教材の選び方(1)【英語発音上達のコツ】

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レベルやキャリアを問わず、関心の高い「英語の発音」。英語音声学や発音指導のプロである青山学院大学准教授の米山明日香さんが、その上達のコツを詳しく解説します。今回から2回連続で教材の選び方についてお伝えします。

どのような基準で選ぶか

英語発音を教えていると「どのような教材や素材を選べばよいですか」という相談をしばしば受けます。発音練習の際に使用に適した素材としては、(1)発音練習に使える音読用教材と(2)発音に特化した教材の2種類が考えられます。

では、どのような基準でそれらの教材または素材を選べばよいのでしょうか。

【条件1】英語レベル

まず考慮すべきことは、自身の英語のレベルです。これは特に(1)に当てはまる項目なのですが、「発音を鍛えたい」「学習したい」と考える場合には、自分の英語のレベルよりも下位のレベル、つまり英語を読んだ際に内容が9割以上理解できるレベルのものを選ぶことをおすすめします。 ということは「自分の英語力よりもはるかに下位のレベルに相当する内容の素材」ということになります。

なぜならば、発音練習をする際には意識を発音に集中させたいので「文章全体の意味が不明」とか「単語の意味がよくわからない」といった状態での学習を極力避けたいからです。 その点では、通訳学校や英語学校などに通っている場合には、すでに使用したことがあり内容を十分に理解した英語の教材や、学生ならば、学校で既習の教材などといったものは、発音練習には適した素材と言えるでしょう。

【条件2】教材の内容

次に、教材の内容についてです。特に(1)の音読練習の際に、教材選びに迷うことがあります。結論から言うと、この場合、内容は問いませんので、ご自身がお好きなものや興味のあるものから選んでください。

声に出して発話することを楽しく感じること」が学習を促進するうえで重要なカギとなりますので、政治や経済といったビジネスパーソンになじみの深い分野のものだけにとどまらず、時には平易なエッセーやコラムなどのように目線を変えてみるのも一案です。その意味では、子供用の素材というのも侮れません。具体的には、子供に読み聞かせをする際に有効な「マザーグース(英語の伝承童話)」や英語圏の子供たちが読む「児童書」などは、リズムや音の羅列や組み合わせに優れていますので、発音練習用の素材としては非常に適しているのです。

【条件3】著者が専門家か

3つ目に、(2)のような発音を学習するための教本を使用する場合、専門家が著した書物か否かを確認することをおすすめします。つまり、英語音声学(※1)的、音韻論(※2)的知識に基づいたものであるかという点を考慮する必要があるのです。それはなぜでしょうか。

現在、発音関連の出版物が本屋や図書館にたくさん並んでいるのを見かけます。しかし残念なことに、中には経験のみや独自の理論に基づいた出版物も見られるのです。

もちろん自らの経験や指導経験に基づいた理論をすべて否定はできませんし、それらも指導上または学習上、重要な要素となります。しかし、発音学習を効果的に行うには、客観的かつ科学的な裏付けに基づいた視点が求められるということを覚えておきましょう。

【条件4】模範となる音声がついているか

最後に、発音練習を行うわけですから、(1)の音読用教材においても(2)の発音に特化した教材においても、模範となる音声がついているものを選びましょう。その際、自分に適したアクセントの話者(例:標準アメリカ英語話者、標準イギリス英語話者)による録音か、あるいは自分が目標とするアクセントの話者によるものかを確認することが必要です。


(※1)音声を対象として研究する学問。特に音声器官とその運動、音の聴取、分析、表記などを研究対象とする。
(※2)ある言語の音の規則や体系を研究する学問。

 



※この記事は2013~2014年にCAISウェブサイト内『通訳情報ステーション』に掲載されたものです。 

米山明日香(よねやまあすか)

青山学院大学社会情報学部准教授博士(文学)。専門は英語音声学、英語教育、発音指導、英語プレゼンテーションなど。大学卒業後、英国University College Londonに留学し、音声学修士号(MA in Phonetics)を取得後、日系航空会社勤務、通訳者、大学講師などを経て現職。公式ブログ:http://blog.livedoor.jp/bihatsuon/

【続きはこちらから】教材の選び方(2)

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