「偽の友達」にご注意を!【ポール・ウォラムの視点】

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日本語ネイティブ翻訳者が間違えやすい訳や文法を5回にわたりピックアップ。今回のテーマは「偽の友達」です。友達の顔をして翻訳者を惑わせる厄介な存在について、英語ネイティブ翻訳者、ポール・ウォラムさんがとりあげます。

まずは、企業の経営陣が、翌年の事業計画をステークホルダーに説明するための文章を英語に訳す場面を想像してみてください。その文章のタイトルとして「トップメッセージ」という表現がよく出てきます。あなたなら、この「トップメッセージ」をどんな英語に訳しますか?

英語にはfreebieという言葉があります。ただでもらった「儲けもの」というような意味です。この「トップメッセージ」のようなカタカナの言葉を見て、freebieだと感じる翻訳者もいるかもしれません。英語の言葉なので訳す必要はない、英語のスペルに書き換えさえすればOK!――でも、本当にそうなのでしょうか?

翻訳者の間で、false friends(似ているが意味の異なる言葉)の危険性がよく話題になります。英語に近い言語(特にフランス語)と英語との間の翻訳でよく出てくる話です。英語とフランス語は数百年にわたって影響しあった結果、互いの言葉から借りてきた言葉や表現がたくさんあります。こうした言葉の借用のほとんどはフランス語から英語という方向で生じました。ただし多くの場合、フランス語から借りてきた単語に近い意味の単語は、すでに英語のなかに存在していました。そうした状況では、借りてきた単語と元からある単語がまったく同じ意味を持ち、まったく同じ用法で使われるということは非常にまれです。借りてきた言葉が特定の意味だけに使われたり、少しだけ意味が変わって、それまでぴったりの単語がなかった概念や事柄を表したりするケースが多いのです。たとえば、フランス語のdemanderは英語の「要求する(demand)」ではなく、「聞く(ask)」という意味で、librairieは英語のlibrary(図書館)ではなくbookshop(書店)です。

これと同じ現象は日本語にも見られます。ご存じのとおり、日本語には英語をはじめ、外国語から借りてきた外来語がたくさんあります。

それでは冒頭で挙げた「トップメッセージ」はどうでしょう。そのままtop messageと訳すと「一番上にあるメッセージ」という意味になってしまいます。ここでいう「トップ」とは企業経営の一番上にいる"top management"つまり一番上にいる人(または人々)ですから、たとえばmessage from the president/chairman, message from senior managementというふうに訳した方が望ましい場合が多いです。

「私たちは来年から、新たな目標に果敢にチャレンジする所存です。つねにチャレンジ精神を忘れることなく、尽力してまいります。」

× From next year, we will boldly challenge our new objectives. We will always do our best, not to forget a challenge spirit. 

○ Next year the company takes on a new challenge as we aim toward a bold set of fresh objectives. We must not lose sight of this ambition as we strive to do everything we can to achieve the targets we have set ourselves.



「当社の製品の魅力をアピールしていきたい。」

× We would like to appeal the attractiveness of our products.

○ We want to do more to underline/highlight/publicize the attractiveness of our products.
○ We want to make more people aware of what makes our products attractive.



「今年に入ってから、サービスの質に関するクレームが相次いでいる。」

× We have continuously received claims about the quality of services since the start of this year.

○ We’ve received a steady stream/large number of complaints about the quality of our services since the start of the year.



「昨年は競合他社ほどの成績があげられなかったので、今年はリベンジしたい。」

× Because our performance was not as good as our competitors last year, we want to revenge them.

○ Our results last year failed to match those of our competitors. We are determined to make up for that this year.



「状況を詳しく把握するために、専門家からのヒアリングを何度か実施する必要がある。」

× In order to understand the situation in detail, we need to conduct several hearings from experts.

○ We will have to carry out repeated consultations/interviews/meetings with specialists to get a better grasp of the details of the situation.



「自分の考えをはっきり表現できないようなナイーブな性格ではいけない。」

× You should not be so naïve that you cannot clearly express your opinion

○ You shouldn’t be afraid to express your ideas. Don’t be so sensitive!



「あのグループのライブはいつも違う曲を演奏するので飽きることがない。いったい何曲のレパートリーがあるのか、想像もつかない。演奏技術も非常に高く、本当に魅力的なステージを見せてくれる。」

× Lives of that group never make you bored, because they play different numbers every time. I cannot imagine how many repertories they have. Their performing technique is extremely high and they show truly attractive stages.

○ I never get tired of watching that group’s live performances. It’s impossible to imagine how many songs they must have in their repertoire. They’re extremely skillful musicians too, and they always put on a really enjoyable show.

(「なぜ?」と思った方は、ぜひ英英辞書を引いてみてください!)

日本語と英語のどちらが母国語であるかを問わず、日英翻訳者には、原文にカタカナの言葉があるとfreebieが出てきてラッキーだと考える傾向があります。もちろん、そのまま英語として使えてラッキーな場合もあります。しかし、それらしく見える言葉に罠が待ち受けている場合も決して少なくありません。一度も見たことのない単語であれば、訳すのが容易ではないと覚悟するでしょう。そうでなくとも、難しそうに見える単語であれば、訳す前に辞書で調べるはずです。ところがfalse friendであれば、何の問題もないと錯覚してそのまま英語にしてしまう。

私は一時期、カタカナの言葉が出てきたら、そのカタカナの言葉のもととなっている英単語を絶対に使わないで訳す、という遊びのようなルールを自分に課していたことがあります。この方法は明らかに現実的とは言えず、もととなっている英単語が最適な訳語であるケースは多々あります。

それでも、カタカナの単語を訳すときには、他の単語を訳すときと同じように注意深くあるべきです。むしろ、カタカナの単語は簡単に訳せるように見えるからこそ、さらに注意を払うべきかもしれません。False friendと同じように、注意深く観察して正体を見抜かないと、道に迷って痛い目に遭うかもしれません。唯一の対策は、カタカナの単語を十分に理解することです。そうした単語をあなたのtrue friendにすることが重要な一歩だと言えるでしょう。


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ポール・ウォラム(Paul Warham)

イギリス出身。オックスフォード大学、ハーバード大学で日本文学を研究。英語の旅行ガイドブック記者、翻訳会社勤務を経て、現在はフリーランス日英翻訳者として実務翻訳から出版翻訳まで幅広く活躍。サイマル・アカデミー翻訳者養成コース講師。

 


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