第1回  ヘルスケア業界における通訳の場面【ヘルスケア業界における通訳:クライアントからのメッセージ】

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今回より3回にわたりお届けする『ヘルスケア業界における通訳 ――クライアントからのメッセージ―― 』 。長年ヘルスケア業界に身を置き、現在は製薬・医療機器メーカーへのコンサルティング業に従事。通訳の現場にも数多く立ち会ったスリーロック株式会社の松田良明さんが、特にセールス・マーケティング部門で発生する通訳業務に関して押さえたい知識、通訳者に求めることなど、通訳を必要とする企業の目線からお話しします。

はじめに

ヘルスケア業界に長年勤務し、この領域での通訳者と協働してきた者として、『ヘルスケア業界における通訳 ――クライアントからのメッセージ―― 』 をお送りします。第1回は、この業界における通訳の場面について簡単に紹介し、第2回ではそれぞれの場面において通訳者が押さえておきたい知識、Tips について具体例を述べ、そして第3回では、ヘルスケア業界の企業として通訳者に望むこと、すなわち、顧客満足度を上げるための観点について述べさせていただきます。内容は、私が属していたコマーシャル部門(セールス・マーケティング部門)からの視点に限ること、また、あくまでも私個人の経験に基づいた私見であることをお断りさせていただきます。

業務の場面

この業界で通訳業務が行われる場面として、会社内での業務、そして会社外の対ステークホルダー(医療従事者、患者)を対象とした業務に大きく分けることができると思います。また純粋に、サイエンスを取り上げる学会等での講演時も通訳者の皆さんが活躍する大きな場面です。

社内の通訳

会社内で通訳者が活躍する場面としては、外資ではグローバルやAsia Pacific Regionのマネジメントスタッフと日本法人社員との間の会議やコミュニケーション、内資系では、日本の本社と海外販社のメンバー間の会議等々が多いのではないかと思います。この業界での通訳・翻訳業務はサイエンス関連がメインとなりますが、この社内会議の場合には一般的な業種同様、その会社の商習慣やdecision making process、独特な業界用語や社内用語(特にabbreviation)などをある程度事前に押さえておいた方が良いでしょう。

 

とはいえ、当該疾患領域や製品知識、さまざまな規制、ヘルスケアマーケティングの知識も押さえておく必要があります。それらは、事前準備で大方はカバーできるものが多く、また通訳の場数を多く踏むことにより、徐々にでも身に着けることが可能であると思います。当該クライアントの窓口になっている方との事前打ち合わせは、その通訳がうまくいくかどうか、またリピートの依頼が来るかどうかのキーとなります。

 

筆者は、いくつかの外資系製薬会社を経験していますが、転職のたびに同じ業界用語でも規模感が違ったり、業務責任範囲が異なっていたりして面食らうケースも多くありました。また、部門間での 「言語の違い」もよくありえるかと思います。いわゆる、部門が違うことによる観点、興味、見方等の違いによる共通言語の欠如から来るものです。このあたりは、日本語で話す際にも苦労することであり、異なる言語の橋渡しをする通訳者には、なおさらそのあたりを認識しておくことも重要だと思います。

 

また、社内における部門での役割、責任範疇についても会社により異なってくるケースも多々あります。外資系では営業とマーケティングは大きく部門として分かれている場合が多いかと思いますが、一方内資系では営業本部にマーケティングが属していることが多々あり、我々業界人でもそのあたりの 「常識」に囚われていることによる誤解が生じたりしているくらいです。以上のようなことは、通訳者側で各クライアント(製薬メーカー、医療機器メーカー)と確認するためのチェックリスト等を作成し活用するのも有益でしょう。

社外の通訳

会社外、すなわち社外のステークホルダー(医療従事者や患者)向けの場面での通訳を依頼するケースはよくあります。来日する海外のKOL(Key Opinion Leaders)の講演を通訳していただくケース、そして学会での通訳等々です。こちらはレベルの違いはあるにせよ、まさにサイエンスそのものがテーマであることが多く、通訳者にはその分野・領域における高度で最新の知識、および日本での現況認識が求められます。聴衆であるメディカル・プロフェッショナルや我々製薬メーカーの社員でもフォローできていないような最先端の内容であることがあるため、そのような高度な専門知識をお持ちの通訳者は限られています。各社、優秀な通訳者の 「取り合い」をするといった状況があるのもそのためです。

 

この業界における特徴

前段でも述べたとおり、この業界の特徴の一つとして、プロモーションコードや、広告規制等、各国で大きく異なるケースがあることが挙げられると思います。社内会議等々で、海外側と日本側とでどうも話しがかみ合わないケースでは、そのあたりの認識のギャップに起因することもあるでしょう。通訳者の皆さんもこのような特徴を認識し、敏感になっていただきたく思います。場合によっては、そのギャップを埋めるために簡単な説明を付けながらといった 「コーディネータ的な」通訳も求められることもあるかもしれません。 本来そのようなことはクライアント社内でのすり合わせがなされているべきではありますが、そこが欠けているケースもよくあるのです。

 

次回は、それぞれの場面において通訳者が押さえておくべき知識・Tips について具体例を入れながら述べます。

 
松田良明(まつだよしあき)

スリーロック株式会社 エグゼクティブコンサルタント。
中央大学商学部卒業後、米国州立モンタナ大学にて MBA 修了。サイマル・インターナショナル創立者の一人である國弘正雄氏(故人)に師事。「同時通訳の神様」 との異名をとった同氏のカバン持ちとして、内外要人との数々の通訳の場面にも立ち会い、翻訳のサポート等も行なう。

主な職歴は、外資系大手製薬会社にて MR、プロダクトマネージャー、外資系ジェネリック医薬品メーカーにてマーケティング部長、医療機器メーカーにてマーケティング本部長、ヘルスケア調査会社にてリサーチディレクター。現在は、製薬・医療機器メーカーへのコンサルティング業務、Sales & Marketing関連の研修をメインに実行している。

【続きはこちらから】第2回

 

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