サイマルとサミット【通訳会社の舞台裏】

サイマルといえば……」と言われるほど、サイマル・サービスの代表的な実績のひとつであるG7サミット(以下、サミット)。第1回開催時から、通訳、通訳機材、翻訳などの幅広いサービスで、世界最高レベルの会議をコミュニケーション面でサポートしてきました。今回はそんなサミットの舞台裏について、サイマル・インターナショナル通訳事業部マネージャーの佐藤公香さんに聞きました。

サイマルとサミットの関わり

――そもそも、サミットとはどんなものでしょうか。また、サイマルとサミットとの関係について教えてください。

佐藤(以下、佐):G7は「Group of Seven」の略で、フランス・アメリカ・イギリス・ドイツ・日本・イタリア・カナダの7カ国および欧州連合(EU)が参加する枠組みです。またサミットは、英語で「山の頂上」の意味です。G7サミットは、その名の通り、G7の首脳による国際会議です。単にサミット、または先進国首脳会議などとも呼ばれ、毎年1回開催されています。初開催は1975年、パリ郊外のランブイエ城で、日本での開催は、2023年の広島サミットで7回目となります。

サイマルではこれまで、通訳、翻訳、機材運用など様々なサービスでサミットのコミュニケーション面をサポートしてきました。特に通訳サービスは、第1回の開催から長年にわたり通訳者を手配しており、サイマル創立者の一人である小松達也や現顧問の長井鞠子なども、サミット通訳の常連でした。また、東京開催時には通訳者の全体統括を担当したこともあります。

サイマル・アカデミーのロビーには東京サミット時の写真が飾られています

サミットの通訳者に求められること

――サミットというと、よくニュースで見る「円卓に各国首脳が座っている」イメージが強いですが、通訳が必要になるのはどんな場面ですか。また、サイマルはどんな通訳を担当することが多いのでしょうか。

:サミット開催中は、実に様々な場面で通訳が必要となります。サイマルの場合、同時通訳で行われる首脳会議やワーキングランチ・ディナー、記者会見や議長国会見などの日英通訳を担当することが多いです。一方、バイ会談(二国間会談)など逐次通訳の場合は、外務省の通訳担当官が担当されることが多いですね。

――通訳者にはどんなことが求められますか。

:サミットや関係閣僚会議での豊富な通訳経験は必須です。また、多言語会議でのリレー通訳経験も求められます。


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加えて、各国首脳や要人が会する緊張感の中でも、不測の事態や急な変更に冷静に対応し、臨機応変な判断ができることが必要です。国家間の儀礼上のルールである「プロトコール」の理解も欠かせませんし、通訳業務以外にも重要な要素がたくさんあります


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サミットで求められる通訳者、通訳会社、コーディネーターの実績

――では次に、通訳者を手配する通訳会社やコーディネーターについて伺います。いつ頃からどんな準備を行い、サミット期間中はどんなことをするのでしょうか。

はい。準備を始めるのは、サミットの日程が決まってからになります。開催年によっても異なりますが、大体8カ月から半年くらい前からでしょうか。準備で何よりも重要なのが、通訳者の確保です。サイマルには日英の専属通訳者がいるので、日程が多少前後したり延長してもカバーできるように通訳者の予定を長めに押さえておくことが可能です。

他に事前確認としては、IDやスケジュール、会場間や会場内の動線、通訳者のIN/OUT、食事や交通など主にロジ(ロジスティックス)面を行います。省庁のご担当者や関係各社と連携して情報収集や共有に努めます。
会場間はもちろん、同じホテルや会議場の中でも動線確認は非常に重要です。会議場と通訳ブース部屋が別だったり、各国首脳の動線とスタッフの動線が分かれているケースもあります。事前下見に同行できるものではないので、現地入りした後に、自分で歩いてみて、頭に叩き込むようにします。

他に、通訳者も最初から最後までいる人と、必要な部分だけスポットで入る人がいるので、IN/OUTの確認は大切です。会場ホテルのレストランはセキュリティや集客の関係でクローズすることもあるので、お弁当の手配はあるのか、周辺に利用できる飲食店はあるのかなど食事関連の確認も重要です。開催場所や通訳者の業務終了時間によっては、食事に本当に苦労することがありますから……。それから、開催都市は開催前日頃から交通規制がかかるので、最寄り空港や駅からホテルや会場にスムーズにアクセスできるよう通訳者に現地情報を伝えることも忘れてはいけません。

