ひとつの工夫で、より理解しやすくなったり、自然な日本語になったりする。訳文作成には「ヒント」があります。サイマル・アカデミーの講師も務める翻訳者・三木俊哉さんが、全4回の連載を執筆。第1回のテーマは、日本語の助詞「の」です。
様々なタイプの「の」
いきなりのピンポイントなテーマで恐縮ですが、翻訳を含め日本語の読み書きをしていると、「の」という語は深いなぁと感じることがあります。たとえば以下をご覧ください。
2. (a) アフガニスタンの略史 (b) アフガニスタン略史
1の場合は(b)だとなにか変です。でも、2の場合は(a)も(b)も許せるような気がします。「仕事のスタイル」と「業務のスタイル」でも、前者は「の」をとると違和感があるのに、後者は「の」をとっても問題ない。こういう例はほかにもいろいろあるので、よければ探してみてください。
ずいぶん前のことですが、ネットでニュースを見ていたら、
という見出しがありました。なぜ代理人本人ではなく兄が明かすのか、と不審に思いながら本文を読むと「代理人を務める兄の弘幸氏」とあり、謎が氷解。「代理人の兄」とはこの場合、「代理人である兄」のことなのでした。
「の」を避けるべきケース
翻訳でついやりがちなのが、
のような表現。原文にquantitative easing policy in the USなどと書かれていたことが想像されますが、この日本語は次のようにもっとスリムにできます。
やはり「の」が登場してきました。
ただし「の」の3連続は避けるべしという不文律が(たぶん)あって、
という表現は、
・昨年のイベントの興奮が再現された
のように直すことができます。
2連続の「の」でも不自然に聞こえる場合があって、
というのを、
のように直すこともあります。
なんだか重箱の隅をつつくような話かもしれませんが、翻訳者はときにこういう非生産的(?)なことを考えたりもしながら仕事に取り組んでいます。半分は楽しんでいるのですけれど。
(注)この記事は、2013年8月に「サイマル翻訳ブログ」に掲載されたコラムを編集したものです。
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