ニーズも増えるでしょう。そういった資料は試験報告書やマニュアルほどテクニカルな内容ではないかもしれませんが、技術分野に関する知識と合わせ、企業経営やマーケティング等についても幅広く理解できるよう知識を持っておきたいものです。

このように一括りに技術分野といってもさまざまな資料の翻訳ニーズがあり、ニーズに応じた対応が必要になります。一番大切なことは、訳文がどのように利用され、読み手は誰なのかをイメージして、用途に見合った訳文を提供することで、翻訳者にはそれが求められています。私たち翻訳エージェントは資料の用途などを踏まえた訳文提供を通じてクライアントの、ひいては社会に役立つことが使命ですが、そのような使命を翻訳者のみなさんとも共有し、満足度が高いサービスを提供することで社会に必要とされる通訳・翻訳エージェント をめざしています。いつの日かみなさんとご一緒に仕事をさせていただくことを楽しみにしています。

 

文:翻訳コーディネーター

こちらの記事は『技術英語ジャ―ナル No.03 VOL.40 September - 2020』に掲載されたものと同内容です。

※公益社団法人日本工業英語協会は、2021年に日本技術英語協会に名称変更後、2022年、一般社団法人日本能率協会に吸収合併されました(2023年追記)


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