スキルアップのために必要な知識や情報、日々の仕事での失敗や成功のエピソードなどを、英⇔日翻訳者がリレー形式で執筆します。今回のテーマは、訳語選択について。執筆者がよく「頭を悩ませる」という5つの単語を例に挙げて解説します。
長いこと英日の実務翻訳に携わっていますが、毎回、頭を悩ませる頻出単語というのがあります。それは意味が難しいというよりも、文脈によって意味が大きく違ったり、日本語になりにくかったりする単語です。例えば、思いつくまま挙げるとこんな単語たち。
① commitment
② reference
③ relevant
④ represent
⑤ exciting
これらはおなじみの単語です。① commitmentは、辞書には「傾倒、献身」「責任、専念」「約束、言質」「義務、誓約」などと書かれていますが、政治の世界では「コミットメント」とカタカナ表記でもOKです。実務翻訳の世界では、感情のこもらない「熱意」や「取り組み」、「関与」といった中立的な訳語にしたほうが適切でしょう。
② referenceは、辞書では主に「参照」や「言及」とされていますが、「基準」と訳すことが多いような気がします。③ relevantは辞書では「関連する」となっていますが、「重要な」とか「適切な」としたほうがしっくりくることが多い。「表す」「代表する」の④ representは、受け身になると、いつもとても訳しにくくなります。
例えば
は「あなたには弁護士がいますか?」ですし、
は「会議に代表を派遣したい」という意味ですが、いずれにせよ直訳はNGです。
⑤ excitingは本当によく使われる言葉です。メディアはもちろん、企業や政府のプレスリリースなどにもよく出てきますが、これがなかなかのくせもの。
という場合、オバマ大統領はプーチン大統領の前向きな態度に「わくわくしたようだ」とか「興奮したようだ」では、なんだか軽すぎますよね。できれば、政治的な文章らしく「強い期待を抱いたようだ」や「喜びを隠し切れなかったようだ」など、大人の表現にしたいものです。
こういう単語が出てくると、いつも文脈にふさわしい表現を探して頭を悩ませるのでした。
(注)この記事は、2014年9月に「サイマル翻訳ブログ」に掲載されたものです。
翻訳会社のコーディネーターや月刊経済誌の編集者、英国の証券会社調査部の翻訳・編集担当として、長年、英日翻訳に携わる。現在はフリーランスとして、主に金融・経済、時事問題などを中心に、「日本語らしい日本語訳」を念頭に仕事をしている。
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