翻訳には欠かせないリサーチ。効率的に行う方法はないものか……と模索されている方も多いのではないでしょうか。先週に引き続き、翻訳者の沢田陽子さんがその方法を伝授します。ぜひ実際に試しながら読んでみてください。
効果的なリサーチ
十分なリサーチなくして質の高い翻訳は生まれません。訳文を作成する上では一般用語を辞書で調べたり、専門用語をインターネット上で検索したりしますが、何よりも大切なリサーチの目的は背景情報の収集と事実確認です。翻訳者は常に、起点テクストの分野の専門家と同等の知識を踏まえた訳文の作成を求められます。
それを確実に実現するためには、起点言語と目標言語の単なる置き換えに留まらない丁寧なリサーチが必要となります。
背景情報の収集は、前提となる知識や情報を翻訳者が取得するために行うものであり、対象分野を扱った起点言語・目標言語での資料(comparable text)や対訳のある資料(parallel text)を調べます。
他方、事実確認は、起点テクストの内容について必要に応じて確認をすることです。例えば、新聞記事の翻訳で、文中に「on Saturday」とあったとします。その日の新聞を読んでいる起点テクストの読者は、「on Saturday」がいつを指しているのかすぐにわかりますが、タイムラグのある目標テクストの読者にとって「土曜日」といわれても、いつのことかすぐには分からないかもしれません。
読み手に負担をかけないことは重要ですので、調べて具体的な日付をいれます。同様にearlyやlateといった表現も、「初旬と前半」「後半と末」では期間にだいぶ開きがありますので、リサーチをして確認をとるようにします。
日付や場所といった比較的簡単に調べられることだけでなく、具体的な内容を確認することも大切です。例えば、次の文章を翻訳すると想定します。
このような文章の場合、mining disasterやweather-related disruptionsが具体的にどういうことなのか、丁寧に調べて確認することが大切です。「鉱山の災害」や「気象関連の混乱」などと文字通り訳すだけでは不十分なのです。
リサーチによって判明した内容について、別途お客様にお伝えした方がよいと思われる場合には、コメント機能を使って簡潔にお伝えします。ただし、インターネット上の情報は玉石混淆ですから、信頼性の高いサイトを見つけることが肝要です。
こうして丁寧に調べた結果、訳文そのものには、その成果が直接現れないことも多々あります。しかし、丁寧なリサーチに裏付けられた質の高い訳文は、お客様からの信頼獲得につながると考えています。
では次に、限られた時間の中で効率的、効果的にリサーチするために、Google上で使える検索テクニックをいくつかご紹介します。
リサーチの方法
1. フレーズ検索(完全一致検索)
二語以上の語句や文章を" "で囲んで検索すると、完全一致の使用例のみがヒットします。
例えば、"location owner"と入力すると、完全一致した結果のみがリストアップされます。locationもownerも一般用語ですから、引用符で囲っていないと、それぞれの単語がばらばらに検索結果に表示されてしまい、その中から完全一致を探すのは非効率です。
また別の例として、テクストそのもの、あるいは文中にでてきた引用部分について、その出典を確認したいときがあります。その場合には、一文を引用符で囲んで検索します。
そうすると、この一文がAmartya Sen著の「How to Judge Globalism」の冒頭であることが分かります。出典が分かることでその背景がわかり、起点テクストの理解を深める上で役立ちます。
2. 言語の指定:日本語に限定
フレーズ検索をした上で、その訳語を探すためには、ツールで日本語に限定します。
例えば"purchasing power parity theory"を検索する場合、下記のようにすると日本語サイトが表示され、訳語を確認することができます。
3. 期間指定:期間を限定
米国と中国の貿易摩擦に関するテクストを翻訳するとします。これまでの経緯の中で特定の期間の出来事を確認したいときには、期間を限定して検索すると効率的です。
米中貿易摩擦に関する情報はたくさんありますが、期間を限定することで予め絞り込んだ情報だけリサーチすることができます。
4. ドメイン制約検索
特定のドメイン下で検索するためには、調べたいワードの後に、site:ドメイン*(完全・部分)を入力します。
例えば、政府系サイトに限定して検索する場合には、以下のように入力します。
・"Sarbanes-Oxley Act" site:gov(米国の政府機関)
*ドメイン名の種類は、こちらのサイトで確認することができます。
また、特定の企業のウェブサイト内で検索したい場合には、site:の後にその企業のURLを入力します。
企業のウェブサイトが、サイト内検索できるように作られていない場合には、ドメイン制約検索が便利です。
5. マイナス検索
特定のドメインを除外して検索するためには、調べたいワードの後に、-site:ドメイン(完全・部分)を入力します。
・日本の政府系サイトを除外したい場合
"サーベンス・オクスレー法" -site:go.jp"Sarbanes-Oxley Act" -site:wikipedia.org
6. ワイルドカード検索
文や検索キーワードの一部にアスタリスク(*)を入力すると、アスタリスクを単語に置き換えた検索結果が表示されます。
"London interbank * rate"と入力すると、*に入る正しい単語を確認することができます。また、"put * on the table"と入力することで、アスタリスクにさまざまな語句を入れた使用例をみることができます。
7. 画像検索
検索キーワードを入力し、画像を選択します。
例えば、"雨水幹線"と入力し、画像を選択すると、大きなトンネルの画像が表示されます。雨水幹線に関する説明で具体的なイメージが翻訳者にない場合、訳文がぎこちなくなったり、誤訳につながったりすることもあります。そうしたことを回避する上で画像検索は有用です。
繰り返しになりますが、リサーチは品質向上はもちろんのこと、翻訳者の信用という意味でも大切です。上記のテクニックが効率アップの一助となれば幸いです。
英系証券会社、米系コンサルタント会社などを経てフリーランスの実務翻訳者に。サイマル・アカデミーにて実務翻訳講座を担当。英国の大学院でApplied Translation Studiesの修士号を取得。
として働くなら
サイマルへ
サイマル・グループでは、世界との交流を共に支える通訳者・翻訳者を募集しています。あなたのキャリア設計や就業スタイルにあった働き方で、充実したサポート体制のもと、さらなる可能性を広げてみませんか。