第2回 通訳者に求められること【JCI認証取得に関わる通訳――病院の現場から――】

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患者さんが安心して医療行為を受けられるように、安全で高品質な医療が提供されていることを証明するJCI認証。認証を受けるための審査は通訳のニーズが高い現場です。湘南鎌倉総合病院でJCI審査準備の対応をされている石田亜紗子さんが、その概要と通訳者に求められるスキルについてお話しします。2回目のテーマは「通訳者に求められること」です。

通訳が発生する場面 

JCI審査は、前回でも述べた通り、サーベイヤーが作成したアジェンダが事前に病院に提供されます。審査は、毎朝8:00から開始されます。初日のみ7:30頃から、サーベイヤー、通訳者、病院のサーベイコーディネーターの3者で事前の打ち合わせがあり、お互いの自己紹介や、どのサーベイヤーにどの通訳者さんがつくかという顔合わせと担当者の確認、そしてサーベイヤーから通訳者・病院側への要望が伝えられます。この際、病院側に英語ができる職員がいない場合は、対応を求められることがあります。

審査中、毎日の昼食時間と初日の文書レビューセッション以外は、通訳が発生します。文書レビューセッションでも、サーベイヤーが質問をしたい場合は、その場に呼ばれ、日本語の文書の確認や、病院職員へ質問する場合があるため待機時間となります。
審査を行うサーベイヤーによって、審査スタイルに若干差異があるため、通訳量に差が出てくるかもしれません。スタイルとしては、以下のタイプが挙げられます。

 

  • もくもくと審査を実施していくタイプ:質問と回答のやり取りがメインのため、スムーズに審査が進みます。
  • 審査を通した教育タイプ:質疑応答に加え、質問した内容に関連した情報を提供し、教育的な説明や職員とのディスカッションが活発に行われます。

 

審査中、サーベイヤーの説明、病院側のプレゼン、現場での病院職員や患者へのインタビュー、セッションの合間をぬった職員からの追加説明など、様々な場面で通訳が求められます。


 

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サーベイヤーと病院職員のやり取りの様子。手前後ろ姿の女性は通訳者

(写真提供:湘南鎌倉総合病院)

通訳者が押さえたい知識 

通訳者の方に押さえていただきたい知識としては、大きく分けて3つです。

1. JCIの目的:患者と職員の安全と継続的な改善
色々な用語に関する知識や通訳の経験も大切ですが、ここが一番のポイントではないかと思います。なぜなら、これを理解することで、通訳を行う際、どのような姿勢で臨めばよいかがわかっていただけると考えるからです。

JCIのサーベイヤーたちは、受審する病院を「落としたい」とは全く考えていません。それは、私たち自身が自院の模擬・本審査を通してサーベイヤーから言われた言葉です。
また、特にJCIに深くかかわっている病院職員は、そもそも「病院をより良くしたい」と前向きに考えて取り組んでいます。そのため、この審査は自分たちが行ってきた取り組みの方向性を確認し、わからないことを解明することで、より改善を進めていく機会と考えています。これらに留意いただくと、サーベイヤー、通訳者、病院職員のチームワークが生まれ、審査がより実りのあるものになっていきます。

2. JCI用語
どの業界でも当てはまることですが、JCI審査においてもやはりJCI用語というものが存在します。代表例としては、IPSGやACCなどのチャプター名です。これらは認定基準書に目を通していくことで解決できます。

もう一つ、用語について重要なことは、受審をする病院(特に初めて受審する病院)が、そのJCI用語に慣れていない場合が多々あるということです。特に現場の職員などは、当日の緊張も加わって、サーベイヤーの質問を1度で理解できないことがほとんどです。

 

3. 認定基準書の理解:特に品質改善やデータマネジメントについて
セッションやトレーサー時、サーベイヤーは病院がそれぞれの認定基準を順守しているか確認するため、関連した資料や記録の提示を要求します。病院職員の多くは、サーベイヤーの求めていることを瞬時に把握できないことが多いため、審査がもたついてしまい、それらの資料や記録が「ない」と判断されてしまうこともあります。また、質問事項をしっかりと理解できず間違った説明を行ってしまう職員もいます。

私自身、グループ病院のJCI模擬審査の通訳を通して感じたことですが、サーベイヤーの求めていることは、JCIスタンダードを理解し、それらに関連したセッションや質問の目的を理解すること、また何回か審査を経験することで、何を見たいのか理解することができます。

 

病院側が通訳者に求めること 

英語ができない職員がほとんどのため、通訳者との相性や関係性は、病院にとってはとても重要になってきます。そのため病院職員の立場から申し上げると、以下の3つを気にかけてもらえると円滑な審査につながると思います。


1.忍耐

上記にも述べた通り、病院職員は、審査中とにかく緊張しっぱなしの状態です。自分の失敗で審査に落ちてしまったら……とみんなが何度も考えてしまいます。また、対外国人がまだまだ苦手な職員が多いです。それらのストレスにさらされた状態のため、どうしてもサーベイヤーの求めているものとは違う回答をしてしまったり、的外れなことを言ってしまう職員がいますが、根気よくご対応いただければ嬉しいです。

また、病院の規模によっては、通訳に最適な環境や状況を調整できない時もあります。その際は、できれば病院の意思を尊重しつつ、ご希望をお伝えいただければと思います。

2.柔軟性
通訳者は中立な立場であるべきですが、時にはサーベイヤーに寄り添い、またある時は職員の味方になっていただくことで、審査の経験が病院にとって「良いもの」に変わっていくように感じます。通訳のスキルに加え、その場に最適な対応を選択できる柔軟性があると、大きな問題なく審査を乗り越えていけるのではないかと思います。

3.笑顔

JCI審査を通して、寄せられる声の中で一番多いのが「あの通訳者さん、怖い」です。(すみません) 通訳者の方が指摘事項をそのまま直に訳されると、病院職員は「怒られている」と認識してしまうことが多々あり、質問が立て続いたりすると「責められている」という気持ちになりやすいようです。

審査なので仕方ないのですが、そういったときに硬い表情の通訳者さんだと職員からの印象はあまり良くない傾向になります。集中して業務をなさっていると思いますが、顔がこわばってしまうようであれば、どこかのタイミングで少し意識して笑顔を入れていただくと職員も安心します。

JCI審査は、病院によっては、数年単位で準備し望んでいます。その準備過程では、たくさんの職員の努力があり、修繕や審査受審料など多額の費用も発生します。患者や職員の安全に近道はなく、それを追求するためのツールとして病院はJCIを利用します。JCIの合否に通訳者の能力が直接的につながるわけではないですが、JCIを通して、患者と職員の安全の向上に関わっている一員であるということを心の片隅に置いておいていただければと思います。

 

 

 

医療法人沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院 
人材開発室/JCI事務局 石田亜紗子(いしだあさこ)


アメリカの看護大学を卒業し免許を取得。看護師を経験後、日本に帰国。その後、治験コーディネーターを経験し、現病院の国際医療支援室にて外国人患者の通訳・翻訳対応やJCI事務局として勤務。現在はJCI審査準備の活動を通して、職員への投資がより医療の質や安全向上につながると考え、院内の人材マネジメント体制の構築に従事。

 

 

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