サイマルで活躍中のプロが、通訳者・翻訳者人生にかかわる1冊を紹介する「通訳者・翻訳者の本棚から」。「大きな案件の前に気合を入れたいときに読む本」「落ち込んだ時に読みたくなる本」「いつも仕事で使っている本」「スキルアップや知識向上のために活用している本」など、さまざまなテーマの中から選ばれた今回の1冊は……?
私の1冊:『聖書/The Holy Bible』
世界一のベストセラーと言われる聖書は、神の天地創造から始まる旧約聖書とイエス・キリストの生涯や初代教会について書かれた新約聖書からなります。
◆日本語の教科書のような存在
両親は敬虔なクリスチャンで、私は物心ついたときから聖書の物語や登場人物に親しんできました。自分で聖書を読むようになったのは中学生からです。父の転勤で暮らした米国から帰国後、アメリカンスクールに通い出したのですが、当時の私の日本語が怪しくなっていくことを両親は心配し、日本語の勉強のために聖書と新聞を読むことを日課にさせました。分厚い聖書は、中学生にとってはまるで百科事典。決して毎日読めていたわけではありませんが、いつの間にか聖書は日本語の教科書のような存在になりました(別途国語の教科書も勉強させられましたが)。のちに英語の聖書も読むようになり、両方を比較して読むことの面白さを教えてくれたのも聖書でした。
◆教養として、心の拠り所として
通訳者をめざすようになってからは、聖書を教養として意識するようになり、積極的に英日で聖書箇所を覚えるようにしました。欧米人の思考を理解するためには勿論のこと、慣用句として引用されれば内心「しめた!」と得意になることも。宗教関係を始め美術の仕事でも聖書の知識は必須なので、幼い頃から慣れ親しんでこられたことは大きなアドバンテージだと思っています。
そして何と言っても聖書は心の拠り所です。通訳の仕事は達成感もやりがいもある反面、緊張や悔しさ、落ち込みの連続です。緊張する時に深呼吸と共に呟く聖句は、Romans Chapter 10 verse 11 “Anyone who believes in Him will never be put to shame”。落ち込んだ時に励まされる言葉は、ペテロの手紙第一5章7節「あなたがたの思い煩いを一切神にゆだねなさい。神があなたがたのことを心配して下さるからです」。また節目の年に今後どうしていきたいのか自問した時に、自分の核となる価値観(コアバリュー)を見出したのも、やはり聖書でした。
今世界はコロナに恐れ慄き、私も不安がないといえば嘘になります。しかし聖書を読めば不思議と心が落ち着き、心穏やかに過ごすことができます。
そのほかのお気に入り書籍
●『不実な美女か貞淑な醜女か』
(米原万里著/新潮社)
ロシア語同時通訳者の米原万理さんが1994年に発表し、1995年読売文学賞を受賞した著書。多少古いエピソードもありますが、通訳者の悩みは古今東西、変わらず。タイトルの意味でもある「原文に忠実だが訳が翻訳的でぎこちない貞淑な醜女」と「美しいが原文に忠実ではない不実な美女」は、通訳者の葛藤と格闘をユーモラスに描いています。駆け出しの頃から何度か読んでいますが、いつも新たな気づきと勇気を与えられています。
●『楽園のカンヴァス』
(原田マハ著/新潮社)
子供が小さいうちは、資料と新聞を読むので精一杯。下の子が小学生になってからは、元々好きだった推理小説や美術鑑賞を楽しむ余裕も出てきて、出会ったのがアート小説というジャンルでした。学芸員でもある原田マハさんの著書はアート関係の通訳の勉強にもなるので、よく手にしています。
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