獣医から翻訳者へ――すべての道は翻訳へつながっていた【マイストーリー】

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「なぜ通訳者翻訳者になったのですか」――答えはきっと人それぞれ。バックグラウンドや経緯、めざす通訳者翻訳者像など、通訳者翻訳者が10人いれば、10通りの道があるはずです。この「マイストーリー」ではサイマル・インターナショナルで活躍する通訳者翻訳者の多彩なストーリーを不定期連載でご紹介。今回は獣医から翻訳者にキャリアチェンジした木村香穂理さんの登場です。

翻訳者になりたい!」と熱望して人並みならぬ努力を重ねた……わけではなくて恐縮です。タイミングと出会いに恵まれ、たくさんの「おかげ」に支えられて翻訳者になることができ、自分が一番やりたいことが翻訳だったのだと後から気が付きました。回り道をしましたが、すべての道が翻訳につながっていました。

『ジャングル大帝』の影響で獣医の道へ

小さい頃から生き物が大好きで、『ジャングル大帝』を見てからは、動物のお医者さんになってアフリカに行ってレオと一緒に動物たちを助けてあげたいと本気で思い、獣医への道をまっしぐらに進んでいきました。

途中、中学生の頃にギターを弾いて曲を作ることを覚え、心の内が一番よく伝わって、なおかつリズムやメロディにぴったりあう言葉を探すのが楽しくて仕方なく、夢中になりました。言葉に力があることを知り、言葉へのこだわりができたのがこの頃だったと思います。

さて、描いた夢を追いかけて獣医学科のある大学に入学しましたが、当時の獣医学科で学べるのは主に家畜・家禽、ときどき犬・猫という状態。アフリカの野生動物への夢は少し遠ざかったように感じましたが、事故に遭った犬や猫、捨てられた子犬や子猫にかかわり町の動物病院のお世話になるうちに町の獣医さんになりたいと思うようになり、獣医師免許取得後すぐに千葉の動物病院で獣医師として働き始めました。ちょうど、獣医学科が4年制から6年制に移行する過渡期にあたったため修士課程でさらに2年間勉強、学会発表の機会もいただけたおかげで、日本語と英語の両方で数多くの専門書や文献を読み、誤解を生じることなく伝えたい内容を明確かつ簡潔に文章にするという経験ができたのは幸運なことでした。

動物病院では、院長がとても勉強熱心な方だったおかげでたくさんの専門書や獣医学雑誌を読ませていただき、ここでも、語学と知識の両面で翻訳者としての素養を身につけることができたと思います。

新しい環境で知った「翻訳」することの喜び

結婚のため仙台に移ることになって動物病院を退職し、その後は、家庭の事情により復職せず主婦業に専念しました。主人の仕事の関係で6年余りシンガポールに在住したときは、熱帯の自然について猛勉強し、日本人学校の教職員や児童を対象としたネイチャーガイドを行いながら、シンガポール植物園とシンガポール国立博物館の日本語ガイドグループでも活動しました。このときに、熱帯の動植物に関する書籍やウェブページ、博物館展示物のキャプションなどの和訳を経験し、読み手の立場に立って「翻訳」することの喜びを知りました。

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勉強、案件を積み重ねて医薬翻訳者の下地を築く

獣医師として働きたい気持ちはずっとありましたが、家庭の事情で復帰は難しく、在宅でできる仕事を探すうちに、仕事として「翻訳」をやりたいと思うようになりました。2008年に某翻訳者ネットワークに登録し、翌年に、このネットワークを通じて実務経験の有無を問わないという動物医療関連の求人に応募しました。今思うと、翻訳の仕事についても翻訳業界についてもあまりよく知らず、英語のバックグラウンド(英検、TOEICなど)もない状態で無謀にもトライアルに応募……と、自分にあきれてしまいますが、トライアルの内容が猫の疾患に関するものだったおかげもあって無事に合格。ここで出会った翻訳会社のおかげで、実務を行いながら(ただし、最初は力不足に苦しみ、時給に換算すると300円以下だったかもしれません)翻訳の勉強を積み重ねることができました。

最初は米国薬局方のごく一部分という小さい案件、その後、獣医学雑誌や獣医学関連の出版物などを担当しましたが、徐々に医薬分野の案件の依頼が多くなりました。医薬翻訳について素人同然であることは翻訳会社の方でもご理解いただいており、参照すべきガイドラインや用語集を教えてくださったり、参考資料として類似文書を提供してくださったりしたおかげで対応できる文書の種類が増えていき、ここで医薬翻訳者としての下地ができたと思います。

翻訳者として歩き始めた頃には、先輩翻訳者さん達がSNSを通じてとても有益な情報を提供してくださっており、コピーができないPDFのOCR処理や翻訳支援ツールの使い方をはじめとして、翻訳者なら知っておくべきたくさんのことを教えていただきました。

リンクトランス・サイマルの登録で得たもの

その後、フリーランスたるもの、複数の取引先を確保しておいた方がよいという勧めもあって、新たにトライアルを受けた翻訳会社の1つが当時の株式会社リンクトランス・サイマル(※)でした。トライアルに合格し、電話面談を終えた後に提示してくださった翻訳単価はこれまでの単価を大きく上回るものだったので、単純にうれしいと同時に、より高い品質の翻訳物が求められているのだなぁと心が引き締まりました。

リンクトランス・サイマルで1つの薬剤、医療機器について一連の関連文書を担当させてくださったおかげで、医薬品の承認申請の流れや当該医療機器の全体像を把握することができました。Memsourceが使えるようになったのもサイマルのおかげです。2018年に株式会社サイマル・インターナショナルに吸収合併されてからも、変わらず翻訳者の仕事がやりやすいように心遣いをしてくださるコーディネーターさん達に感謝の気持ちでいっぱいです。

翻訳学校での学習経験はなく全くの自己流なので、固有名詞や分野特有の用語をきちんと調査し、単なる単語の入れ替えではなく原文の内容をきちんと反映すること、原文に込められている主張や思いを移すこと、曖昧な表現を避けて1つの意味にしかとれないようにすること、日本語として違和感がなくて読みやすいことを大切にして工夫を重ね、そのままクライアントに納品できるレベルの翻訳物(ケアレスミス、誤記、誤訳、表記ゆれなどがない。原文の誤りや裏取り調査の内容、訳語の選択理由、不明な点などについて適切なコメントを入れてある・・・etc.)を納品することを自分なりにめざしています。

 

 ※翻訳事業を取り扱っていた株式会社サイマル・インターナショナルの関連会社。2018年、事業拡大のため、サイマル・インターナショナルに吸収・合併。

 

 

木村香穂理さん
木村香穂理(きむらかほり)

東京農工大学大学院農学研究科修士課程(獣医学)修了。千葉県の動物病院で獣医師として勤務した後、家庭の事情により離職。シンガポール在住時に、ボランティアの日本人学校関係者向けネイチャーガイド、シンガポール植物園の日本語ガイド、シンガポール国立博物館の日本語ガイド。2009年からフリーランス翻訳者として活動。

 


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