プロの通訳者は、「プロであり続ける」ために、日々、どんなことを心がけ、実践しているのでしょうか。このシリーズでは、サイマルで活躍する通訳者が、多忙な中、更なる向上をめざし実践していることなどを紹介します。
はじめに
私はトップクラスの通訳者ではなく、まだまだ発展途上通訳者ですが、今回この記事の執筆のお話をいただいたので、日々心がけていること2点について書いてみたいと思います。
その2点とは、時事フォローと読書です。
時事フォローで語彙力をつけ、表現の幅を広げる
まずは時事フォローについてです。通訳の案件は最先端の内容が多いため、日々ニュースを追いかけることは大変役立ちます。私は活字媒体では『日本経済新聞』とThe Economist、音声媒体ではNHK WorldとBBC Worldのポッドキャストを使用しています。これらをまとめて定期的に聴くことで、効率的に日本語と英語で情報を入れられるため、自然と語彙や表現の幅が広がります。
たとえば、朝刊で「まん延防止措置」という表現が気になったとします。すぐに調べられない場合は、とりあえず「英語ではなんと言うんだろう」と強く意識しておきます。そして、移動中などにNHK WorldやBBCなどの英語ニュースを聴きます。
朝刊に出ているような内容であれば、英語ニュースでも取り上げられていることが多く、注意して聞いていると、quasi-state of emergencyといった訳があてられているのがわかります。このように、その場ですぐに調べなくても、日本語と英語の並行インプットができるので、両言語での時事フォローは語彙を増やすのに大変効果的です。
読書は趣味と実益を兼ねて
次に読書が挙げられます。読書は趣味なので、仕事のためにやっているわけではありません。私はテレビのない家庭で育ったので、自然と本を読むようになりました。
話題になっているものを読むことが多いです。最近だと、芥川賞を受賞した『彼岸花が咲く島』を読みました。ほかにも近年の芥川賞受賞作でいうと『推し、燃ゆ』『コンビニ人間』『むらさきのスカートの女』などは、非常に読みやすかったです。ちなみに読書のボリュームとしては、自分の嗜好やジャンルを問わず、週に1冊ほどは読んでいます。
仕事が終わったあとに興味が出て、関連書を読むこともあります。先日は、M&A関係の会議を担当しました。M&A関係の通訳は何度かやってきているので、単語などはある程度知っていましたが、一度まとめられたものを読んで、全体像を理解したいと思ったので、やはり入門書を読みました。
担当する案件すべての分野について入門書を読んでいたら、時間がいくらあっても足りません。何度か同じテーマの案件を担当したあとに「この分野の案件は今後も何回か担当するかもしれない」と感じた場合に、本を読むことが多いです。たとえば、最近は次の一万円札の顔になる渋沢栄一の話がよく出るので、『論語と算盤』の現代語訳を読みました。渋沢はお妾さんをたくさん囲っていて、子どもが100人くらいいたというエピソードくらいしか覚えていないのが情けないのですが……。
ちなみに今はグリーンエネルギー関連の案件が何度か続いているので、次に同じテーマの案件が来たら入門書を読んでみようと考えています。また、通訳を担当する講演者に著書があることもあります。そのような場合は最新のものに目を通し、案件に臨むようにしています。
洋書を読むこともあります。洋書は日本語の本に比べて読むのに時間がかかるので、案件の準備の場合は日本語の本を読むことがほとんどですが、Pleasure Readingとして読んでいます。最近はカズオ・イシグロの『クララとお日さま』を読みました。私の場合は読書をすることが多いですが、映像が好きな人は映像を使えばいいと思います。自分が好きではない媒体でインプットをしようとしても、なかなか続けられません。
実は私は映像媒体があまり好きではなく、集中力が続きません。ただ、通訳では話し言葉を扱うので、映像から学べることも多そうです。そこで、食事をしているときは海外ドラマを観るようにしています。今は『SUITS/スーツ』という弁護士ドラマを視聴しています。
孔子の言葉に「努力するものは、楽しむものに勝てない」というものがあります。周りの人を観察していると、その通りだと思います。人の好みは千差万別です。自分のタイプを見極め、苦にならないかたちでインプットすることが、継続の秘訣ではないでしょうか。
読書になるかわかりませんが、話題になっている漫画も読みますし、ゲームもやります。『あつまれ どうぶつの森』と『鬼滅の刃』の英訳は、何度パートナーにメモを出したかわかりません。ここ1年半くらい、『鬼滅の刃』の話は非常によく出ました。もしかしたら、読んでいる(読んでいた)『進撃の巨人』『呪術廻戦』『東京リベンジャーズ』などが役に立つ日もそう遠くないかもしれません。まだ仕組みがよくわかっていませんが、『ウマ娘 プリティーダービー』というアプリゲームも始めてみたところです。
個人的には、著書があるような人は、きちんと考え方がまとまっていて、原稿やパワーポイントに頼らずに話をすることができるので、通訳をやっていて非常にやりがいを感じます。ただ、そういった案件は聴衆も多いため、自分の通訳技術が低いとなかなか担当させてもらえません。今後、そのような案件も多数担当できるよう、これからも広く深く、色々と吸収していきたいと考えています。
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