通訳者に望まれること【元外務省儀典企画官が語る】

f:id:simul2019:20231222111124j:plain

前回に続き、数多くの国賓・公賓の訪日接遇を担当してきた元外務省儀典企画官の寺西千代子さんによるコラムです。今回は、寺西さんが考える外交の場で望まれる通訳者像について紹介します。


【前編はこちら】プロトコールの基本と注意したい点

 

魅力的な人柄

外務省では、若い外務事務官を公式通訳者として語学別に指名する制度があります。私が国賓・公賓の接遇準備を担当していた時代、公式通訳者(英語)の中で、強い印象を与えた方々には次のような共通点がありました。

 

でているのは語学力だけではない」

 

一言でいえば、「感じが良い」ことです。エリート臭さが鼻につかない、偉ぶらない、おっとりしている、ユーモアがある、協調性がある、一緒に仕事をしていて快適、敢えて付け加えれば、好印象を与える外見という意味で、眉目秀麗ということでしょうか?

 

これらの公式通訳者は、後日いわゆる出世コースを歩まれました。通訳者はそもそも「語学力」「知性」だけではなく、上からも下からも同僚からも、愛される人柄を備えているべきである証拠だと思います。

外交官資質

以前、トランプ米元大統領が、エルドアン・トルコ元大統領をツイッターで"Don’t be fool"と叱責し、外交上例のない非礼な発言で国際通を驚かせました。このような反プロトコール的言動が深刻な国際問題にエスカレートしなかったのは、この発言を通訳者が外交上の礼節をわきまえた語彙、語調を選んで伝えたからだ、と言われています。

黒子に徹する

プロトコール・オフィサー、通訳者など、つまりサポーティング・スタッフは、主役を引き立てることが第一の任務です。時に日本の夫人方は口数が少ないため、相手の外国人が通訳者に話しかける場面がしばしばあります。通訳者は相手の外国人に「あなたの相手は夫人の方ですよ」と気づかせる努力が必要です。

冷静沈着である

通訳者には、想定外の事態に柔軟に沈着冷静に対応する能力がひときわ求められます。ブッシュ(父)元大統領が、総理官邸晩餐会のヘッドテーブルに座っている時に倒れたこと、村山元総理がナポリの夕食会で倒れたこと、など多くの非常事態にも慌てなかった通訳者の姿が思い出されます。

事前情報を得る

上記の要件を満たした通訳者はトップの「お抱え通訳者」となる例が多いようです。前述の公式通訳者の一人は「通訳者は、翻訳マシンではない。事前に十分な情報をインプットしてもらうことが必要」と、通訳される側からの積極的な協力を求めていました。通訳される側とする側の阿吽(あうん)の呼吸こそがサブを成功に導く重要要素です。

 

シュミット元西独首相が公賓として訪日された時、通訳者として黒川剛氏(元オーストリア大使)を指名し譲りませんでした。また、中国の国賓・公賓は常に中国外務省の王効賢女史を通訳者として同伴されたことなどが思い出されます。

ボイストレーニングをする

多国間会議での同時通訳では、通訳の優劣がはっきり分かれます。私は、国連の会議で終日イヤーフォンをつけて各国代表の発言を聞く機会が多かったのですが、通訳者の話し方に随分悩まされました。眠気を誘うような単調な口調、早口、小さい声などは、聴衆にとって聞き取りにくい原因になりますので注意をしてください。

寺西千代子
寺西千代子(てらにしちよこ)

日本マナー・プロトコール協会理事、元外務省儀典企画官。津田塾大学英文学科卒業後、外務省に入省。外務本省においては主に儀典を担当。ニューヨーク、英国、イタリア、国連代表部、フィンランド、米国、カナダ、バチカンなどの在外公館勤務を経て2009年外務省を定年退職。2016年伊勢志摩サミットにおいて愛知県サミットアドバイザーに就任。「プロトコールとは何か」「国際儀礼の基礎知識」など著書多数。

 

通訳者・翻訳者
として働くなら
サイマルへ

サイマル・グループでは、世界との交流を共に支える通訳者・翻訳者を募集しています。あなたのキャリア設計や就業スタイルにあった働き方で、充実したサポート体制のもと、さらなる可能性を広げてみませんか。