国会議員秘書からキャリアチェンジで通訳者へ(前編)【マイストーリー】

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「なぜ通訳者翻訳者になったのですか」――答えはきっと人それぞれ。バックグラウンドや経緯、めざす通訳者翻訳者像など、通訳者翻訳者が10人いれば、10通りの道があるはずです。この「マイストーリー」ではサイマル・インターナショナルで活躍する通訳者翻訳者の多彩なストーリーを不定期連載でご紹介。初回は国会議員秘書から通訳者にキャリアチェンジした勝木一郎さんが前・後編で登場です。

国会議員秘書からの転身

私が通訳者をめざしてサイマル・アカデミー(以下、アカデミー)の門を叩いたのは、国会議員の秘書を十数年間務めた後でした。秘書の仕事を退職したのは、ついていた議員の選挙が終わってからでしたが、その数年前には通訳者をめざすことを決めていて、議員とも退職に向けた相談をしていました。

秘書時代にも人間関係には恵まれていましたし、秘書の仕事に大切さ、やりがいも感じていました。そうした中で、通訳者をめざしたいと思うようになったのには、いくつか理由がありました。その中でも大きかったのは、自分で努力と経験を重ねて能力・スキルを高め、その力で勝負をするような仕事への憧れでした。通訳者という職業に「職人」のイメージを持っていたのだと思います。

通訳者をめざした経緯

職人的な職業がさまざまある中で、なぜ通訳者だったのかといえば、学生時代や職場で「通訳」をしたときの体験が背景にありました。国会でも、議員の勉強会や海外視察、外国からのお客様の表敬を受けた際など、いろいろな場面で「通訳」をする機会を得ました。いつも終わった後には心地よい疲労と「楽しかった」という気持ちが残ったのでした。自分の脳のいろいろなところが刺激を受けて興奮するさまを感じました。人に喜ばれたり、褒められたりしたのも嬉しいことでした。

ただ、すぐに自分の将来の職業として通訳者を身近に感じるようになったわけではありませんでした。ひとつの転機は、あることがきっかけでアカデミーの「通訳入門」という短期プログラムを受講したことでした。プロの通訳者である講師の先生から現場のお話を伺ったり、訓練法を体験させていただいたりしたのはとても新鮮な経験で、先生から、通訳の訓練を続けるように励ましていただいたことが大きな刺激になりました。この後、国会閉会中などに週末開講のプログラムにいくつか通いましたが、好奇心が強くて勉強熱心な他の受講生の方たちと一緒に勉強ができて励みになりました。

まだ漠然としたものだったとはいえ、通訳者という「もうひとつのキャリア」のイメージができたことは、仕事の中で行き詰まりを感じたときなどに救いになり、かえって目の前の業務にも集中することができました。

 

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新たなスタートにあたり目標を定める

もうひとつのキャリアとして通訳者を意識し始めたころから、市販のテキストを使って英単語を覚えたり、TOEICや通訳案内士の試験を受験したりと英語の勉強を再開しましたが、本格的に通訳者になるための勉強を始めたのは、退職をしてからでした。

アカデミーに入学をする、何としても授業についていく、そしてそこから仕事につなげていく、ということを目標に定めました。

とくに入学して最初の半年は、ほかに仕事はせず「フルタイムのアカデミー生」として過ごしました。アカデミーの授業そのものは週に2日、2時間ずつでしたが、授業の予習や自主トレなどに時間を使っていました。アカデミーの授業は、実際のスピーチの音声を教材としたもので、事前に、そのスピーチの関連情報が配られます。その資料を基に背景情報を収集したり、関連動画で練習をしたりして、通訳の「本番」に臨む気持ちで準備をしました

試行錯誤と楽しさで始まったアカデミー時代

何しろ10年以上、日常的に英語を使っていなかったので、英語で話すことへの「慣れ」を取り戻すことから必要でした。アカデミーの初登校の時には、英語で自己紹介をすることになったらどうしようかと、数日前から話すことを考え、当日は地下鉄の中でイメージトレーニングまでして行きました。最初の授業の時に張り切って一番前の席に座ったのですが、講師の先生が英語で話をされたのに圧倒される感覚すら覚えてしまいました。

対策のひとつとしては、当時定期的に刊行されていたCD付きの時事英語の教材を買って、ウィスパリングや音読を通して、英語のインプットを増やしたり口を動かす練習をしました。「英会話カフェ」や英会話学校の1日講座に行くなどもして楽しみました。

留学の経験や、仕事で「通訳」をしたこともあったので、慣れさえ取り戻せば比較的自由に英語でアウトプットができそうなものですが、あらためて授業で日本語から英語に逐次通訳をしようとしても簡単なことではありませんでした。自分が話したいことを自分のペースで話すときには話の内容の方を自分の英語力に合わせて調整することができますが、まさか通訳の際に自分の英語力に合わせて内容を変えてしまうわけにはいきません

そうした中、授業の予習は、授業についていって多くを得るためだけでなく、英語力の底上げにも大いに役に立ちました。いきなり日本語のスピーチを聞いて英語にしようとしても自分にはできなかったので、事前資料をもとに、出てくる可能性のある単語や表現をできるだけ列挙して、英語訳を調べたり工夫したりしたうえでイメージトレーニングをしました。前職での経験を生かして、想定されるスピーチ原稿を(スピーチが行われた当時の世相を踏まえた小ネタなども入れて)作成して、それを英語に全訳してみたこともありました。遊び心もあって楽しんでやったことですが、英語の単語と表現を増やし、頭の中で日本語と紐づけていくうえで役に立ったと思っています。

私は大学院を出てすぐ、国会での仕事についてしまったため、ビジネスの実務に関する知識に苦手意識を持っていました。アカデミーの授業では、政治や社会、ビジネスでも経営や戦略といったテーマが多かったので入りやすかったのですが、実際に仕事を始めるにあたっては「未知なものへの不安」があり、最初は心理的な壁を感じたものでした。

勝木一郎
勝木一郎(かつきいちろう)

国際基督教大学卒。慶應義塾大学大学院、米国ミネソタ大学大学院を修了後、ワシントンDCで自然保護団体のインターン。国会議員政策秘書を経てサイマル・アカデミー入学。在学中からサイマル・ビジネスコミュニケーションズを通して社内通訳として勤務した後、サイマル・インターナショナル専属通訳者

【気になる後編はこちらから】

 

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