スキルアップのために必要な知識や情報、日々の仕事での失敗や成功のエピソードなどを、英⇔日翻訳者がリレー形式で執筆します。今回のテーマは、母国語がことなる読み手が抱くことばの印象と、その訳し方についてです。
皆さんは「犠牲」という語にどういう印象をお持ちでしょうか。
いきなりドキリとさせるような質問で恐縮ですが、日本語ネイティブと英語ネイティブの言葉の捉え方の違いを、「犠牲」に対するイメージの比較を通して考えてみたいと思います。
という日本語文を英訳するとします。ここで問題になるのが、「犠牲」の訳し方です。
民間人犠牲者を英語では「civilian deaths」と言います。「death」という単語を使うことは、英語ネイティブの感覚からすると、特に不適切ではありません。
ですが、日本語を母国語とする方には、
- 「death」=「死亡」
- 「victim」=「犠牲」
と捉えられることが多いようです。「death」は露骨に聞こえるため、婉曲的な表現として「victim」が好まれるのでしょう。
『Merriam-Websterオンライン英語辞書』での「victim」の定義は以下のとおりです。
(他者によって攻撃、傷害、略奪を受けた人、または殺された人)
定義から分かるのは、この単語に「death」の意味合いが含まれるかは文脈次第であいまいだということです。「国際テロによって日本人が犠牲になる」という文脈において伝えたいのは「死亡した」ということですので、よりストレートな表現である「death」がよりふさわしいというのが、私の考えです。テロ行為によって命が失われたのは明らかなのに「victim」では、意味が正しく伝わらないように思います。日本語を母国語とする人が英単語に抱くイメージの違いと、ギャップを埋める難しさを実感します。
ひとつひとつの単語に良い印象を持つか悪い印象を持つかは読み手次第です。本来伝えるべき意味を考え、時には思い切ってストレートに訳すことも必要だと思います。
(注)この記事は、2016年11月に「サイマル翻訳ブログ」に掲載されたものです。
文: J.T.
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