人を通して企業を見る【小松達也アーカイブス 第二章】

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連載「アーカイブ・シリーズ」では、日本の同時通訳者の草分けでサイマル・インターナショナル創設者のおひとりでもある小松達也さんのエッセイを特集します。50年間にわたる現役通訳者時代のエピソード、プロ養成者の視点から見た通訳者についてなど、第一線を走り続けた小松さんならではの思いやことばをお届けします。

人を惹きつける経営者

今回は多くの経済関係の会議で私が通訳させていただいた方々について少し述べてみたいと思います。

政治関係では大統領や首相など多くの著名な人たちをの通訳を、ビジネス関係では優れた経営者の方々が活躍する場面で通訳をしてきました。その中でも、自分で事業を興し、日本経済を支えてきた人たちは実に個性的で、彼らのお話は小説を読むかのように興味深いものでした。松下電機(現パナソニック)の松下幸之助さん、ソニーの盛田昭夫さん、本田工業の本田宗一郎さんなどです。

松下さんは大阪訛りの穏やかな語り口でしたが、私が彼の通訳をした1970年代前半には『タイム』誌の表紙にもなり、伝説的な存在でした。盛田さんはとても通訳に理解があり、私たちを大切にしてくれました。レセプションの時などはいつも多くの外国の人たちが彼の話を聞きたくて周りに集まってきました。本田さんは独特のジョークが飛び出して苦労しましたが実に魅力的な人でした。私の顔を見ると、いつも「君が活躍できるのは、奥さんのおかげだな」と言いました。私の妻を知っているわけではありません。それでもそう言われると悪い気はしませんでした。本当に人を惹きつける人でした。

伝えるための英語

もう1つ、これは私が通訳に入った仕事ではありませんが、日本の大手企業の記者会見での出来事についてお話しします。

何年か前に某社のリコール問題が大きな話題になりました。米議会での証言の前に、某社の社長は謝罪会見を行っています。記者会見中に外国人記者の要請で社長が一部英語で答える場面がありました。この時の彼の英語について『ニューヨーク・タイムス』が“He added in broken English.”と言ったというのです。私も会見の模様を見てみましたが、先の意見が出るのもむべなるかな、という内容でした。

しかし英語力は「文法的正確さ」(grammaticality)だけではありません。聞き手にいかに言いたいことが伝わるか、気持ちが通じるかです 。私はこの会見の英語の部分を見て、むしろ好感を持ちました。それは、彼がつたない英語でも臆することなく、率直に答えていたからです。その前の日本語の部分が、原稿を読んでいるようで誠意が感じられなかったのに比べ、このつたない英語の部分の方が印象は良かったのではないかと思います。

私が教えていたサイマル・アカデミーでもよく経営者のスピーチを教材に使っていました。ビジネスのことが分かり中身も面白く、とてもいい材料です。不況と言われる時代でも、立派に業績を伸ばし成功してきた企業がたくさんあります。その陰には必ず優れた経営者、起業家がいるのだと思います。人を通して企業を見るのも、ビジネスを理解する一つの方法です



※この記事は2009年5月、2010年3月にサイマル・インターナショナルのWeb社内報に掲載されたものを加筆・再編集しています。


小松達也さん
小松達也(こまつたつや)

東京外国語大学卒。1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、以後、社長、顧問を務める。日本の同時通訳者の草分けとして、首脳会議(サミット)、APECなど数多くの国際会議で活躍。サイマル・アカデミーを設立し、後進の育成にも注力した。サイマル関係者の間ではTKの愛称で親しまれている。

 

 

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