洋上風力発電における通訳・翻訳の役割:グリーンエネルギー特集

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世界的に推進の動きが加速するグリーンエネルギー。今回は、特に大きな注目を集める「洋上風力発電」にフォーカスし、国内での取り組みや、その普及において通訳・翻訳が担う役割などを、一般社団法人 日本風力発電協会(JWPA)専務理事の中村成人さんに伺いました。

グリーンエネルギーの主軸、洋上風力発電

なぜ今、グリーンエネルギーなのか

――最近よく新聞やテレビで「グリーンエネルギー」という言葉を目にします。そもそもグリーンエネルギーとはどういったものでしょうか。また、なぜ今、電力源を従来のものからグリーンエネルギーに変えようという流れになっているのでしょう。

中村理事(以下、中):このグリーンエネルギーだとかグリーン成長戦略というのは、2020年10月に当時の菅総理が国会の所信表明演説で行った、2050年に日本はカーボンニュートラルを実現するんだという、いわゆる「カーボンニュートラル宣言」をされたことによって注目を集めています。日本ではこの国会での演説宣言以来、エネルギーに限らず、環境や社会全体が大きく変わろうとしています。一方、世界全体では2015年に気候変動防止のためのパリ協定が採択されて以来、このまま行くとわれわれの子孫の未来はないという危機感から「何とか気候変動を止めよう」という動きが一気に加速してきました。

また、さらにさかのぼると、1997年に京都議定書という国連の気候変動枠組みに関する国際条約が日本で採択されています。私はこれが本当は世界全体が気候変動対策へ大きく舵を切ったきっかけだったと思っています。日本の風力発電もその翌年から本格的に導入が始まっているからです。

では、一体カーボンニュートラルのポイントは何なのかと言いますと、電力を脱炭素化するという意味です。そんな簡単にできはしないですが、極端に言うと、全ての電源は全部脱炭素、要するに「GHG(温室効果ガス)を出さない電力にしていく」というのが究極の目標です。

日本では2018年時点で年間10.6億トンのGHGを排出していました。GHGは電力と非電力由来のものと大きく2つに分かれます。電力由来のものは42%ぐらいで、いわゆる発電によって排出されます。ちなみに非電力というのは、我々の家庭、鉄鋼業やセメント業のような燃料を燃やす産業、車や飛行機といった運輸業によって排出されています。

一方、発電してもGHGを排出しない脱炭素電源として、再生エネルギー、原子力、水素などがあります。これらを活用し、電力の発電関係によるGHGの排出を限りなくゼロに近づけるということがカーボンニュートラルの要諦なんです。

また前後しますが、2050年にかけて電力需要は5割増しぐらいになる見込みとも言われています。これは別に家庭でガスを使っている人が悪いというわけではなく、世界的な流れとして石炭火力発電所はもうやめようとか、脱炭素化していくと社会全体の電化が進み、それによって世の中が変わるということなんです。

それから、もっと言うと産業構造も変わります。私が子供の頃は一次産業(農業)、二次産業(鉱工業)が中心だったんですが、今は三次産業が日本の経済の中核になっています。そういうふうに常に世の中の産業構造は変わるんですけれども、カーボンニュートラルを促進すると産業構造がさらに変わり、産業間の人口移動が起こることが予想されます。現在、日本だけでなく、世界的にも、若年の労働力がうまく活用されていない側面がありますが、そういう方々にも新しい仕事のチャンスが増えると考えています。逆にいうと、カーボンニュートラルによるイノベーションを起こし、新しい産業を作っていかなきゃいけない。今までは環境に優しいとかグリーンというと経済発展の足かせになるという印象でしたが、イノベーションを活用してむしろ成長の原動力に変えていくんだというのが、実はこのグリーン成長戦略の根幹であり、今、世界はそういうふうに動いているんです。

洋上風力発電によって、日本の産業を元気に

――なるほど。それでは、洋上風力発電というのはどのようなものなのでしょうか?


