第1回 声の準備【通訳者と声】

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聞き取りやすい日本語の発音、発声は優れた通訳パフォーマンスには欠かせません。このコラムでは、ボイストレーナー、ナレーターとして活躍中の轟美穂さんが、声のスキルアップに役立つ情報を、通訳者特有の課題に触れながら、お伝えします。第1回のテーマは「声の準備」です。

はじめてサイマルの通訳者の方にトレーニングをさせていただいたのは1999年のこと。当時は珍しかった話声のトレーニングも、20年を経た今、ビジネススキルの一つとして広く認知されるようになりました。

 

本コラムでは、「通訳者と声」というテーマで、通訳をする際に欠かせない、声と日本語のパフォーマンスについて連載します。これまでサイマルやCAISの講座で通訳者の皆さんからお聞きした、通訳者特有のお悩み・課題などにも触れていきたいと思います。

 

さて、声や話し方に関するお悩み、ご要望は人によって実にさまざまなのですが、仕事で声を使う方にとって一番優先すべきことは、「安定した話声をできるだけ長持ちさせる」ことであると考えています。そのためには、効率のよい、自分にとって一番楽な発声、話し方で仕事ができるようにすることが重要です。

 

その実現の第一歩としてお勧めしているのが、声を出す準備をしっかりしておくこと。まず、日頃から出来る限り声を健康に保っておく、その上でパフォーマンスの前にチューニングをして声を出しやすくしておく、の二本立てです。

声を健康に保つ

 職種は違いますが、私は、話す仕事に携わってきました。代役を立てることが困難な仕事だと教えられ気をつけてきたことは、声を使いすぎない、日頃からメンテナンスをする、声を乱暴に使わない、ということです。

 

声の使いすぎについては、仕事で避けられない場面もあるでしょう。そのような状況でも、自分で管理するという意識を持つことが大事だと考えています。話したら水を飲む、疲れたら休憩を申し出る、マイクを用意してもらうなど、勇気をもってこちらから積極的に行動することがいい結果となります。

 

相手の期待に応えようとして、つい無理をすることもありますよね。以前、プライベートの場で小学校でマイクなしで司会をした際、子供たちの声が想像以上に賑やかで「声が通らなく」なったことがあります。これを見て他のお母さんに「プロなのに声が通らないのね」と言われたのですが、日頃マイクを使って話す仕事をしている立場としては、声の濫用を避けるための適切な対応をしたと考えています。うるさい場所で大声が出せる、休まないで効率よく仕事が出来ることを期待されることもありますが、これも声の使いすぎや、声を乱暴に使うことにつながると感じています。

 

メンテナンスについては、まず加湿をすることを多くの人が実践しているでしょう。「寝るときのクーラーは声に良くないと思うが、クーラーなしでは暑くて眠れない。どうしたら良いか」という質問をよく頂きます。

 

以前先輩のナレーターに教えてもらった方法なのですが、私は薄い手ぬぐい状のガーゼを口元から首にふんわりかけて寝る、ということを実践しています。私にとってはマスクよりも息がしやすく、快適に眠れます。マスク、うがい、水分補給、加湿器、吸入器など生活に取り入れやすい方法でこまめに加湿を心がけてください。

 

音声外来のある耳鼻咽喉科では、健康な声を保つための声の衛生指導をしています。声の出る仕組みや日常生活での注意事項などが記載されている、以下のURLを参考にしてみてください。

チューニング

いきなり話そうとしても思うように声が出ない時があります。レッスンにいらしたある管理職の方は、一人個室でデスクワークをする日は、夕方電話に出る際第一声が上手く出なくて困ると訴えておられました。

 

パフォーマンスをする前には、楽器の鳴らし弾きをするように声のチューニングをしてください。いきなり大声をだすのはお勧めできません。ため息、鼻歌、ハミングなどで軽く出します。その際、口を柔らかく閉じてbuzz 音を出し、唇の振動を確かめる、鼻や唇の上部に手をあてて振動を感じるとわかりやすいかと思います。振動の証として、くすぐったさや暖かさを感じる方もいらっしゃいます。これらが上手くできたら、次は音階にする、文章と同じイントネーションで試すなどをしてみてください。良い状態を保っておくと声が楽に出しやすくなり、その次に続くアナウンススキルなどの練習もしやすくなります。

 

安定した話声を長く楽に出せるようになれば、不安なく仕事に臨めます。職種は違いますが、話す仕事をしてきた経験では、1日だけ驚異的に素晴らしいパフォーマンスを披露するより、いつ仕事を依頼されても期待通りの安定した仕事ぶりを発揮できる、という方が、クライアントからの信頼、評価が高くなると感じています。

 

きっちり時間を取って練習できない方は、「ながら練習」でもかまいませんので、日常生活に組み込んでコツコツと続けてみてください。

 

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轟美穂(とどろきみほ)

ラジオ局アナウンサー、TVレポーターを経て、ナレーター、司会者として活躍。プロの通訳者のための日本語パフォーマンス向上講座、放送通訳講座などの講師や、仕事で声を使う人のコンサルティングも務める。2004年より京都在住。ヴォイスコネクション主宰。