iPadを使った通訳――「e通訳」への道のり:前編 

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通訳者の皆さま、膨大でかさばる紙の資料に悩まされていませんか? 今回は、様々なデバイスやツールにより通訳資料のペーパーレス化などを実現してきた通訳者・加藤紀子さんが登場し、ペーパーレス化のメリットや実践ポイントなどを前・後編でご紹介します。

「e通訳」とは

「e通訳」とは通訳資料のペーパーレス化のことです。大きな流れとしては、紙ベースで行っていたプロセスをデジタルで再現して、効率と効果を上げるということです。色々なデバイスの選択肢がありますが、iPadユーザー向けのプロセスを紹介させていただきます。

iPad活用とペーパーレスへの移行

私は2010年に登場したiPadシリーズを愛用しており、2015年のApple Pencil登場を機に本格的にペーパーレスに移行し、今ではその効果と効率の良さ故に、紙には戻れなくなりました。その間、メインマシンのMacが故障し、修理の時間が無い間はiPadだけで対応せざるを得なくなり、必要に迫られた結果、iPadで通訳業務に必要な作業が何でもできるようになりました。参考文献や単語帳も電子化して、書斎がすっきりとしました。

もちろん、パソコンでも同じ事ができますが、iPadは頑丈で、操作が簡単であり、準備段階でも、現場でも「紙の資料の代わりになる最強のデバイス」だと思います。現在は「大小2台のiPad +キーボード」が自宅の基本環境となっています。 サブマシン並びにバックアップとして、Windowsも使っています。現在、使用しているメインのiPadは「12.9インチiPad Pro (第3世代)」です。 

 

業務で活用するためのポイント

仕事で使う場合、iPadは絶対に大きい方が良いと思います。 2UPの資料を見たり、 スプリットスクリーンを利用して左右にアプリを並べて作業する際に、デバイスは大きい方が圧倒的に見やすいです。 またバックアップがあった方が良いので、大小2台を併用する方が安心だと思います。 ちなみにiPhoneでも同じ作業ができますので、更にバックアップとなります。 iCloudを利用して、各デバイスを同期して最新の状態を保ちます。 家では「大きいiPad +キーボード」で準備して、現場には大小どちらを持っていってもよい、ということです。

通信方式には「WiFiのみ」と「WiFiアンドCellular」がありますが、 通訳者用としては、色々な現場で、 いつでもどこでもインターネットにアクセス出来る「WiFi アンドCellular」がお勧めです。 SIMフリーiPadの場合は、キャリアに拘束されない契約が可能となり、コスパが良いと思います。

デジタル化の鍵となるポイントは2つ!
「ファイルの整理整頓」と「PDF変換」です。
この2点をマスターすることにより、円滑にペーパーレスに移行できます。

◆ポイント1: ファイルの整理整頓

紙の資料の場合も、届いた順番で積み上げるのではなく、おそらく、クリアファイルなどで案件ごとに整理されていると思いますが、デジタルでも同じプロセスが必要です。

メールで届くファイルは、通常設定で「ファイル」アプリの「ダウンロード」に入り、これが「郵便受け」となります。受信したファイルに必要な手を加えて「作業台」となるノートアプリに移しますが、その際に案件別に電子的「クリアファイル」を用意して、一元管理します。案件別ファイルの中で更に、セッション名、CV、参考資料、自分の担当、パートナーの担当等、サブファイルを作成すれば、すぐにアクセス出来、現場でファイルが見つからない、ということはありません。

◆ポイント2:PDF変換

通訳が現場で使う資料はWord、Excel、PowerPointだと思いますが、それぞれを使いやすい形に加工してPDF化します。PDFはPortable Document Formatの略で、 広く使われている電子ファイル文書です。 紙に印刷する代わりにPDFで出力して、ノートアプリで開くことにより、紙の資料は不要となります。また作業過程で、日英ファイルの交互結合、2UPファイル、ノート付きPDF等を作成します。

「作業台」のノートアプリは「GoodNotes5」を使用しています。PDF化されたファイルは紙の資料と同じように扱えるので、ペンやハイライト、消しゴム等のツールで書き込みます。 紙で慣れている色を選ぶと違和感がありません。

更に、紙の資料には無い、GoodNotes5ならではの便利な機能があります。

・何百枚の資料であっても、必要なページに「音を立てず」に移動
・スプリットスクリーンで、資料を左側で見ながら、右側で単語帳を作成
・PDF仕様の単語帳や用語集を「横断的」に検索可能

 

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「GoodNotes5」のスクリーンショットイメージ(実際の案件資料とは異なります)

 

辞書は通訳にとり一番重要な道具ですが、iPadには標準搭載の内蔵辞書とアプリストアで入手できる沢山の辞書アプリがあります。従来の電子辞書の収録コンテンツに比べて、iOS上の辞書は進化し続け、未収録用語についてもWeb検索に対応しているので、シームレスにインターネットの大海原に飛び込み、自由自在に検索可能で、その結果を資料にコピペできます。

以上の一連の流れで「iPadによるペーパーレス化」が完了します。
基本操作は全てiPadで完結して、iPadならではの機能も活用できるので

・宅急便やバイク便
・現場でのプリントアウトやコピー
・電子辞書

等が不要となります。

 



加藤紀子さん
加藤紀子(かとうのりこ)

商社勤務後、1985年からサイマル・インターナショナルの専属通訳者、1988年から夫の海外赴任、出産と育児のため一時休業、1994年より専属通訳に復帰、現在に至る。経済・金融・証券・ITなど各種ビジネス分野の通訳業務を幅広く担当している。



 


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