:洋上風力発電は、グリーン成長戦略のなかでも大黒柱として期待されています。特に電力業界では、洋上風力発電でイノベーションを起こしてコストを下げながら一大産業へと築き上げていくんだということで注目を浴びています。

IEA(International Energy Agency)の2020年12月の「Sustainable Recovery Plan」によると、世界は今後3年間、毎年1兆ドルを再生エネ導入策、省エネ対策などの環境関連対策に投資することで、世界のGDPが年平均1.1%増加する、年間900万人の雇用創出が見込まれるし、GHGも2019年をピークにして減らすことが可能になるという研究成果があるそうです。これは世界的にはグリーンリカバリー、日本ではグリーン成長戦略と呼ばれています。イノベーションを使ってそこに先行投資し、その数倍の効果の経済成長と、成長すれば当然雇用は付いてくる。グリーンリカバリーによって、コロナで失ったものの何倍の雇用を生み出すことが可能だということで、各国がその最先端の分野である洋上風力に注目しています。

日本では、2020年7月に経済産業省と国土交通省とわれわれ民間が一緒になって、官民協議会という組織を立ち上げ、同年12月には「洋上風力産業ビジョン」を発表しました。各国の政府でも洋上風力発電の生み出す雇用効果、経済波及効果に注目して、いまや国の産業戦略になっています。

これはサイマルさんにもたくさん通訳や翻訳していただいたりしていますが、いわゆるパブリックプライベートダイアログというやつです。日本版はイギリスを参考に官民が協力して作っていて、目標とする数字もすごく似ているところがあります。イギリスは22~23年先駆けていますが、日本の場合は同じことを10年でやろうとしています。日本にはすでに品質管理や大量生産の技術力、基礎的な産業力などは備わっていますから、そういうものを生かし、最初はヨーロッパから学ぶことで、イギリスの半分の期間でやろうという野心的な戦略です。

国内の調達比率などは、2040年をめざして民間側が自主的な目標を設定して、20年先の話をしているんですけれども、国産化をはかることで日本にも立派な産業ができると考えています。政府が打ち出してくれた導入目標を実現していけば、年間何十万トンという鉄を使うんです。日本の鉄鋼業や造船業は品質こそ世界一とも言えますが、国際的な競争によって元気を失いかけています。それを洋上風力産業に参画することで彼らが復活するチャンスになるかもしれないと考えています。

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洋上風力発電と通訳・翻訳

洋上風力発電で、通訳・翻訳のニーズが高い理由

――洋上風力発電においては、他のエネルギー分野と比較して通訳・翻訳ニーズが高い印象を受けます。特に通訳・翻訳が必要な理由があるのでしょうか。


:これはさっき申し上げたように、われわれは主としてヨーロッパの業界に学ぶ必要があるというのが大きい理由です。

今、日本の洋上風力発電では日本企業と海外企業がたくさんタイアップしています。われわれも「あ」とか「う」とかという英語ぐらいなら何とかやっていますけれども、やっぱりお互いに母国語でやるほうが間違いはないし、コミュニケーションの効率もいいということで、皆さんのような語学のエキスパートのお力を借りながら進めているんです。

技術とかそういうものは、日本の会社もヨーロッパの会社もそれぞれ専門性が高いわけですけれども、言語というのは皆さん方のような専門家のお力を拝借して効率よく、間違いのない通訳や翻訳で助けていただいて、きちっとした成果を挙げていくというのがもう絶対に必要になってくるんです。

例えば、われわれは「Global Wind Energy Council」というところと定期的に大会議をやっていますが、その同時通訳もサイマルさんにお願いしているのはそういう理由なんです。2021年も10月に開催する予定ですけれども、もう期待しています。先方から「次もサイマル・インターナショナルの通訳ですよね?」と連絡があったので、「もちろんです」と伝えています。

