通訳者と発音(1)発音が下手な人なんていない?【英語発音上達のコツ】

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レベルやキャリアを問わず、関心の高い「英語の発音」。英語音声学や発音指導のプロである青山学院大学准教授の米山明日香さんが、その上達のコツを、テーマごとに詳しく解説します。

シリーズのはじめに

この記事は2013年~2014年にかけて、通訳者の「発音」を向上させるにはどうすればよいかに焦点を当てて書いたものです。その当時、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止のために通訳者がマスクをして通訳をしなくてはならない日が来るとは夢にも思いませんでした。通訳者の方々のご苦労は並々ならぬものと推察します。

しかし、だからこそ、この記事がお役に立てるものではないかと思うのです。というのも、できるだけ正確で、明確な発話とパフォーマンスが、以前にもまして求められるようになったからです。次回掲載予定の「通訳者と発音(2)」でも、本来、英語にない独自の発音をすることで、それが「マスキング(masking)」となることや、マイクを通したときにそれもマスキングとなり、通訳パフォーマンスの質が下がることに言及しています。が、まさに今は「マスク」が「マスキング」となり、聞き手にとっては、今まで以上に聞き取りづらくなるという事象が発生しやすくなります。ですから、明確に発話すること、正確に発音することが何より求められる時代なのです。


このシリーズが、通訳者の皆様にとってお役に立てることを心から祈っております。

めざすのは「正確な」発音

CAIS(通訳技能向上センター)で「英語発音」の講座を初めて担当させていただいたのが2006年。数多くの通訳者、通訳志望者の方との出会いがありました。これから「通訳者と英語発音」という観点から連載をしていきます。この記事が皆様の学習のお役に立ちましたら、幸いです。

ところで、講座受講生の皆さんの多くから聞かれる声が「英語発音が下手なので」とか「英語発音がうまくできないので」というものです。
一般的に言えば、発音は「うまい」「下手」といった尺度でとらえられるのだと思いますが、私が専門としている英語音声学という学問では、発音を「うまい」「下手」とはとらえず、「音を作る場所=調音位置(place of articulation)」や「音の作り方=調音様式(manner of articulation)」が異なっていることによって、「目標とする発音(target pronunciation)」が出せていないのだと解釈します。ですから、発音が下手な人は、理論的にはいないということになります。

しかし、なぜ人は発音が「下手」だと感じるのでしょうか。それは、話者が目標とする発音ではない音を出しているからなのです。目標とする発音が出せているか否かということは感覚的なものであるため、専門的な知識がなくても、聞き手は容易に判断できてしまうのです。ここが発音の厄介な点と言えましょう。

しかし、通訳者は語学のプロフェッショナルですから、通訳者にとって英語発音が重要であることは言うまでもありません。なぜなら、発音が間違っていると、正確に意味が通じなかったり、話している内容を理解する際に聞き手が負担を感じたりするからです。したがって、プロフェッショナルがめざす英語発音とは「正確な発音(correct pronunciation)」となります。ですから、できるだけ正しく発音するように、日々意識することが大切になってくるでしょう。

ところで、発音と言っても、母音、子音といった個々の音に注目されることが多く、英語発音の講座でお目にかかる受講生の方も「“l”と“r”の発音が苦手で」とか「“th”の発音が“z”になってしまうんです」とかとおっしゃるのですが、発音はそうした個々の発音だけでなく、語のストレス(強勢。一般的にはアクセントと言われる)、イントネーション、リズムなども関係しています。

たとえば、英語話者(母国語として英語を話す人、第2言語として英語を話す人、外国語として英語を話す人)にとって、語のストレスは意味を決定づける重要な役割を果たしています。これが間違ってしまうと別の意味にとられる可能性があります。

例をあげると、“I scream.”と“ice cream”は基本的に同じ音の組み合わせでできていますが、前者では通常“scréam”の“e”にストレスがおかれますが、後者では“íce”の“i”にストレスがおかれます。もちろん、この場合、文脈で判断されるために大きな問題にならないわけですが、だからと言って、語学のプロフェッショナルである通訳者がストレスの位置をおろそかにしてはいけないわけです。

こうしたことを気にかけながら、発音をしていくことが通訳のパフォーマンスの質を向上させてくれるのです。
 

※この記事は2013~2014年にCAISウェブサイト内『通訳情報ステーション』に掲載されたものです。 

米山明日香(よねやまあすか)

青山学院大学社会情報学部准教授博士(文学)。専門は英語音声学、英語教育、発音指導、英語プレゼンテーションなど。大学卒業後、英国University College Londonに留学し、音声学修士号(MA in Phonetics)を取得後、日系航空会社勤務、通訳者、大学講師などを経て現職。公式ブログ:http://blog.livedoor.jp/bihatsuon/

【続きはこちらから】通訳者と発音(2)

 

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