時代が平成から令和になった2019年、私のシンガポール生活は31年目を迎えました。昭和の日本でスタートした通訳者としてのキャリアですが、大半は当地を拠点にアジアでの仕事をしてきました。この間の変化を少し振りかえってみます。
シンガポール英語
公式言語としては英・中・マレー・タミール語を使用するこの国ですが、実質的な共通語は英語(とシングリッシュ)です。駆け出しの頃、日本で在日シンガポール大使館の行事の通訳をする機会がありました。当時の経済開発庁長官以下シンガポール人の官僚が、公式行事が終わって内輪だけになると、見事にシングリッシュでの会話に切り替わっているのを見て感心したものでしたが、今や私も立派な(?)シングリッシュの使い手に。ただ当然ながら色々な国籍の参加者が集う場の通訳ではStandard Englishを心がけています。
仕事の量と質
確実に増えています。 日本との関係が密なおかげで、通訳の仕事に事欠くことはなく、企業、経済団体、業界団体の定期的な会合、アセアン関係の会合等安定した需要があります。最近多いのが日本企業の投資家訪問(IR)、また労働組合の国際組織の会議通訳等です。国内だけでなく、アセアン各国、香港、インド出張案件なども増えています。
通訳者の数
需要の伸びに比して通訳者の供給は追いついていないと思われます。裾野は広いと思いますが、訓練を受ける機会がアジアにはないので、要求されるレベルの技量を備えた日英の通訳者はアジア全体として不足しており、残念なことに、仕事内容と通訳者のミスマッチによる悲劇的エピソードが後を絶ちません。
リレー通訳の機会
アジア各地で開催される同時通訳の会議で、日中韓の3カ国語以外にアジア言語のブースが入る場合も多くなりました。ベトナム語、タイ語、インドネシア語、ミャンマー語など。英語をキーにしてリレー通訳を行う場合の通訳機材の操作に慣れていない通訳者も多く、押すボタンを間違えて訳が出てこなかったり、チャンネルが混線したりというトラブルも多いです。モニターしているはずの機材会社のテクニシャンも、現地の方々の場合はのんびりしているので、我々がブースから飛び出して注意を喚起することもしばしばあります。
今後の展望
日本企業の事業活動はアセアン全域で更に活発化し、アセアン実質共通語としての英語の通訳需要は、これからさらに伸びるでしょう。インド等も含めれば巨大な市場が広がっています。日本である程度通訳経験を積んだ皆さんには、ぜひ新たな市場としてのアジアで腕を磨くことを考えていただきたいと思っています。
(注)この記事は2016年1月に通訳技能向上センター(CAIS)のウェブサイトに掲載されたコラムを加筆・修正したものです。
大学在学中に会議通訳訓練コースを受講したのがきっかけで、プロの通訳者〔日、英〕の道に。日本で6年間通訳の経験を積み、1988年来星。シンガポール人の夫と娘、息子、犬と暮らしながら、アジア各国での会議に飛び回る毎日。
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