好きこそものの【小松達也アーカイブス 第一章】

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連載「アーカイブ・シリーズ」では、日本の同時通訳者の草分けでサイマル・インターナショナル創設者のおひとりでもある小松達也さんのエッセイを特集します。50年間にわたる現役通訳者時代のエピソード、プロ養成者の視点から見た通訳者についてなど、第一線を走り続けた小松さんならではの思いやことばをお届けします。

外国語を学ぶ上での「好き」という動機

「好きだ」ということはどんな道でも上達するためには大切なことです。通訳をしている人たちはみな言葉が好きな人たちでしょう。と思って、以前サイマル・アカデミーで私が教えていた頃、クラスの人たちに聞いてみました。11名中「必ずしも好きではない」という人が1人いました。理由を聞くと、英語よりドイツ語の方が好きでよくできる、ということでした。ですから事実上は全員が言葉を学ぶことが好きだ、ということになります。大学で教えていた頃、学部では12名中3名、大学院でも8名中3名が「必ずしも好きではない」という答えでした。大学では外国語学部以外に不動産学部でも英語を教えていました。その学部では入学試験に英語は入っていませんでした。そのクラスの学生に聞いてみると、英語が好きだというのは30%くらいしかありませんでした。「好きだ」というのが外国語を学ぶ際の重要な動機であることが分かります。 

動機は2種類

動機(motivation)には2つの種類があるといわれています。

(1)integrative motivation(統合的動機づけ)
(2)instrumental motivation(道具的動機づけ)

「統合的動機づけ」というのは、その言葉あるいはその背後にある文化に惹かれるという理由で、「好きだ」というのがその典型です。「道具的動機づけ」というのはその言葉通り、言葉以外の目的のために手段として興味を持つ、という動機です。たとえば大学受験のために英語を勉強する、あるいはTOEIC700点を取るためにやる、という例です。また最近では、グローバル化の時代には英語は必要だからという人も多いでしょう。先に述べた大学の不動産学部の学生たちの中には「自分は英語は苦手だけど、話せたらカッコいいだろうなあ」という人が多くいました。これらも道具的動機づけに入るでしょう。道具的動機づけも有効ですが、その目的が達成されてしまうと動機が薄れてしまうという欠点があります。やはり「好きだ」というのが一番効果的な動機です。

「好き」に続く重要な要素

でも、好きだからといって必ず上達するとは限りません。私はゴルフが大変好きでした。若いころ(60代くらいまで)週末はほぼ必ずゴルフをやっていました。でも「へぼゴルファー」の域を抜けられませんでした。 上達には継続することも必要ですが、私は20代からゴルフをやっていましたから継続は十分あったはずです。上達しなかったのは、素質がなかったこと、練習方法が悪かったこと、それに心がけがよくなかったことの3つだったと思います。こうしてみると物事が上達するには4つか5つの要素があることが分かります。 

この中では「好きであること」が一番重要でしょう。好きならばほぼ自動的に継続につながります。外からいわれなくても続けるからです。練習方法あるいは指導方法というのも意外に重要だと思います。中・高校での英語教育に関していまだに続いている論争がこのことをよく示しています。この点、通訳クラスでも正しい通訳訓練法は何かといつも模索を続けていました。心がけというか性格的な面も大切な要素でしょう。しかしこれは教える方で変えてゆくことはなかなか難しいことです。学ぶ人一人一人がこの点に気づいて意識的な努力をすることが必要だと思います。




※この記事は2014年5月にサイマル・インターナショナルのWeb社内報に掲載されたものです。


小松達也さん
小松達也(こまつたつや)

東京外国語大学卒。1960年より日本生産性本部駐米通訳員を経て、1965年まで米国国務省言語課勤務。帰国後、サイマル・インターナショナルの設立に携わり、以後、社長、顧問を務める。日本の同時通訳者の草分けとして、首脳会議(サミット)、APECなど数多くの国際会議で活躍。サイマル・アカデミーを設立し、後進の育成にも注力した。サイマル関係者の間ではTKの愛称で親しまれている。

 

 

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