物語をつなぐ――出版翻訳の世界――

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翻訳と言えば、産業翻訳、映像翻訳、そして出版翻訳ですが、今回はその中から出版翻訳の世界について、出版翻訳者選定オーディションを主催している株式会社トランネットの代表取締役・上原(中原)絵美さんがお話します。

翻訳には大きく分けて3つあります。産業翻訳、映像翻訳、そして出版翻訳。ひょんなことから入ったその出版翻訳の世界で、気がつけば15年以上を過ごしてきました。学生時代はそんな職業があることも知りませんでしたが、今では「出版翻訳コーディネーター」が天職だと思っています。翻訳者ではなく、コーディネーターとして見てきた出版翻訳の世界を、ちょっとご紹介します。

出版翻訳の魅力

映像翻訳も同じかもしれませんが、出版翻訳の大きな魅力は、翻訳者として作品に自分の名前が入ることと、物語を訳せることだと思います。

出版翻訳は、ある言語で書かれたものを別の言語に変換するというよりは、別の言語でもう一度生み出す作業といったほうが近いように感じます。ですから、私は、原著者、翻訳者、編集者はひとつの作品を作り上げるチームだと考えています。原著者が脚本家、翻訳者が俳優、編集者が演出家、というイメージでしょうか。それぞれが、作品を成立させるために欠かせない存在で、だからこそ「訳者」として書籍に名前がクレジットされるわけです。

訳書が刊行された方から、「書店に並んでいるのを見て涙が出ました」というご連絡をいただくことがあります。コーディネートさせていただいただけの私ですら、自分が担当した本を書店で見かけると嬉しくなるのですから、ご自分の名前が表紙に載っていたら、その喜びや感動は桁違いでしょう。この喜びや感動のために、皆さん日々コツコツと翻訳されているのだと思います。

もうひとつの魅力は、物語を紡ぐ快感です。フィクションに限らず、ノンフィクションでもハウツー本でも、書籍には必ず物語があります。著者の人生や主張、作り上げた理論やメソッド、気づきやアイディア、そうしたものを訳していると、自分の世界も広がりますし、作業も楽しく進められます。また、試行錯誤の末、自分が読み取ったことを表現するのにぴったりな日本語を思いつくと、ぐちゃぐちゃに散らばっていたパズルのピースがピタリとはまるような快感もあり、病みつきになります。

出版翻訳の受注の仕方

大きく3つの方法があります。

1. 出版社から直接受注する

いちばんシンプルなのは、出版社から直接ご依頼いただく方法です。ただし、これは出版翻訳の実績がないとなかなか難しいと思います。初めての出版翻訳で出版社から直接受注できるとしたら、すでに実績のある翻訳者にご紹介いただくか、自分で積極的に営業をかけるしかありません。

2. 訳したい本を出版社に売り込む

よく「持ち込み」と言われる方法です。自分が訳したい本の資料を作成し、その企画を出版社に売り込みます。持ち込みをされる際には、その書籍の内容要約はもちろんですが、次の3点もつけておくのがお勧めです。

・セールスポイント

単に、自分が面白いと思った、この本が好き、だけではなかなか検討してもらえません。なぜ面白いと思ったのかを掘り下げると、日本人読者に興味を持ってもらえそうなポイントや、日本でその本を出版翻訳するべき理由が見えてくるはずなので、それも編集者に伝えてください。

・原書の売れ行き

わかる範囲で、現地でどれだけ売れているか、話題になっているかをつけておくと、検討してもらいやすくなります。

・試訳

編集者にとって、出版翻訳の実績がない人に翻訳依頼をするのは、はっきり言ってしまえばリスクです。翻訳の質も、一冊訳しきれるかどうかもわかりません。ですから、編集者に安心してもらうために、そして、自分に翻訳を依頼してもらうために、書籍の一部でも構いませんので試訳をつけておくといいと思います。

3. 翻訳会社のオーディションやトライアルを受ける

出版社へのコネクションもない、持ち込みも難しいとなったら、これが近道です。まずは一冊、「自分の訳書」を持っておくと、出版社への持ち込みや翻訳者としての営業活動もやりやすくなります

本と翻訳者、出版社のマッチング

インターネットのおかげで、海外の情報も、書籍自体も手に入りやすくなりましたから、興味のある本はどんどんチェックしてみてください。もしかしたら、埋もれた逸品を見つけられるかもしれません。そして、「これだ!」と思う未邦訳の本を見つけたら、その魅力を編集者に精一杯伝えてください。

「この本を訳したい」のではなく、「出版翻訳がしたい」のであれば、すでに出版が決まっている本の翻訳者を目指すこともできます。弊社では出版翻訳オーディションを開催していますし、ほかにも書籍の翻訳者を募集していらっしゃる翻訳会社があります。

ときどき、弊社の出版翻訳オーディションを受けてくださった方から、「この本を訳したい、ではなく、この本は私が訳すんだと感じた」というお話をお聞きすることがあります。運命の出会いです。そんなとき、私たちは出版社と翻訳者のマッチングだけではなく、翻訳者と本のマッチングもしているのだなと感じます。弊社のオーディションの情報は、FacebookTwitterでも公開していますので、よかったら覗いてみてください。



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上原(中原)絵美(うえはら[なかはら]えみ)

就職活動に失敗し、大学卒業後は無職。ホテル業界でアルバイトをしながら出版に関われる仕事を探していたところ、トランネットの求人を発見し、応募。面接ではその年の芥川賞の話で盛り上がっただけなのに、なぜか採用される。その後、翻訳コーディネーターとして400冊以上を担当し、2020年、代表取締役就任。

 

 

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