――ありがとうございます。ところで、中村さんがサイマルをお知りになったのは、官民協議会でサイマルの通訳を入れていただいた時でしょうか。

:いえ、ある企業の方からも紹介はされたのですが、そもそもサイマルさんのことは、私が学生の頃から知っているんです。もう50年くらい前から知っていますよ。

しかし「サイマルは高い」と聞いていて、お見積をいただいたら、正直言って、ちょっと他社よりは高かったんです。でも、思ったほどじゃないなと。だったら高品質と評判の高いサイマルさんにお願いしましょうかと。それで、最初にいくつか短めの翻訳を試しにお願いしてみたんですが、やっぱり出てくるアウトプットが違うなと感じました。われわれの英語力でそんなことを言ったら逆に怒られてしまうかもしれないですけれども。なるほどこういう言い方をするのかと、本当に勉強になりました(笑)。

通訳・翻訳サービスで一番求めているのは「信頼できる品質」

――ありがとうございます。

:いえいえ。やっぱり国際会議となると、間違えるわけにはいきません。だから、少なくとも私の判断基準は、基本はやっぱり品質ですよ。もちろん価格とか納期というのは重要ですけれども、われわれが一番サイマルさんに求めているのは、やっぱり信頼できる品質なんです。その品質を築くためには、通訳者翻訳者の方は経験をお積みになっていないと難しいですよね。

それと、われわれがずっとサイマルさんにお願いしているのは、一緒に勉強してくれていると思っているからでもあるんです。ずっとお願いしていると、どんどん質が上がっていく。日本独特の業界で使われている言い回しというのがあります。だから、サイマルさんに訳していただいたやつでも、私は「それは言い方が違います、日本ではこういう言い方をするんです」と訂正することもあります。そういったところを一緒に勉強してくれる通訳者だと安心できる。そして、一度伝えると、サイマルさんは二度と違う訳はしないですね。それが素晴らしいと思う。だから、サイマルさんから変えたくないんです。変えると、また間違っていないか心配して見なきゃいけないじゃないですか。われわれはそう思って、サイマルさんはずっと長いお付き合いをさせていただきたいなというふうに思っています。

――そんなふうにお考えいただき、本当に嬉しいです。日本では新しい分野のものですと、なかなか日本語で定訳を探しても見つからず大変な部分もあります。しかし、初めにお話いただいたように、社会構造を変えるような大きな流れに関われるやりがいも非常に大きいと思っています。今後通訳、翻訳者がこういった案件に関わる上で、どういった姿勢で臨めばいいか、また、何かメッセージがあればいただけますでしょうか。


:特別メッセージじゃないですけど、もし電力や洋上風力に興味を持っていただき、その分野の翻訳・通訳で身を立てようとお考えになっているんでしたら、さっき私が言った「Global Wind Energy Council」などのレポートをなるべく見ていただきたいです。

向こうのエキスパートが書いているレポート、他には洋上風力では特に有名なイギリスのコンサルタントでBVG Associatesというのがあるんです。技術用語じゃなくても、例えば「産業の成熟化が進むに従って」とか、そういう言い回し一つとっても、やっぱりネイティブスピーカーのものはすごく勉強になるんですよね。しかも文章になっているものは特にね。それに、英語だけじゃなくて何が起きているのか、そういうことがどちらへ向かっているのか、技術の進む方向だけに限らず、世の中はどちらを向いて何が走っているのかがわかると思います。だから、時々でも目を通していただきたいですね。

サイマルさんにはせっかく実力を見せていただいたんで、本当に正直に一緒に勉強しながらお互いにもっとどんどん質のいい仕事ができるようになったらありがたいなと思っています。今後とも、ぜひよろしくお願いします。

中村成人専務理事
中村成人 (なかむら しげひと)

一般社団法人 日本風力発電協会専務理事。東京都出身。1972年慶應義塾大学法学部を卒業し、株式会社トーメンに入社 (現・豊田通商株式会社)。電力事業本部第一部長として 風力発電事業の開発、運転保守業務を統括。株式会社ユーラスエナジーホールディングス 専務取締役を経て、2014年5月から現職。

『通訳・翻訳ブック』編集部

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■一般社団法人 日本風力発電協会 オフィシャルサイト


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