サイマルで活躍中のプロが、通訳者・翻訳者人生にかかわる1冊を紹介する「通訳者・翻訳者の本棚から」。「大きな案件の前に気合を入れたいときに読む本」「落ち込んだ時に読みたくなる本」「いつも仕事で使っている本」「スキルアップや知識向上のために活用している本」など、さまざまなテーマの中から選ばれた今回の1冊は……?
私の1冊:『中日大辞典』
こんにちは。中国語通訳者の櫨博信と申します。このたび本企画のテーマとして頂戴した「通訳者人生に大きな影響を与えた本」や「通訳スキル強化などに役立った本や参考書、専門書」という視点から、自分の通訳者人生を少し振り返ってみました。すると、電子辞書やスマートフォンが普及した現在でも、いまだに紙の辞書を常に持ち歩くなど、私の通訳者人生にとって辞書が非常に重要な役割を果たしていることをあらためて認識しました。
そこで、本来ならこの場では皆様にとって一読の価値のある著書を紹介すべきかと思いますが、私からは辞書を紹介させていただきたいと思います。
小学6年生から辞書を持ち歩く
私が最初に辞書を持ち歩くようになったのは、小学6年生の時でした。当時、夏目漱石の作品を読むのが好きになり、読書中に遭遇する様々な言葉の意味を知りたいという欲求から国語辞典を持ち歩くようになりました。外食する時も辞書を持ち歩いていたので、家族から「お前は二宮金次郎か」と言われるぐらいでした。
外国語の辞書を持ち歩くようになったのは、大学に入学してからのことです。当時はラグビーに夢中で、いつかラグビー発祥の地である英国で生活したいと思っていました。そこで、英会話学校に通って英語の勉強に力を入れ始め、授業とラグビーの練習の合間もグランドの横で英日辞書を片手に英語を勉強していました。大学卒業後も、仕事で主に欧州を担当していたことから、同じように英日辞書を持ち歩いていました。
学習者から通訳者へ。持ち歩く辞書も変化
就職して3年後、仕事に少し余裕が出て来たため中国語を学び始めました。それからは持ち歩く辞書が徐々に中日辞典へ変わっていきました。具体的には、語学の学習段階では解説が平易な『中日辞典』(北京商務印書館・小学館編集/小学館)を使用し、通訳者として活動するようになってからは語彙の収録数が多く専門性が高い『中日大辞典』(愛知大学中日大辞典編纂所編集/大修館書店)を使用しています。また、一時中断した英語の勉強も6年ほど前から徐々に再開し、今はまだ学習段階のためレイアウトが見やすく構文の説明が充実している『アルファ・フェイバリット英和辞典』(浅野博、緒方孝文、牧野勤編集/東京書籍)を持ち歩いています。
辞書は友だち
次に、私の辞書の使い方を簡単にご紹介します。自宅だけでなく外出先でも常に携帯し、気になる言葉はすぐに調べます。調べた単語は次のように定着を図っています。
・2回調べた言葉は線で囲む。
・3回調べた言葉は蛍光ペンでマークする。
・4回調べた言葉は複数例文を作る。
このように使用すると辞書はその過程でボロボロになってしまいますので、今の『中日大辞典』は3代目です。紙の辞書のメリットは、調べた言葉に関連する前後の言葉が調べやすいこと、電子媒体より記憶に残りやすいことだと思います。ただし、仕事で紙の辞書を使うと効率が悪いため、現場では電子辞書を使用しています。
読書には、知識の習得だけではなく励ましを得るなど様々な効果があると言われています。私にとって、辞書は「これだけの知識を習得してきた」という自信の源であると同時に、理解しているつもりの言葉でもさらに深い意味があることを再発見させてくれるなど、通訳力を磨き続けるように常に励ましてくれる存在でもあります。中学生の時に読んでいた漫画『キャプテン翼』(高橋陽一著/集英社)の主人公が常にサッカーボールを携帯して「ボールは友だち」と言っていたように、私は「辞書は友だち」と考え、引き続き辞書と一緒に自己の実力のさらなる向上に努めてまいりたいと思います。
そのほかのおすすめ書籍
●『通訳翻訳訓練』
(ダニエル・ジル著、田辺希久子・中村昌弘・松縄順子訳/みすず書房)
本書は欧州の通訳者養成機関で豊富な指導経験を有する著者がまとめた通訳訓練理論に関する解説書であり、通訳スクールでの授業をデザインする際に参考にしています。
●『必ず話せる中国語入門』
(相原茂著/主婦の友社)
発音・文法・よく使うフレーズなど中国語の基礎が分かりやすく学べる本書は、これから中国語を学びたいという人にお薦めしています。
名古屋大学経済学部卒。トヨタ自動車等に勤務後、プロの中国語会議通訳者・通訳スクール講師等として活動。通訳案内士、中国語検定1級、英語検定1級、国際言語コミュニケーション学修士等の資格を保有。
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