Verbs vs Nouns(動詞と名詞)――主役はどちら?【ポール・ウォラムの視点】

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日本語ネイティブ翻訳者が間違えやすい訳や文法を5回にわたりピックアップ。今回のテーマは「動詞と名詞」です。より自然な英文にするために気を付けるポイントはなにか、ハーバード大学で日本文学を専攻、日本語にも精通する翻訳者、ポール・ウォラムさんの解説でお送りします。

新型コロナ感染拡大に伴い、公共施設の掲示やウエブサイトで次のような短いフレーズをよく見かけます。

「マスク着用の徹底」
「消毒の実施」

フレーズの構造はとてもシンプルで、いずれも名詞句です。これをそのまま名詞句として英訳すると、次のようになるでしょうか。


Thoroughness of mask-wearing
Implementation of disinfection



質の高くない日英翻訳でよく見られる英語表現です。街中で周りを注意深く見渡すと、こうした例がすぐに見つかるでしょう。意味は伝わりますから、英訳の役目は最低限、果たしていると言えるかもしれません。しかし、もっと伝わる英文を書いてコミュニケーションを取りたいと思っているなら、ここで満足してはもったいないと思います。

長い文章のなかでは名詞句が見つけにくくなります。特に、新聞記事や政府による文書など、中国語由来の熟語を多用している文章、つまり「漢字だらけ」の文章はこの傾向が顕著です。こうした文章を英訳するときに、名詞句は名詞句のままで英語にすると、難解で不自然な英文となり、相手は読む気を失ってしまうかもしれません。

それでは、名詞句に注意しながら、次の日本語例文を読んでみてください。


「政府は新たな環境問題となっているプラスチックの利用状況について企業に情報開示を求める方針だ。年内に、植物由来の素材などの導入状況やリサイクル率など情報開示すべき項目をまとめたガイドラインを企業側に示す。要請に法的な拘束力はないが、環境意識の高い投資家や消費者から企業の取り組みが評価できるようにし、ごみ削減につなげる。」


熟語が「について」や「などの」で結びついている場合も、広い意味で名詞句ととらえれば、この文章は名詞句が80%近くを占めています。

もちろん、英語にも名詞は数多く存在しますが、名詞句があまりに多く含まれている英文は、読みづらくなります。次の英訳は日本語の名詞句をそのまま英語にした訳文の例です。

The government’s direction is to demand information disclosure from companies regarding the usage situation of plastics, which is a new environmental problem. Within the year the government will issue guidelines to companies of items requiring information disclosure, such as the implementation situation of plant-based materials and the recycling rate. The request does not have legal binding force, but will make it possible for investors and consumers with a high environmental consciousness to carry out evaluations on company efforts and will lead to refuse reductions.


たとえば、日本語の「導入状況」は、“implementation situation”と訳されています。書き言葉としての日本語は、漢字の熟語を使って多くの情報を伝えようとします。

こうした情報は、日本語の名詞の一部を英語の「名詞+動詞」のフレーズに変えることで、もっと自然な英語で表現できるのです。

次の訳例を見て下さい。上の名詞句が動詞として訳されています。

The government will ask companies to disclose information about their use of plastics, which is rapidly coming to prominence as a major new environmental problem. Guidelines will be issued to companies by the end of the year outlining details of the items that companies should make available to the public, which will include the status of moves to introduce plant-based materials and recycling ratios. Although it will not be legally binding, the request will allow environmentally aware investors and consumers to evaluate companies’ efforts in this area, and should help to reduce waste.


英語は動詞が好きな言語です。日本語は文章の種類によっては、熟語の名詞をいくつも羅列しても問題ありません。その理由の一つとして、中国語では熟語がじつは動詞として機能していたからではないかと、個人的に考えています。

今回の例文やこうした「漢字だらけ」の日本語の文では、多くの名詞がじつは動詞として機能しています。特に、動作を表す熟語、つまり、後ろに「する」をつけると動詞になる熟語は、意味のうえでは動詞として働いているのです。

そのため、日本語を英訳するときには、名詞を動作にする必要がある場合が多くあります。名詞を動詞に変えることで、こなれた英文に仕上がるのです。

次の文は先ほどの日本語例文の続きです。


「新たに作るガイドラインには、廃棄物の量や削減目標、環境負荷の少ない素材の導入状況などの開示を盛り込む方向だ。」


日本語の名詞句を英語の名詞として訳した例と、

The new guidelines will include disclosure of waste amounts, reduction goals, and eco-friendly material implementation situations.


英語の動詞として訳した例を比べてみてください。

The new guidelines will call on companies to disclose details including the volume of waste they currently produce, their targets for reducing this, and the progress they have made toward introducing new materials that reduce the burden on the environment.


2番目の英文の方がずっと読みやすくなっていることがお分かりいただけたでしょうか。

このように、それぞれの言語の特徴に鑑みてそれに沿う表現で訳出することが、自然な文章にする上で大切なのです。


 

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ポール・ウォラム(Paul Warham)

イギリス出身。オックスフォード大学、ハーバード大学で日本文学を研究。英語の旅行ガイドブック記者、翻訳会社勤務を経て、現在はフリーランス日英翻訳者として実務翻訳から出版翻訳まで幅広く活躍。サイマル・アカデミー翻訳者養成コース講師。

 

 

 

 




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