品質向上に役立つヒント――ガイドラインのご紹介――

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翻訳の評価は、訳文の質に加えて「見た目の印象」も影響する――? 今回は翻訳者の沢田陽子さんが、サイマル・インターナショナル(以下、サイマル)のガイドラインを参考にしながら、良い印象を持つ「ヒント」を具体的に解説していきます。

コミュニケーション重視の翻訳は、原著者の意図をしっかり汲み取り、的確な目標言語に置き換え、起点テクストの読者が得た効果とできるだけ近い効果を目標テクストの読者に与えようとする行為であるといえます。
ですから第一に問われるのは訳文の質であることはいうまでもありません。しかし、どれほど素晴らしい翻訳でも、お客様から満点の評価をいただけないことがあります。それはなぜなのでしょうか。

どんな職業でも、細部まで気配り・心配りのない仕事ぶりでは高く評価されません。翻訳も同じです。例えば、全角と半角、フォントの種類、送り仮名、漢字表記とかな表記などが、ひとつの文章の中、一つのパラグラフの中、1つのテクストの中で統一されていなかったら、どんな印象を与えるでしょうか。

いま、「1つ」と「一つ」と「ひとつ」を混在させてみました。いかがでしょうか?

見た目の印象が悪いと、訳文の質まで悪いのではないかと、お客様は疑心暗鬼になってしまいます。それではせっかくの訳者の努力も水の泡です。
そこで、どのような点に気配り、心配りをしたらよいのか、サイマルのガイドラインを参考に英日翻訳について、いくつか例を挙げてご説明いたします。なお、お客様からの指定があれば、もちろんそれが優先されます。

1. フォント/全角・半角

原文ファイルに上書きする場合には、原文のフォントを流用せず、そのイメージに近い日本語のフォントを選んで訳文を作成します。お客様からフォントの指定がなく、新規に作成する場合には、サイマルでは英日フォントの組み合わせを原則、以下に定めています。

  和文 英文(数字を含む)
本文 MS明朝 Times New RomanまたはCentury
見出し MSゴシック太字 Arial太字
本文の強調部分 MSゴシック Arial


ワードファイルでは最初に英日フォントをそれぞれ設定しておくことができますが、それが機能せずに文中の英数字が一部MS明朝になったりすることがあります。ですから、訳文が仕上がった時点で必ずフォントの設定を確認することが大切です。
また、英数字は全て半角にします。例えば「In June 2019, the European Union (EU)...」は「2019年6月、欧州連合(EU)は...」となり、「2019年6月、欧州連合(EU)は...」ではありません。
なお、丸括弧()は全角を使用します。半角の丸括弧を使ってしまうと、「欧州連合(EU)」のように、文字間が詰まって読みにくい印象を与えます。スラッシュ(/)についても同様に全角を使用しますが、日付(例:2/25)や数量を表す「per」の場合(例:10km/h)には、半角を使用します。 

2. 表記について

訳文を作成していて、漢字を「閉じる」のか「開く」のか、つまり、漢字で書くのか、ひらがなにするのか頭を悩ませることがあります。お客様の指定がなければ、表記の指針を翻訳者自身が決める必要がありますが、そのようなときに役立つのが新聞社や通信社が出版している記者用の用字用語集です。

例えば、共同通信社『記者ハンドブック』、時事通信社『最新用事用語ブック』、朝日新聞出版『朝日新聞の用語の手引』などがありますので、表記を確認して統一を図ります。『記者ハンドブック』の中には、外来語用例集や誤りやすい用字用語・慣用句もあります。勘違いや間違って覚えてしまっていることもありますので、一度確認しておくとよいでしょう。

このほか、送り仮名についても基準を明確にして使用する必要があります。例えば、「とりくみ」の表記には、「取り組み」「取組み」「取組」があります。「うりあげ」も、「売り上げ」「売上げ」「売上」があります。こういった用語を使用するときに、この3種類の送り仮名が恣意的に一貫性なく使用されていると大変に目立ちますので、特に注意が必要です。

3. 記号

英語の記号をそのまま流用しないようにします。例えば、コロン(:)セミコロン(;)は、項目や見出しの場合を除いてそのまま流用せず、文中であれば、句読点を使用します(項目や見出しで使用する場合は、全角にします)。
また、英文の中で 引用符“ ”が使用されていた場合、発言の引用であれば「」を使用しますが、強調やニュアンスを与えるなどの効果を得るために使用されている場合、日本語に「」を使用しても読者にはその意図が伝わらないこともあります。ですから、自動的に「」に置き換えることは避けた方がよい場合もあります。

中黒は、単語の列記(例:経済・社会・政治)や、省略符号(例:東京・日本橋)として使うことができます。また、外国人の名と姓の間(例:スティーブ・ジョブズ)、外来語で長くて判読しにくい場合にも使用することができます。
なお、カタカナ表記の企業名や商品・サービス名などについては、中黒の有無を必ず当該企業のウェブサイトで確認します。お客様が販売する商品名の表記が間違っていた場合、これほど印象の悪いものはありません。

4. 誤変換/間違いやすい漢字

誤変換についても注意が必要です。誤変換はケアレスミスの場合もありますが、意味がよく似ているために、混同して誤った漢字を使ってしまうこともあります。

よく見かける誤変換の例をいくつか挙げますので、参考にしてください。

債権/債券 発効/発行 意外/以外
特長/特徴 原状/現状 補償/保証/保障
召集/招集 意志/意思 製作/制作
清算/精算 決済/決裁 交代/交替


せっかくの訳文をうっかりミスで台無しにしないようにしたいものです。

今回ご紹介した内容は、サイマルのガイドラインのごく一部にすぎませんが、こういった点に注意することでお客様の評価が変わってきます。是非ご留意いただきたいと思います。


 

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沢田陽子(さわだようこ)

英系証券会社、米系コンサルタント会社などを経てフリーランスの実務翻訳者に。サイマル・アカデミーにて実務翻訳講座を担当。英国の大学院でApplied Translation Studiesの修士号を取得。

 


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