丁寧な下準備と日々の積み重ね【プロ通訳者のスキル向上メニュー】

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第一線で活躍するプロの通訳者は、スキル向上のためにどんなことを心がけ、実践しているのでしょうか。このシリーズでは、サイマルで活躍する通訳者が、多忙な中、更なる向上をめざし日々実践していることなどを紹介します。今回は、中国語通訳者として、また通訳者養成の講師として活躍する大森喜久恵さんが登場です。

通訳業務のための下準備、心がけていること

通訳者になる前と後とで、勉強の仕方に違いがあるとしたら、それは、通訳者はより多くの時間を準備やリサーチに費やすようになることかもしれません。語学力や通訳技能の基礎は早いうちに固めておくに越したことはなく、通訳者になったら、仕事前の下準備を丁寧に行うことが大切だと思います。

下準備をするにあたり、全体像がつかめていないために、資料を読んでも十分に理解できない、といった苦労をすることがあります。そのようなとき、私はしばしば入門書や解説書に頼ります。駆け出しの頃は、どの分野も初めて触れるに等しく、経済関係ではよく日経文庫のシリーズを活用しました。初めてブロックチェーン関連のセミナーの通訳依頼を受けたときも、初心者向け解説書を数冊買い込んで予備知識を入れました。

こうした参考書は、背伸びせず、読みやすそうなものを選ぶようにしています。今年になって病理学の学術交流の通訳をする機会がありました。医薬関連の通訳経験は多少ありますが、こと病理学に特化した会議は初めてです。そこで、発表用資料が届く前から、図解入りの入門書で「そもそも病理学とは」というところから勉強しました。結局、会議前に送られてきた資料は細胞組織など写真ばかりのものが多く、入門書に目を通しておいて良かったと感じました。

とはいえ、事前準備には時間的制約がつきものです。このため参考書も拾い読みしかできないことも多いのですが、たとえ目次と索引にさっと目を通すだけでも、その分野の大枠やキーワードを感覚的に知ることはできます。もちろんインターネットの便利さは言うまでもなく、単語検索はいまやインターネットが不可欠です。しかし、体系的に基礎知識を得るには書籍も大変有用で、あとあとまでその知識が定着しやすいように思います。特に巻末の索引ページは、既成の「重要単語リスト」として活用できて便利です。

会議シーズンにもなると色々な会議の下準備に追われて、自転車操業になりがちです。そこで私が心がけていることのひとつは、予測と段取りです。仕事の依頼が入った時点、或いは資料が入り始めた時点で、割ける時間がどれだけあるか、何をどう準備すべきか予測して段取りをつけておきます。そして、ほぼ1週間単位に、翌週何をすべきか再確認するようにしています。

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もうひとつ最近心がけているのは、合理的な分担です。複数の通訳者が組んで通訳する場合、あらかじめ通訳者同士の割り振りを決めておきますが、その際に、ただ機械的にアジェンダの上から順繰りに割り振るだけではなく、状況に応じて多少順序を入れ替えてでも、銘銘が準備しやすく、集中しやすい回し方を、お相手の通訳者とも相談して工夫するようにしています。些細なことに思えるかもしれませんが、チーム全体として効率を上げ、通訳パフォーマンスを上げるためにも分担の仕方は重要で奥深いと感じています。

通訳のために日常的に続けたいこと

以上、事前準備にかかわることを述べました。最後に、通訳に関連して日常的に続けたいと思っていることをご紹介します。

(1)中国語に触れる機会を意識的に保つ

日本を拠点に稼働しているので、第二言語である中国語に触れる機会は少しでも多くしたいものです。私は放送通訳にも携わっており、その必要性から中国メディアのニュースはこまめに視聴しますが、余裕があれば討論番組や要人スピーチなども聴くようにしています。スクリプトを探せるものや、中国語字幕付きの音声素材は内容確認がしやすくて良いと思います。このほかBBCなど欧米メディアの中国語版SNSをフォローするなどして、様々な視点から世の中を見るようにもしています。

(2)気になる表現に出会ったら書き留める

留学していた高校で、いいなと感じる表現やフレーズを含む文章をみつけ、ノートに書き写して提出するという課題がありました。国語の作文指導で定評のある先生の課題で、毎日提出させられましたが、これはとても力になりました。周りを見ても、こまめに書き留める習慣のある人は、言葉に敏感で、表現力も豊かだなと思います。

(3)通訳練習を録音してみる

コロナ禍で家にいることが増えたことと、リモート通訳で使用するヘッドセットやマイクを揃え始めたのをきっかけに、スピーチやニュースの音声素材を使ってシャドーイングしたり、同時通訳したりする自分の声をときどきパソコンに録音しています。自分の通訳音声を聴き直すのは勇気の要ることですが、癖や滑舌、ひいては発音を矯正するのに役立つはずです。音声編集ソフトを使えば、オリジナル音声と通訳音声を重ねて録音することもできますので、同時通訳の練習にはうってつけだと思います。

(4)気分転換もする

根を詰めた仕事の後は、気分転換も必要です。家事が気分転換になることもありますし、最近は、縫物にハマっています。去年のマスクづくりから始まって、今は端切れでヘッドセットやイヤホンを入れる巾着袋を縫って楽しんでいます。


皆さんは、通訳のために何か心がけていること、日常的に続けていることはありますか。
この記事が少しでも皆さんの参考になれば幸いです。



大森喜久恵さん
大森喜久恵(おおもりきくえ)

東京都生まれ。高校、大学時代を中国で過ごす。帰国後サイマル・アカデミーで通訳訓練を受ける。フリーの会議通訳者。首脳、閣僚会合など政治経済分野を中心に活動。1989年から同時通訳。放送通訳者としても活躍。

 

 


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