書き手と読み手の顔が見える!?【韓国語ホンヤクの世界】

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英語以外の言語の翻訳事情や、仕事のエピソード、スキルアップ情報などを、翻訳者がリレー形式で紹介します。今回は、前回に引き続き「韓国語ホンヤクの世界」の第2弾。ゲーム、放送、観光と、さまざまな翻訳エピソードをまじえつつ、「書き手」と「読み手」の存在を意識することについてお話します。

チームで作り上げたゲーム翻訳

翻訳は、通訳に比べて裏方の仕事で、自宅で静かに作業するものであるというイメージがあり、じっくり座っていなければならないという印象を持っている方も少なくないと思います。もちろん、人に会うことは通訳に比べて断然少ないので、それも間違いではないと思います。フリーで仕事を始めた頃、私は最初から翻訳に苦手意識を持っていました。何故なら、静かにじっくり座っているのが苦手な性格だからです。

しかし、駆け出しの頃は選り好み出来るわけもなく(もちろん今もですが…)、何故か苦手な翻訳のお仕事が多く、全く興味がないゲームのローカライズ翻訳のプロジェクト(和訳)に参加することになりました。難しい翻訳ソフトを使わなければならないうえに、キャラクターごとの口調や、セリフの強弱など(戦闘能力に比例)注文の多いプロジェクトで、翻訳者も校閲者も複数人いました。

納期はタイトで、量も多く、夜更かしは日常茶飯事、パソコンがヒートアップして完全死亡したこともありましたが、無事プロジェクトが一段落し、ありがたいことに打ち上げに呼んでいただきました。「あれ、翻訳でも人に会うことがあるんだ」と不思議な気持ちで打ち上げに向かいました。作業中は、互いにニックネームで呼び合っていた方々に直接お会いし、翻訳の苦労話や面白エピソードを聞きながらあることに気づきました。

学校で翻訳の専門教育を受けた人は私だけ、しかも全くゲームを知らない&しない人は私だけだったのです。それでもすごく自然な訳だったとお褒めの言葉を頂戴し、「幼い頃見ていたドラゴンボールのおかげかな、意外と翻訳に向いているかも」なんて調子に乗ってその後も数年同じプロジェクトを頑張りました。

当時の担当プロジェクトマネージャーの方はほぼ同じ年の方で、結婚式にも参加してお祝いをしてくださったり、夜更かし禁止令を出してくださったり、「翻訳者も週末は休みたい!」という翻訳者の声を反映したスケジュールを組んでくださったりととてもお世話になりました。ゲームの楽しみ方が分からないけど、仲間と一緒に作業する楽しさは分かったような気がします。プレーヤーの友人に日本語に訳していると伝えたら「セリフなんてみんな読まないで飛ばすよ!」と言われ、とてもショックだったことを覚えています。「いや、日本のプレーヤーは読んでくれるかも」と自分を励ましました。

ゲーム翻訳の次に多く携わった翻訳は、放送関係の翻訳(韓訳)でした。いまは録画テープをメールで受け取り、家で作業して送る形ですが、以前は録画テープの到着を待ち、テレビ局に閉じこもってひたすらパソコンとモニターとにらめっこしていました。ゲームと同じく普段テレビをあまり見ない私ですが、インタビューの翻訳は、視聴者の読みやすい長さや分かりやすい単語を選び、タイムの調整をするといった作業で最初は苦労しました。それでも、いろんな言語の翻訳者がテレビ局で夜更かししながら一緒に食べた夜食は(もちろんお仕事も)いまや懐かしい思い出です。ディレクターさんも翻訳者の苦労を実際見て感じてくれたようで、翻訳しやすいように編集してくださったりもしました。

ときどき、インタビュイーが話している内容と違う字幕が流れていると思ったことはありませんか。それは、翻訳者が間違えたのではなく、編集時に字幕または動画をものすごく省いたからなのです。翻訳者として自分の名前が流れるのに、それは勘弁してほしいとクレームを言いたくもなりますが、編集に何日も寝ないで苦労された方々を思うと、それくらいは、と優しくなれます。皆様も意図的な誤訳でない限り、翻訳者としての厳しい目ではなく、事情があったのかなと、ご理解いただけるとありがたいです。

自分の家族のための翻訳?!

