さまざまな翻訳支援ツールがある中で、サイマルが導入しているMemsource(メムソース)※の有用性について2週にわたってお話しします。「どんな利点があるのか?」「実際の使用シーンは?」――前回の翻訳コーディネーターの視点に続き、今回は翻訳者の杉山さんから見たMemsourceの有用性をお伝えします。
Memsourceは「翻訳支援」ツールであり、「機械翻訳」ツールではないので、最初は利用価値が謎でした。しかし今では、特に長い原稿の場合、Memsource作業であると安心します。以下、わたしのMemsource利用状況をご紹介します。
利用のきっかけ
サイマルでオンサイト勤務中のある日、「これから作業の一部はMemsourceでやることになりました」と言われたのが始まりです。Memsourceマニュアルを片手にすぐ使い始めました。
利点
「Memsourceでよかった!」と一番感じるのは、英文でも和文でも10ページを超える長文原稿だったときです。英文原稿は冒頭にExecutive Summary、次に本体、最後にConclusionが来る構成が多いですが、全体像をつかむには、まずExecutive Summaryの翻訳から始めます。本体を読まないとExecutive Summaryが理解できない場合は「仮訳」にしておきます。その後、本体翻訳中に「この文脈はどこかで見たな」と気づくことがあります。この場合、ワード作業ですと、どの辺か当たりをつけて既訳箇所を探していきます。ワード検索も可能ですが、とても非効率です。既訳箇所を探し当てた後も、ひとつの画面に複数個所を表示して行う比較・コピペはとてもストレスフルです。
Memsourceではどうか?キーワード(あるいは句、節、文章)で検索すると、該当する箇所(セグメント)のみに絞り込まれて「エディタ」(注:『Memsourceの有用性――翻訳コーディネーターの視点から』参照)に全て縦並び表示されます。その中には仮訳にしたExecutive Summaryや、自分が気付いていなかった箇所も入ります。比較・コピペがとても楽なのでストレスから解放されます。
翻訳はたったひとつの文章に一時間以上悩み続けることもあります。悩み抜いて紡ぎだした訳文の元原文をMemsourceは分厚い原稿のどこであれ、一瞬のうちにいくつでも見つけてくれます。似たような原文訳出のために何度も悩むことはなくなります。
頻出用語の揺れをなくすことにもMemsourceは効果的です。一例(日英)を挙げれば、日本企業に独特な「監査役」という言葉。“Company Auditor”という訳語を今も見かけますが、「内部監査人・外部監査人と混同するリスクがある」として日本監査役協会が“Audit & Supervisory Board Member”を推奨しています。この場合、訳語が揺れないように、Memsourceで「監査役」をTerm Base(TB)に登録しておけば、Memsourceがいつもリマインドしてくれます。
MemsourceのTranslation Memory (TM)も翻訳を助けてくれます。原稿が単独文書か複数の関連文書かを問わず、翻訳者が作業するごとに作業結果がTMに蓄積されていきます。TMに類似の原稿文があれば、ゼロベースから訳文をひねり出す必要はなく、TMが提示する一致度の高い訳文例を使えます。ワンクリックで取り込み、自分で微調整するだけです。
使用上の注意
優れた翻訳能力があるのに「文章毎にセグメント分けされるし、原稿の全体像が見えないから使いづらい」として、Memsource案件を受けない在宅翻訳者がいます。確かに気になる点ですが、上述したMemsourceの利点を考えると、使わないのはもったいないです。
そもそもMemsource作業を画面だけで済まそうとすることには無理があります。ワード、PDF、パワポなどの原稿を印刷し、机上で見ながらMemsource作業をすることが望ましいです。これにより、在宅翻訳者が懸念する文章間のつながりや原稿全体像の一覧も可能になります。
時間の節約に
訳抜け、数字の転記ミス……これらは翻訳技量の多寡とは直接関係ないヒューマンエラーです。ケアレスミスチェックから解放されて、原稿のリサーチにもっと時間を割きたいと思いませんか? これを叶えてくれるのがMemsourceです。「QA(品質管理)チェック」で訳抜け、スペルミス、転記ミスなどのヒューマンエラーが見つかります。節約できた時間で、さらに読み手に伝わる訳文をめざしましょう!
※現在は「Phrase TMS」に名称変更(2023年3月追記)
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