ペーパーレス化のすすめ――「e通訳」への道のり:後編 

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通訳者の皆さま、膨大でかさばる紙の資料に悩まされていませんか? 今回は、様々なデバイスやツールにより通訳資料のペーパーレス化などを実現してきた通訳者・加藤紀子さんが登場し、ペーパーレス化のメリットや実践ポイントなどを前・後編でご紹介。後編では、リモート通訳の現状についてもあわせてお伝えします。


★前編はこちらから 

iPadを使うメリット

まずはあらためて、沢山あるiPadの長所を振り返りましょう。

・カラーで見やすい
・ 拡大できる、老眼にありがたい
・全ての資料を持ち運べるので、いつでもどこでも準備ができる
・紙を使わないのでエコ
・ デジタルならではの作業効率向上
・パフォーマンスの向上
・紙の音がマイクに入らない
・業務終了後、資料を一括削除できる
・iPadは立てて使えるので「いい声」が出る

なお、大きな短所はありませんが、唯一気になるのが、長時間に渡って画面を見ることによる目の疲労です。また夜遅くまで準備していると覚醒してしまい、眠りにつきにくいことがありますので、注意が必要です。但し、紙の資料のように夜間にまとめて送られてくるわけでは無いので、分散作業が可能です。また参考資料の論文等は、読み上げアプリ使用すると、目を瞑り、目を休めることもできます。「聞きながらウォーキング」もお勧めです。

コロナ禍で加速するリモート通訳

元々あった世の中のデジタル化やオンライン化への流れが、コロナ禍で一気に加速したと言われていますが、通訳業界でもリモート会議が急増しています。たとえ今後コロナが収束しても、リモート会議はある一定量は残りそうです。

リモートの環境下では、通訳が聞く「オリジナル音声の質」が課題ですが、コロナ前がFMラジオとすれば、リモート環境ではせいぜいAMラジオ、ひどい時は短波放送のように聞こえるので、周りの音を少しでも抑えるためにも、ペーパーレス化は有効です。

また、以前のリアルな会議では、参加者の多い大きな会場で、PAシステムからオリジナル音声が流れる中で通訳音声をレシーバーで聞いていたお客様も、リモート環境では、オフィスや自宅で通訳音声のみを聞かれる際に「紙の音」がとても気になるそうです。紙の資料の代わりにiPad等のデバイスでペーパーレス化することにより、雑音のないアウトプットとなり、顧客満足度が上がるのではないでしょうか

もう一つコロナ禍で変わった事として、ビデオ通訳や収録が増えています。
資料として送られてくるビデオファイル はGoodNotes5に置くことはできないので、「ファイル」の「ダウンロード」の中に別途、案件別にファイルを用意して、そこに入れておくのが良いでしょう。

また、AIを使うことにより、ビデオ通訳の準備作業の効率を高めることができます。スクリプトが無いオリジナル音声の場合は、書き起こし用のアプリケーションが便利であり、音声の明瞭さにもよりますが、80%程度の書き起こしが可能です。その後は、使いやすく加工してから、サイトラという流れになります。少しでもAIにできることはAIに任せて、よりパワーアップしましょう

ちなみに日本語がオリジナル音声の場合は、残念ですが、全く役に立ちません。
日本語の口語は非常に曖昧でファジーであるため、AIでは全然対応できないようです。機械翻訳も試していますが、同様の理由で、依然、全く実用性がありません。
あらためて、その曖昧な日本語をしっかりと聞き取り、細かいニュアンスまで解釈して、外国語に同時通訳している我々「人間の通訳」は凄い! と思います。

もう少し将来を展望すると、現在のリモート会議は二次元ですが、今後のVRやARの技術の発展で、三次元の、より没入感のあるリモート会議が予感されて楽しみです。

実はコロナ禍で自粛中、運動不足を解消するためにVRで運動を始めました。
VRゴーグルを装着すると、実際には直径2メートル程の運動範囲であるにも関わらず、まるで広いジムにいるような感覚を味わえます。VRChatも今までにはない不思議な体験です。このような技術が会議の現場でも導入されていくのではないでしょうか。その際には素敵なアバターで現場に臨みたいです。

まずはペーパーレス化に取り組んでみる

経験上、ペーパーレス化のためには「背水の陣」にすることが早道だと思います。「原則、私はペーパーレス」を宣言して、 困った時には紙の資料を送ってもらうという体制で移行すると、スムーズです。 すぐに慣れて、紙の資料を送ってもらう事は殆どなくなると思います。私は5年前にペーパーレスに移行しましたが、こちらの都合で紙の資料を送っていただいたことは一度もありませんでした。

ペーパーレス化にはTipping Point があると思います。「e通訳」の効率・効果を実感した後は紙には戻れません。もちろん、何も印刷しないわけではありません。 プログラム、出席者リスト、単語帳やワードの読み上げ原稿は紙に印刷して手元に置いた方が便利だと思います。

今回ご紹介したプロセスは試行錯誤の末に辿り着いた結果です。基本の形はすぐにでき上がりましたが、使用するアプリについては、紆余曲折がありました。必須アプリがAppStoreから急になくなったり、より良いものが出たり、更新される事もありました。

e通訳仲間との情報交換からも多くのヒントを得ました。
皆さまも使っている間に、もっと良い方法が見つかれば、 是非共有していただきたく、更にこのプロセスを進化させていきたいと思います。

 



加藤紀子さん
加藤紀子(かとうのりこ)

商社勤務後、1985年からサイマル・インターナショナルの専属通訳者、1988年から夫の海外赴任、出産と育児のため一時休業、1994年より専属通訳に復帰、現在に至る。経済・金融・証券・ITなど各種ビジネス分野の通訳業務を幅広く担当している。




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