ここまでは、読み手が不特定多数で書き手が見える翻訳についてのお話をさせていただきました。果たして読み手は見えるのでしょうか。

翻訳のご依頼を受ける際、まずは書き手となる発注元を確認します(原稿についてお尋ねしたらフィードバックにどれくらいの時間がかかりそうか想像したりもします)。次に、読み手は誰か? についてですが、そこまで詳しく教えてくださるクライアント様はあまりいないので、一人で想像します。特に観光関連の翻訳をする際は、読み手は複雑になります。パンフレットや道案内の訳の場合、読み手は訪日外国人(私の場合は韓国人)です。読み手は、観光業の従事者や、初めて訪れる方、訪れようかなと調べている方など、年代も子供からお年寄りまで多岐にわたるので、それぞれのシチュエーションを想像しながら翻訳を進めます。

韓国では、日本旅行に関するブログなどがとても盛んで、地名なども外国語表記法に従わず、間違った地名や固有名詞が書かれることがたくさんあります。もちろん、そのほうが日本語に近い発音ですし、翻訳する際もそう書きたいのですが、きちんと表記法に従えば、それを積み重ねることで守ってくださる方も増えることを願い、原則を貫きます。

ただし、注意しなければならないことがあります。公式ホームページの韓国語版に間違った表記法で記載されている場合です。稀に、発音に近い訳がいいと、表記法に従わずに会社名を登録するケースもあります。そのホームページの翻訳者や内部の方に、意図を聞くわけにもいきませんので、まずは公式ホームページに従って翻訳します(「表記法とは異なる」というコメントを残します)。いつからか、地図や標識に韓国語の併記がとても増え、旅行に行くと子供が驚いた顔で地図を見ながら「韓国語も書いてくれて優しいね!」と言っているのを見て、少しやりがいを感じました。

観光関連の翻訳をしていると、観光サイトなどを検索しているうちにその旅先に魅了され、「これを納品したら、すぐにでも飛んで行きたい!!」と思うことがあります(ほぼ毎回)。実際に我慢できずに飛んでいくこともありますが、その場合は私も家族も読み手になったりします。

動物園の案内の翻訳をする際は、

『上らないでください』

の場合「このメッセージは子供目線かな」、

『ベビーカー貸し出し案内』

の場合は「これは親御さん向けだな」なんて想像しながら自分の経験を生かして、自然な韓国語に訳そうと努めています。

書き手との奇跡的な出会い

また書き手にもどりますが、先日、数年間に渡り翻訳を担当させていただいた方の通訳を私が韓国で担当することになりました。その通訳をアサインしてくださったサイマルの担当者様も、恐らくそのことをご存じないようでしたので、もちろんクライアント様にお会いした際も伏せておきました。お仕事が確定してから、数年間片思いをしてきたかのように、その方にお会いするのがとても楽しみで、どんな方かなと期待を膨らませました。

普段とても丁寧な原稿を書かれる方だったので、勝手に50代後半の優雅なご婦人を想像していたのですが、お若くて(年齢不詳)、韓国のことが大好きなとてもかわいい方でした。片思いの気持ちはお伝え出来ませんでしたが、その後もご依頼をいただくと、その方のお顔が浮かび、もっと気を遣うようになりました。

苦手だった翻訳を通じて普段できない、たくさんの経験や片思い(?)をすることができて嬉しく思います。これからも書き手はもちろん、読み手にもさらに寄り添った翻訳をしていきたいです。

 

さて、次の旅行先を決めないと。

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Y.K.

日韓通訳翻訳。趣味は勉強と称して日本のドラマ鑑賞と、いつかは作る(?)レシピ収集。最近はピラティスとヨガに週5日通って体力づくりをしている。育児と家事に追われる毎日のため、納期には追われないようになりたい。