また開催期間中は、当日や翌日の動きに変更がないかの確認や資料の入手、他言語通訳者との連携や情報の共有、通訳機材の確認などを行います。会議スタート後には、通訳音声が問題なく行き渡っているかをモニターしています。それから、移動では車列の確認も大変重要です。首脳の乗る車の後ろの車に通訳者が乗り、遅れずに会場入りできるように誘導しています。
 

――非常に多岐に渡りますね。車列の確認などは、経験がないとなかなか気づけないような気がします。

:ええ。ですから、通訳者だけでなく、手配する通訳会社やスタッフにも国際会議での実績や豊富な経験が求められます。これは小さな例ですが、省庁には独特の用語が多いので「〇〇について確認したい」「△△をお願いします」と言われるたび、先方に何のことか確認しているようでは、スムーズに進行しませんよね。運営側が本来の業務に専念できるよう「通訳周りはすべてお願いね」と、安心してお任せいただける信頼関係、そして臨機応変に対応できる万全な通訳体制が大切なのです。

――サイマルの通訳サービスは、通訳者もコーディネーターもプロフェショナルなのですね。ちなみに、準備や開催中の業務で、特に大変なことは何でしょうか。

:そうですね……まずは、先ほどもお話しした会場間の動線確認でしょうか。サミットでは「開催地の様々な魅力を見て知ってほしい」という思いから、会議場が複数になることが多々あります。日本開催の場合、本会議は風光明媚な景観が楽しめる海辺のホテル、ワーキングランチは日本文化を味わってもらえる山間の料亭……など、会場間が離れていることもあるので、動線などを事前にしっかり把握し、とにかく遅れずに通訳者をその場に誘導することに神経を使います。

そして、やはり何よりも肝となるのは、資料の入手だと思っています。会議をスムーズに進行させるために通訳というものを雇っていただいているわけですから、この会議で何を各国に伝えようとしているのか、通訳者への事前インプットが重要ですよね。発言要旨などの資料は直前までご準備されているので、なかなか通訳者の手元に届かないという状況もありますが、概要や論点だけでも早めにいただけないか、とか、改訂されたら逐一最新版を共有いただきたい、とお願いしています。
資料が入手できたら通訳本番中であろうとブースに差し入れます。どのセッションの資料かをコーディネーターも把握してパスできると、通訳者もパッとキャッチアップして勉強に取り掛かれますので。

経験やスキルの次世代への継承

――佐藤さんが思うサミットについて聞かせてください。

:規模や内容にかかわらず、お客様の案件はどれも大切で特別なものですが、時の首脳や要人が一堂に会するサミットにはやはり独特の空気感があります。百戦錬磨の通訳者たちも必死で臨んでいますし、「通訳をやっているからには、G7サミットで通訳をやりたい」と目標にする通訳者も多いです。ある種、通訳者にとっても一つのサミット(頂上)と言える存在なのかもしれません。

また、サミットには関係省庁の方々はもちろん、会議運営会社や機材会社、他の通訳会社から手配された通訳者やスタッフなど多くの人が関わっています。現場には、関係者全員が所属の枠を超え「サミットを成功させよう」という一心のもと、時に連携し、時に助け合いながら、各々の責務を全うしようというとてつもないパワーがあふれていて、終了時には「やり切った……」という圧倒的な充足感に満たされます。

――究極のワンチームという感じがしますね。では最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。

通訳者は黒子のような存在で、スポットライトが当たることはありません。コーディネーターはさらにその裏方の存在です。しかし、サミットのコミュニケーションサポートの一役を担えることに、通訳者もコーディネーターも大変誇りとやりがいを感じて業務に励んでいます。今後ニュースで見かける時、そういう裏方の存在がいることを少しだけでも思い出し、通訳に関心を持っていただけたらとても嬉しいです。

サイマルでは、通訳者・スタッフともに、サミットなど国際会議での知識や経験を次世代に継承していくことにも注力しています。「ことばのプロフェッショナルとして、国と国、人と人を超えた国際コミュニケーションをサポートする」というミッションのもと、創業から60年近く、多くのお客様にご支持いただいてきた通訳サービスを継承し、さらに磨き続けながら、お客様の大切な「思いを伝える」パートナーであり続けたいと考えています。


『通訳・翻訳ブック』編集部

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