最終回  企業として通訳者に望むこと、顧客満足度を上げるための観点 【ヘルスケア業界における通訳:クライアントからのメッセージ】

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3回にわたりお届けする『ヘルスケア業界における通訳 ――クライアントからのメッセージ―― 』 。長年ヘルスケア業界に身を置き、現在は製薬・医療機器メーカーへのコンサルティング業に従事。通訳の現場にも数多く立ち会ったスリーロック株式会社の松田良明さんが、特にセールス・マーケティング部門で発生する通訳業務に関して押さえたい知識、通訳者に求めることなど、通訳を必要とする企業の目線からお話しします。

 

第1回では、この業界における通訳の場面(メーカーの社内、社外)について、第2回では、それぞれの場面において通訳者が押さえておきたい知識、Tips について触れました。


今回の最終回では、ヘルスケア業界の企業として通訳者に望むこと、特に通訳が顧客満足度を上げることに繋がるであろう事柄について述べさせていただきます。

通訳の正確性

この業界における通訳者に求めることとして、まずは正確性を挙げたく思います。ヘルスケア領域では、専門用語が多用されるのみでなく、数字、単位等、間違えると致命傷となるからです。逐次はもとより、同通やウィスパリングでさえ、そのあたりの間違いが多いと信用度が落ちてしまいます。

コミュニケーション力の重要性

この領域をよく研究していること、、その正確性が求められるのはもちろんのことですが、ここで特に強調したいのは、我々依頼者側やその他のステークホルダー(スタッフや聴衆など)との円滑なコミュニケーションの重要性についてです。

準備段階のコミュニケーション

事前準備として、依頼者とエージェントのコーディネーターとのやり取りがあります。その際、こちらの都合などもあり申し訳ないのですが、通訳者への原稿や資料の送付が遅れることもあります。そのような場合、通訳者の皆さんには、通訳の場面を想定の上、依頼者側に確認しておくべき事柄を予め準備し、それを基に情報提供の依頼をして準備を進めていただけるとありがたいです。そうすることにより、依頼者側としても、どの情報をどのくらい提供すべきなのかが明確になり、打ち合わせも正確でスムーズに行なえるようになるのではないでしょうか。

 

通訳する講演会の時間以外の場面や範囲についても、コーディネーターを通じて確認されるとよいでしょう。例えば、外国人講師を招聘しての講演会のような場合、その後の懇親会(意見交換会)にも通訳者に残っていただけるのか等々についてです。そのような点まで明確にし、関係者間で共有しておけると、スムーズかつ安心です。

 

通訳直前の打ち合わせも重要です。(打ち合わせをしない場合もあります)そこで我々が望むことは、あらかじめ準備していたことを我々依頼者側と講演者とで最終チェックとすり合わせをする間に、通訳者の皆さんにも入っていただくことです。それをしていただくことにより、通訳がより正確になるのみならず、我々と通訳される側とのコミュニケーションも深まることになります。

 

(編集部注)通常、事前にエージェントのコーディネーターが講演会以外の時間の業務(直前打ち合わせや懇親会時の通訳)についても依頼者様と確認をしたうえで、通訳者は通訳業務にあたります。

本番時のコミュニケーション

通訳の最中に、我々依頼者側が気付いた点をお知らせすることが多々あります。その際、こちらからそのことを伝える方法についても事前に打ち合わせしておくと、依頼者側も通訳者の皆さんもスムーズかと思います。例えば同時通訳の場合は、我々依頼者側が通訳ブースに行き、休憩に入ったタイミングでメモを手渡していました。

 

最近は、オンラインでの会議、講演等々も増えてきており、状況も変わっているようです。我々スリーロックが製薬メーカー、医療機器メーカーに提供させていただいている研修も、コロナ禍を機にオンラインが主流になってきています。Face-to-face とは違い、各参加者のお顔がいつも見えているわけではありませんが、チャット機能や投票機能など、オンラインならではのツールも活用しながら、最近は対面研修とそう遜色なく実施できるようになってきました。

 

オンラインでの通訳の場合、オンラインならではの活用法等々もあるのではないでしょうか?例えば、サイマル・インターナショナルが提供している遠隔同時通訳プラットフォーム「interprefy(インタープリファイ)」などのツールを用いた通訳の場合、依頼者側と通訳者側とでのコミュニケーションはとりやすいのではないかと思います。依頼者様の手元にインタープリファイのPCを設置できる場合、チャット機能等々の活用により、意思疎通を図ることができます。よって、こちらが通訳者にお伝えしたい情報のやり取りもタイムリーそしてスムーズに行なえるのではないかと思います。

本番時以外のコミュニケーション

準備時や本番時だけでなく、それ以外の場面でも我々依頼者側と円滑なコミュニケーションをとっていただけると、全体がスムーズに進行します。

 

私は製薬メーカー勤務時、海外からのドクターを招聘しての講演会を数多く実施し、多くの通訳者にお手伝いしていただきました。その際、複数回経験したエピソードをご紹介します。私が演者と講演会場に到着すると、その地域のMR(医薬情報担当者)が会場の準備を進めており、通訳者の位置、照明の状態、水の有り無し、通訳者からのスクリーンの見え具合等も既に通訳者と詰めてくれていました。講演会終了後、主催者である私が会場準備を担当したMRから言われたことは、通訳者の方の彼らに対するリクエストの仕方が強めだったとのことでした 。もちろん、このようなケースが全てではありません。大切なのは、通訳を依頼する担当者、講演者以外にも、通訳に関わる全ての人々とのコミュニケーションではないでしょうか。お互いがお互いの立場を理解し、協力していくことが重要です。通訳者の皆さんにもその点を理解していただき、スムーズにお仕事が進むようお力添えいただければありがたいです

連載の終わりに

ヘルスケア業界に長年勤務し、この領域での通訳者と協働してきた者として、『ヘルスケア業界における通訳 ――クライアントからのメッセージ――』 を3回にわたってお送りしました。内容は、私が属していたコマーシャル部門(セールス・マーケティング部門)からの視点に限り、またあくまでも私個人の経験に基づいた私見ではありましたが、皆様がこの業界にて通訳をされる際に少しでもご参考にしていただければ幸いです。高い通訳スキル、最先端の業界知識、それに我々依頼者側やスタッフとの円滑なコミュニケーションをもって、ご活躍いただきたく思います。ご拝読、ありがとうございました。

 
 
松田良明(まつだよしあき)

スリーロック株式会社 エグゼクティブコンサルタント。
中央大学商学部卒業後、米国州立モンタナ大学にて MBA 修了。サイマル・インターナショナル創立者の一人である國弘正雄氏(故人)に師事。「同時通訳の神様」 との異名をとった同氏のカバン持ちとして、内外要人との数々の通訳の場面にも立ち会い、翻訳のサポート等も行なう。

主な職歴は、外資系大手製薬会社にて MR、プロダクトマネージャー、外資系ジェネリック医薬品メーカーにてマーケティング部長、医療機器メーカーにてマーケティング本部長、ヘルスケア調査会社にてリサーチディレクター。現在は、製薬・医療機器メーカーへのコンサルティング業務、Sales & Marketing関連の研修をメインに実行している。

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