北京発・最近の中国語翻訳事情【中国語ホンヤクの世界】

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英語以外の言語の翻訳事情や、仕事のエピソード、スキルアップ情報などを、翻訳者がリレー形式で紹介します。今回は「中国語ホンヤクの世界」。執筆者の鈴木玲子さんが、自身が登録している北京のエージェントに聞いた翻訳事情や、日本との違いについてご紹介します。

中国語と日本語の会議通訳や翻訳の仕事をフリーの形でかれこれすでに20年以上こなしております。そのうち、10年以上は活動の拠点を北京に移していたので、今回は北京の翻訳事情を私が登録している現地のエージェントへのヒアリングを通じて紹介してみたいと思います。

北京の翻訳事情――現地エージェントへのヒアリング結果

取材対象の翻訳エージェントはいずれも日本の顧客を中心としていますが、2008年から2018年までの10年間の翻訳事情の変化について聞いてみました。

  • クライアントがほとんど日本ベースであるエージェントの翻訳業務は日中の政治関係・経済関係からの影響が比較的顕著に出ているが、中国ベースの顧客もある程度確保しているエージェントの場合、そのような影響をあまり受けていない。
    経済的には、日本企業は中国での経済活動を縮小する傾向がしばらく続いたうえ、政治的にも数年間の冷え込みがあったため、この二つを重ねた結果おそらく北京の翻訳市場に多かれ少なかれ影を落としたと思われる。
  • 翻訳業務の分野は幅広くあり、安定的に推移している分野は特許、経済、教育、自動車、法律、文化、エンターテインメントなどがあげられ、エージェントによっては環境、金融、広告などの分野が低調を余儀なくされた。
  • 機械翻訳が話題を呼ぶなか、実際に翻訳ソフトを導入する会社も出てきた。TradosやMemsourceなどのツールが活用されるようになり、翻訳業務の効率化にかなり貢献している。そして、将来的には、機械翻訳+人間による校正業務が新たな市場として浮かび上がってきそう。
  • クライアントの変化については、10年前と比べて、中国企業からの委託業務が急速に増えている。一方で、日本企業の一部が中国市場での販売不振により広告収入が急激に低下したため、日本企業にサービスを提供するPR会社からの業務委託はすっかり下火になってしまった。いかに中国の顧客を囲い込んでいくかが今後の課題。
  • クライアントの翻訳に求めるものはこれまでとはあまり変わりがなく、リーズナブルな価格で高品質な仕上がりが常に要求されている。
  • 翻訳者については、もっぱら翻訳を生業としている人もいれば、ほとんど兼業(通訳を兼ねて)で活動している人もいる。ただ、いずれにせよ、翻訳者は基本的にフリーランスであり、日本人の翻訳者はほぼ中国で留学か仕事の経験を持っている。
  • 翻訳者へ求めるスキルとしては、言葉の力・専門知識・翻訳経験のいずれも不可欠だとしつつ、翻訳補助ソフトの使いこなしも求められている。

日本のエージェントとの違い

一方、私自身、中国と日本の両方の翻訳エージェントに登録していますので、その違いを簡単にまとめてみたいと思います。

中国では、翻訳者としてエージェントへの登録は紹介によって成り立っている側面が非常に大きいような気がします。その際に、翻訳者同士、大学在学中の先生のコネクションがとても大切です。登録はトライアルを経て確定され、単価の取り決めなども行なわれます。

日本では、『通訳・翻訳ジャーナル』のような業界専門誌を頼りにエージェントに登録することは正規ルートの一つとして確立されていますが、中国にはありません。ただ、エージェント主催の社会翻訳講座がたまにあるため、それに参加するチャンスがあれば、そこのエージェントに登録できる可能性があります。

それから、日本では母国語への訳出が基本となっていますが、中国では日本語を母語とする人材が少ないため、両方をこなす翻訳者が求められています。私自身は日本で日本語から中国語への翻訳案件しか引き受けていませんが、中国では中国語から日本語への翻訳案件もときどき行なっています。

フリーの立場で翻訳者を目指すのであれば、あまり日本、中国を意識せずにもっと広い目線と長いスパンで翻訳の仕事を考えていくことが大事だと思います。日本語を母語とし、将来中国語と日本語の翻訳の仕事に従事したいとお考えの方には、学びの場として中国の北京を選ぶのは大変良いことではないでしょうか。

日本人の留学生が少ない中、はじめは中国の大学の先生と中国人の同級生を頼りに、地道に人脈を構築しながら仕事のチャンスを徐々につかみましょう。そして経歴書にある程度の厚みが見えてきたころ、日本の市場にもアピールして両方の市場で活躍できたら、非常に素晴らしいことです。

翻訳の仕事というのは、もともと地域や場所にとらわれるものではないので、そのような強みを大いに活用しようではありませんか。 

 

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鈴木玲子(すずきれいこ)

北京生まれ、筑波大学国際関係学部卒業。サイマル・アカデミー日本語中国語同時通訳コース修了後、フリーランスの会議通訳者・翻訳者として日本と中国を行き来しながら活動。


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