国会議員秘書からキャリアチェンジで通訳者へ(後編)【マイストーリー】

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「なぜ通訳者翻訳者になったのですか」――答えはきっと人それぞれ。バックグラウンドや経緯、めざす通訳者翻訳者像など、通訳者翻訳者が10人いれば、10通りの道があるはずです。この「マイストーリー」ではサイマル・インターナショナルで活躍する通訳者翻訳者の多彩なストーリーを不定期連載でご紹介。今回は国会議員秘書から通訳者にキャリアチェンジした勝木一郎さんの後編です。

 

【まずは前編をおさらい】 

授業で学び、ワークショップで実践する

通訳者になるために一番役に立ったのは、何といってもサイマル・アカデミー(以下、アカデミー)に入学したことでした。

そして、いったん、ほかに仕事をせずにフルタイムで勉強に専念をしたことは、自分には合ったやり方だったと思います。アカデミーへの受験準備を皮切りとして「今の時間は通訳者になるための時間」という意識で過ごすことができました。

先生方はプロの通訳者で、経験を通じて体得された理論や心構えをいろいろな形で伝えてくださいました。指導をいただいて、何が自分に足りないか、まずはどこを改善したいか意識することができました。クラスメートも、それぞれ違ったバックグランドや強みを持っていて、勉強法を惜しみなく教えてもらったことはもちろん、職場の様子などを聞くことができたのも、ビジネス経験のなかった自分にとってとてもありがたいことでした。

通常の授業と並行して、アカデミーとCAIS(通訳技能向上センター)のセミナーやワークショップには、オンライン・オフライン問わず、たくさん参加しました。現場で役立つノウハウなどを学ぶだけでなく、アカデミーの授業で学んだことを演習で実践してみることができました。また、例えばウィスパー通訳のワークショップで初めてパナガイドを使うなど、初めての経験を仕事以外の場でできる機会は、とても貴重でした。

キャリアチェンジでは前職の経験が生きる

前職での経験が役に立っていると思うことがあります。通訳者に求められるものの多くが、議員秘書に求められるものと共通していると思うのです。

例えば、絶えず新しい分野・トピックの仕事に取り組むために、短時間でリサーチをして問題の全体像をつかむこと。話し手の発した情報と意図をくみ取ること。くみ取った内容を分かりやすく聞き手に伝えること。話し手、聞き手がどういう方たちなのかを考えること。話し手の手応えや聞き手の反応を推し量ること、等々です。自分だけで仕事をするのではなく、お客様との関係の中で、秘書は国会の職員、通訳者はエージェントの方たちやエンジニアの方たちといったプロに助けられて仕事をするということも共通点だと思います。

考えてみれば、議員秘書の仕事だけが通訳者の仕事と共通点を持っているのではなく、同じようなことが、いろいろな仕事について言えると思います。キャリアチェンジをして通訳者になっていく場合、それまでの仕事の経験は生きる。足りない部分があるのは当然で、その足りない部分を認識して対策を考える上でも、それまでの努力と経験が役に立つのだと思うようになりました。

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エージェントや先輩通訳者からの手厚いフォロー

アカデミー時代に遡りますが、授業のほかに、サイマル・インターナショナル(以下、サイマル)の方からエージェントの視点で通訳者の仕事やキャリアについて伺う機会を得たり、展示会の仕事を紹介いただいてクラスメート何人かで仕事をしに行ったことはとてもありがたいことでした。そして、サイマル・ビジネスコミュニケーションズ(以下、SBC)からは、それまでの経験なども考慮して社内通訳の仕事を紹介していただきました。

紹介いただいた派遣先で1年半近く勤めさせていただきましたが、SBCの担当の方にはお作法的なことを含めて本当に細かくフォローしていただきました。人生初の会社勤めで不安ばかりだった私には心強かったです。派遣先では上司・先輩に忙しいなか時間をとっていただいて、知識や基本的なスキルの面で助けていただきました。

サイマル登録してからは、その時々の自分を見て、工夫して案件をアサインしていただいてきたと感じますし、登録者向けのワークショップでは、アカデミー在籍中とはまた違ったものを学べています。

仕事をするうえで気を付けている2つのこと

仕事をするうえで、今は、とくに2つのことに気をつけようとしています。
1つめは、通訳をする議論・発言の背景や文脈を意識するということです。例えば社内の会議だったら、その日の議題がその会社の中でどういう意味を持っているのか、業界の中ではどうなのかを考える。個別の発言の意図についても、議論の流れの中に位置づけて捉えるということです。こうすることが聴き取りや内容理解につながり、結果、通訳のデリバリーの質の改善にもつながると考えています。

2つめは、発言者の発言を集中して「聴く」ということです。これには、事前の準備で得た予備知識や自分の思い込みに捉われないようにすることも含まれます。相反しそうなこの2つを、上手に行っていけるように努力しています。

スキルアップや知識向上のために日々心がけていること

まずは日常の業務の準備を丁寧にすることがスキルアップと知識向上にもつながると思って取り組んでいます。幅広く日本語と英語の両方の資料にあたることで、その案件のテーマに関連する表現や言い回しだけでなく、汎用性の高い単語・表現・言い回しも学ぶことができています。

最近は、目の前の案件から離れて、雑誌記事やテレビ番組から英語のインプットを得ることや、ネット上の動画を利用して通訳のトレーニングをすることに時間をとるように心がけ始めました。仕事で見聞きした気になる単語や表現の定着につながったり、自分で気づいたり先輩・同僚から学んだ「テクニック」を試して手ごたえを得るなどの効果を感じているところです。

めざす通訳を実現するために

話し手と聴き手が、通訳を通すストレスをできるだけ感じずに、議論の内容に集中していただけるような通訳をしたいと考えています。通訳に邪魔されず、コミュニケーションによって想像力・創造力が大いに刺激されたということが実現すれば嬉しいと思っています。

その大前提として、わかりやすくて耳にやさしい通訳ができるように、そして、どんな場面でも落ち着いて対応をしていけるよう精進していきます。


勝木一郎
勝木一郎(かつきいちろう)

国際基督教大学卒。慶應義塾大学大学院、米国ミネソタ大学大学院を修了後、ワシントンDCで自然保護団体のインターン。国会議員政策秘書を経てサイマル・アカデミー入学。在学中からサイマル・ビジネスコミュニケーションズを通して社内通訳として勤務した後、サイマル・インターナショナル専属通訳者

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